第105話 碁で負けたら将棋で勝て
どうも、ヌマサンです!
今回はロベルティ王国側に動きがあります。
一体、どんな動きを見せるのか、注目していてもらえればと思います!
それでは、第105話「碁で負けたら将棋で勝て」をお楽しみください!
ライオギ平野、ハウズディナの丘の二方面で勝利を収めたロベルティ王国軍。女王マリアナを戴き、さらに南方へと進軍し、ヌティス城まであと3日ほどで到達できる距離まで接近していた。
その陣中にて、女王マリアナと軍務大臣ナターシャが今後のことについて話し合っていた。
「マリアナ様、このままいけばヌティス城へ到達できそうです」
「そう……ですか。このままヌティス城も攻め落とすことになるのかしら?」
「現段階ではその予定ですが……」
ナターシャからの言葉を聞き、黙って空を見上げるマリアナ。その瞳はこれ以上の争いは望んでいないかのようであった。
マリアナも戦場における燦たる様を見たのはライオギ平野が初めてである。確かに、一度帝国軍に王城を攻められたことはあるが、戦場を見る間もなく逃がされたのであるから、それは含まれていない。
「ナターシャ、マリアナ様はいつまで在陣する必要があるの?」
「……それは何とも言えません。ですが、あと3カ月以内には兵糧の都合もあるので、撤退しなければなりません」
この発言はマリアナの側で控えていた近衛兵長セシリアのもの。ナターシャから見れば弟嫁にあたる。そんな2人はマリアナの今後について激論を交わした。
セシリアは「13歳のマリアナを長く戦野に留めるわけにはいかないわ」と言えば、ナターシャは「国王の旗があってこそ高い士気が維持できるのです」と返す。
しばらく互いの考えを述べ、一段落がついた頃。参謀であるレティシアが登場。双方の言い分を聞き、セシリアの言い分を採用することを主張した。
「セシリア近衛兵長の言う通り、マリアナ様を戦野に留めおき、玉座を空けておくのは色々と不都合だからね」
レティシアはマリアナにも帰還していただくということを伝え、マリアナはこれを承諾。実を言えば、政務にも疲れていたため、遠征によって気分転換をすることも出来ていた。
何より、マリアナ自身もさすがにこれ以上政務を滞らせるわけにはいかないと考えていたのである。今から引き上げるにしても、二週間ほどの道のり。
すでに王都コーテソミルを出発してから1ヶ月が経過しているわけである。それまでの政務が溜まりに溜まっていると考えれば、ぞっとする。マリアナとしても港湾都市計画が進んでいる今、そちらも放ってはおけないのだ。
「ナターシャ、悪いわね。私も他にやらなければならない仕事があるの」
「いいえ、私も無理を申して申し訳ございません。道中の無事を祈っております」
即日、マリアナは近衛兵8千に守られながら、王都への帰路についた。近衛兵長であるセシリアはサイドテールにした長い緑色の髪を揺らし、馬上で真紅の大斧を引っ提げている様はまさしく勇将。
翌日にはナターシャの元へ、セシリアから先日は言い過ぎたという謝罪の言葉が記された書状が届き、ナターシャもセシリアに対して自分も言い過ぎたと記した返書を送るのだった。
「レティシア、マリアナ様が引き上げたことが知れれば、士気に影響しそうですが……」
「いえ、むしろ士気が下がったことを吹聴しては?」
「吹聴する……?」
納得いかないといった表情を浮かべるナターシャであったが、レティシアの策を聞き、表情が転じるのであった。
一方、女王マリアナが近衛兵8千とともに王都コーテソミルへと引き上げたという報せを受けたカルロッタたちはといえば。
「ミルカ、それは本当のことなの?」
「はい、信頼できる者からの報せです」
思いがけぬ報せに、カルロッタは諸将に集まるように命令を下した。これにより、妹であるミルカ以外には、ジュリアを始めとする諸将が集結。たちまち、軍議が行なわれることとなった。
「ミルカ様のおっしゃったように、敵国の女王マリアナは戦地を退いたのは確かなようです。ただ……」
「ジュリア、それは分かっているわ。恐らく、次に言いたいのは敵の内情について。違う?」
