第106話 虎視眈々
どうも、ヌマサンです!
今回はナターシャとレティシアがヌティス城から出てこないカルロッタたちを相手に策を練り直します。
ロベルティ王国軍の次なる一手やいかに!
それでは、第106話「虎視眈々」をお楽しみください!
「レティシア、帝国軍は内部分裂に乗じて奇襲する策には乗って来ないようですね」
「う~ん、看破されたのだとしたら、見破ったのは誰かってことになるんだけど……」
レティシアは一体、誰が自らの策を見破ったというのか。思案してみるが、思い当たる人物には心当たりがない。
あるとしても、すでにハロルドによって討ち取られたローレンスくらいだが、死人に策を見破るなどという芸当は不可能。だとすれば一体誰が……
「レティシア、しっかりするのです。この程度の策に敵がかからなかったくらいで、悩んでいるようではいけませんよ」
「う、うん。そうだね、これは策士策に溺れるってヤツかも。それに、敵を見くびっていたのも大きいかもしれない」
己の慢心に気づいたレティシアはナターシャに少し時間がほしいと言い、本営を後にした。とはいえ、ナターシャも軍の総大将としてレティシアに作戦のことを任せきりにするわけもなく、そのまま本営で作戦を練り続けていた。そして、その日の夜。
「ナターシャ様、レティシア殿が来たみたいですぜ」
「来ましたか。ダレン、レティシアをここへ」
報告を受け、ダレンを迎えにやり、レティシアが姿を現すのを心待ちにするナターシャ。それから1分も経たずして頼れる軍師はやって来た。
「ナターシャ、ここは城攻めをせず、ダルトワ領西部を切り取ることにしよう」
「城攻めをせずにダルトワ領の西を……?」
カルロッタ率いる3万5千が立て籠もる巨大なヌティス城は堅城として名高い。一般的に城攻めは少なくとも3倍の兵力は欲しいと言われる。だとすれば、巨大なヌティス城を攻め落とすなら10万を超える兵力が必要ということになる。
今現在、ナターシャたちロベルティ王国軍は、その数6万4千。マリアナ率いる近衛兵8千が引き挙げたものの、ハウズディナの丘方面からトラヴィス隊9千2百とヴェルナー隊5千9百が合流し、今の数にいたる。
6万4千もの大軍。並みの城ならば難なく陥落させられるだろう。なにより、小さい城なら脅しをかけただけで投降してきそうな数である。
しかし、立て籠もる帝国軍は3万5千。この兵力差なら籠城戦に持ち込めば、帝国軍の勝利は疑うべくもない。よって、レティシアはあえて城攻めをしない策を講じた。
「この際、ヌティス城は無視するのが良いと思う。そして、偵察兵によれば――」
両者の間に広げられた地図。その上においたレティシアの指は、街道筋を指していた。
レティシアが指し示した街道はダルトワ領の中心であるヌティス城下と帝国の中心地である帝都フランユレールを結ぶ巨大な街道である。この人と物資の往来が激しい街道は、まさしくダルトワ領の戦いにおける生命線。
ここを絶ってしまえば、ヌティス城は援軍も来ず、支援物資も途絶える。そのうえでアリのはい出る隙間もなく取り囲んでしまえば、ヌティス城はいずれ陥落させられる。
「……つまりは力攻めではなく、ダルトワ領西部を制圧することで兵糧攻めをしようということですか」
「半分正解だけど半分は不正解」
策を見破ったつもりでいたナターシャにとって、レティシアの言葉は心底意外だった。それと同時に、どういうことかと思考がさらに活発化する。
「私が指さしたのは街道ではなく、ここを通る者たちのことだよ」
レティシアは語った。偵察兵から何の情報を得たのかを。それを聞けば、ナターシャもニヤリと無意識に笑みがこぼれた。
「これなら巨大な甲羅に籠った亀も食いつかざるを得ませんね」
「でしょ?こんないい獲物、仕留めずに帰すのは勿体ないよ。ここは一挙両得を狙わないと」
その後もヒソヒソと示し合わせた後、ナターシャは軍議を行なうべく諸将に本営へ集まるように使いを出し、レティシアは早くも動き出すべく準備を開始するのだった。
「ナターシャ!今度は何をするんだ?」