「いいえ、それで合っています。敵は進むか退くか、意見がまとまっていないようです。なので、今不意に奇襲をかければナターシャの首を挙げることも容易いのではないでしょうか」
ジュリアの言うように、現在ロベルティ王国軍の中枢では進退をめぐって、意見が真っ二つに割れていた。
一方はこのまま南下をつづけ、力ずくでもヌティス城を攻め落とそうというナターシャを筆頭とした派閥。もう一方は女王マリアナの引き上げに合わせて帰国すべきというレティシア率いる派閥。
前者の派閥にはモレーノ、ダレン、トラヴィス、ローラン、ノーマン、リカルドといった面々が属しており、カスタルド家、ハワード家が一丸となって指示している状況。
対して後者の派閥にはヴェルナー、マルグリット、アルベルト、ルービンといった者たちが所属。
ロベルティ王国譜代の家臣と王家に血筋を連ねる者がナターシャを支持し、クレメンツ教国を制圧して以降に従った者たちがレティシアを支持しているといった状況になっている。
こうした誰が誰を指示しているといった情報も、どこからともなく漏れ出し、ヌティス城にいるカルロッタたちの元へと伝えられていた。
「なるほど、譜代の家臣と新参の家臣たちの対立。これはつけ込むことができそうね。昨年ユルゲンが討ち取られた借りを返すにはうってつけといったところかな」
「はい、奇襲の際には先手を任せていただくことは可能でしょうか?父や弟たちの無念を晴らしたいのです……!」
主君であるカルロッタにすがるジュリアの心中は、父ユルゲン、弟であるブルーノとロベルトの仇を討ちたいという一心であった。
夫であるローレンスもハウズディナの地にて戦死を遂げているのだが、やはり血を分けた家族への想いに優ることはなかったのである。
そうしたジュリアの心中を察してか、焦るなと自重を促しているのはミルカであった。
そんな彼女は、参謀であるローレンスを自分が血気にはやって前に出過ぎたことで死なせてしまったことを悔やみ、ローレンスの分も知恵を絞らねばと決意を新たにしているのだ。
「……もしかすると、内部分裂を装って私たちを城から誘い出そうという敵の策なのではありませんか?」
一同がジュリアの奇襲案に乗り、完全に奇襲を仕掛けるという方針で軍議を終えようかという時。カルロッタの妹であるミルカはようやく閉ざしていた口を開いた。
「ミルカ、これは敵の作戦だと言いたいの?」
「ええ、このヌティス城を力攻めにするよりは少ない犠牲で制圧するためにも、おびき出そうとしているように感じるのですが……」
ジュリアは頑なに奇襲を仕掛けることを主張し、ミルカは冷静になって敵の罠である可能性を考慮すべきだと言い、今にも取っ組み合いの大ゲンカに発展しそうな勢いであった。
そこはカルロッタも黙ってはいれず、鶴の一声。一瞬のうちに言いあいを静めてしまう。
「ここはミルカの意見を採用することにするわ。私もジュリアも冷静さを欠いていたのは事実。何より、ローレンスが生きていればミルカと同じことを言ったはずですから」
さすがは名将カルロッタ。双方の意見を吟味し、その場で裁断。この決断の速さこそが上に立つ者に求められる重要な素養である。
それはともかく、ミルカに続いて、主君であるカルロッタからの言葉に、ジュリアも徐々に罠であるかのような心地がし、それ以上は奇襲策を強硬に主張するようなこともなかった。
こうして一時はジュリアとミルカとで暴発しかけた空気も静寂を取り戻し、冷静に打開策を思案することとなったのである。
第105話「碁で負けたら将棋で勝て」はいかがでしたでしょうか?
今回でマリアナはセシリアとともに王都コーテソミルへと戻っていきました。
そのことを利用してカルロッタたちを誘い出そうというレティシアの策は不発。
はたして、ここからの戦いはどう展開していくのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
――次回「虎視眈々」
更新は3日後、5/31(水)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!