「やはりあなたが最初に来ましたか」
「そりゃあ、戦となれば一番槍でないと嫌だろ」
やたらと一番槍であることにこだわるリカルドであったが、実力は確かである。これまでも騎兵を率いてあらゆる作戦をこなしてきた。しかも、ロベルティ王国に仕官してからというもの、負けなしの常勝将軍である。
そんなリカルドに少し遅れて到着したのは、マルグリット。こちらも戦に飢えているといった様子で、競歩で本営に乗り込んできた。
その後も、トラヴィス、ローラン、ノーマンのハワード家の面々や、ヴェルナー、ハロルド、エルマーといった諸将が順に到着。
それからも、アルベルト、ルービンといった猛将たちも到着し、いよいよ軍議は開始の運びとなった。ナターシャはまず、レティシアと示し合わせた作戦を伝えると、諸将にも改めて意見を求めた。
「オレは賛成だぜ?なんなら先鋒も任せてくれていい」
「アタシも問題ないと思うよ。城攻めにするよりかは勝ち目がありそうだからねぇ」
リカルドとマルグリットの両名は快く作戦に応じた。残りの将たちはといえば。
「ナターシャ殿、オレがヌティス城北に残るというのは納得がいかん。是非とも、攻め手に加えてくれ」
「ルービン殿に同じく、自分も攻め手に……!」
異議を唱えたのは、ヌティス城の北側に陣取り、敵の動向を見守るように言いつけられた者たちだ。
ルービン率いるフォーセット領の兵と、アルベルト率いるラローズ領の兵たちはライオギ平野の戦いでの消耗が激しいことから、留守を任された。しかし、本人たちは不服だと訴えた。彼らのほかには、防衛線に長けたヴェルナーも残ることになっている。
とはいえ、ルービンとアルベルトの両名とは異なり、攻め戦は得意ではないヴェルナーは喜んで留守居役を快諾。
その後も、ナターシャはアルベルトとルービンの両名には、兵たちの疲労を顧みるように諭し、重要な留守居役を全うしてほしいと告げた。
加えて、守り抜ければ戦功第一といってもいいとナターシャが口にした途端、2人とも手の平を返したように後のことは任せてくれと残ることを了承するのだった。
こうして留守にはヴェルナーを主将とし、副将としてアルベルトとルービンの部隊を左右に布陣させることで決定。その数、およそ1万6千。
そして、ヌティス城を素通りして西へと向かう軍勢は4万8千。本隊を含めた大部分が城を攻めずに通過していくとなれば、名将カルロッタをはじめ、城内の武将たちのプライドが許さない。
「レティシア、はたして上手く行くでしょうか」
「うん、十中八九上手く行くよ。それに、カルロッタたちをおびき出せなくても問題はないというのが、この作戦の肝だよ」
「なるほど、敵がどう動こうが勝ちは揺るがない、ということですか。ならば、軍師のお手並み拝見といきましょう」
そのような馬上での会話をかわしながら、ナターシャは4万8千の大軍の先頭を颯爽と進んで行く。
そして、そのはるか先には帝都フランユレールへ撤退する途上にあるガレス率いる1万の隊列があった。
「カルロッタ様、敵が城の前を素通りしていきます!」
「何ですって!?」
ナターシャたちの動きは、すぐにも城内にいるカルロッタたちの知るところとなった。城の外を眺めれば、ジュリアからの報告通り、ロベルティ王国軍が大挙して西へと進軍していくのが見えた。
「確か、この先にはガレス様率いる部隊が帝都への撤退途中のはず。まさかとは思うけど、敵の狙いはガレス様……?」
敵の動きから狙いを察することはカルロッタには容易いこと。しかし、こうして見破られることも、レティシアの手のひらの上であることにはまだ、気づいてはいなかった。
第106話「虎視眈々」はいかがでしたでしょうか?
今回はロベルティ王国軍がヌティス城を素通りする策を実行していました。
はたして、この動きを見たカルロッタはどう動くのか。
――次回「虎口を逃れて竜穴に入る」
更新は3日後、6/3(土)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!