第104話 死ねば死に損生くれば生き得
どうも、ヌマサンです!
今回はローレンスが戦死するまでの話になります。
一体、彼がどのような最期を迎えたのか、注目していてもらえればと思います……!
それでは、第104話「死ねば死に損生くれば生き得」をお楽しみください!
死んではなるものか。その一心でローレンスとともに戦場を離脱することを試みた兵は9百。うち、4百は敵中突破の際に戦死。
9千いるローレンス隊のうち、トラヴィスやノーマンから促されて投降したのは4千5百と半数にも上った。
ローレンスが戦場を離脱したと聞くなり、これほどの数が武器を捨てて投降を願い出たということは、それだけローレンスには求心力があったということの表れである。
そして、投降することなく、ローレンスとともに戦場離脱しなかった3千6百の将兵は敵の大軍に挟撃を受けて潔く討ち死にする事態に至った。
「ノーマンに伝令!北から迫りくるミルカ隊をただちに迎撃するとな!」
「拝命仕りました!」
伝令兵を発した後、トラヴィスは部隊を指揮して、強敵ミルカを迎撃すべく陣形を迅速に整えていくのであった。一方その頃、ノーマンはと言えば。
「ハロルド殿、敵将ローレンスの追撃を任せても良いでござるか?」
「はい、そこはお任せください。俺が兵を引っ提げて追撃します」
「しかし、今いる5百あまりの兵で足りるでござろうか?」
「それは問題ないかと。戦線を離脱した数は5百ほどだそうですが、そのままローレンスと行動を共にしているのは百もいればよい方かと」
ハロルドの言葉を信じ、ノーマンは改めてローレンスの追撃を下知。この機を逃がせば、参謀ローレンスを仕留める好機など金輪際訪れないだろう。それを見越してのノーマンの指示である。
「よし、ここでローレンスを討ち取れば褒賞は思いのままだ!なんとしてもローレンスを仕留めるのだ!」
ハロルドの言葉の中で、兵士たちの心に刺さったのは『褒賞は思いのまま』という部分。金を望む者、地位を望む者。欲望は様々であったが、欲があることはみな共通していた。
褒賞のこともあり、「我こそローレンス・オニールの首級を挙げてみせる」と意気込み、猛然と追撃を開始したものである。
まさかハロルド率いる部隊が後を追撃してきているとはいざ知らず、当のローレンスはただひたすらに南へと逃げ延びていた。
「ローレンス様」
「……今、どれほどの数が残っているんだい?」
「申し上げにくい限りですが、付き従う将兵は100をきっております。およそ90騎ほどかと」
「90騎か……。やはり敗軍の将に付き従う兵はわずかということか」
包囲を突破する際に右肩へ矢傷を受け、馬上から剣を振るうこともできない状態にあるローレンス。彼を慕って付き従う兵はわずか九十。
敵に追いつかれては、まず逃げ切ることは不可能。それはローレンス以下将兵も理解しており、少しでも早くカルロッタのいるヌティス城へと辿り着くべく先を急いでいた。しかし。
「みんな。ひとまず、ここまで駆ければ問題はないだろうし、ここは休息をとるとしようか」
昼夜問わず南へと駆けてきた配下の兵たちをいたわり、休息をとることに。負傷したローレンスも手近な岩へと腰かけていたところへ、北から鬨の声が上がる。
「ローレンス様!」
「……追手が来たみたいだね」
しばらく目をつむり、黙り込んでいたローレンスであったが、死を覚悟したか、腰に佩いた長剣を鞘から引き抜き、左腕一本でこれを構えた。
ハロルド率いる5百はローレンスたちをグルリと取り囲み、槍の穂先を並べてけん制していた。ローレンスに従う将兵も槍や剣に手をかけ、臨戦態勢であった。
「ローレンス・オニール殿とお見受けした。その首、頂戴すべく参上した」
「……そういう君の名は?」
「俺はハロルド・マクミランだ」
「マクミラン……!この帝国にあだなす裏切者……!」
怒りに任せ、ローレンスは剣をハロルドへと向け、真っ先に斬りかかる。配下の兵たちも死に物狂いで取り囲んでいるハロルド麾下の兵たちへと向かっていく。
これに対して、ハロルドは皆殺しにするよう指示。兵たちも手柄欲しさに向かってくる敵へと突撃していく。あちこちで血の泉が形成される白兵戦の火ぶたが切って落とされた。
「裏切者!覚悟ッ!」
ローレンスが剣を振り上げ、ハロルドへと一太刀浴びせんとしたところ、ハロルドは剣で打ち合うようなマネはせず、目にも止まらぬ速さで矢を番え、ローレンスの左大腿部を的確に射抜いた。
「ローレンス殿、悪く思うなよ」
「おのれ……!」
馬上から手を振り下ろしたハロルド。これを合図にローレンスの身へと幾本もの槍が突き立つ。全身から血を噴出させるローレンスであったが、一度は屈しかけた膝を伸ばし、右へ左へと闇雲に剣を振り回す。
これでは近寄れぬと兵たちも怯んでいたが、他でもないハロルドがようやく下馬して剣を構えた。
「ローレンス殿、この手で斬り伏せさせていただく!」
「や、やれるものならやってみるがいいさ……!」
ハロルドの第一撃は袈裟斬り。これは剣術が不得手なローレンスでも受け止めることができた。しかし、今の一撃でローレンスにはまともに剣を振るうだけの力がないと見切ったハロルドは、斬り上げた体勢から一息に振り下ろした。
この一太刀を防がんと動いたローレンスであったが、軌道を逸らすことには成功。しかし、剣を手から離してしまったのは致命的な失敗であった。
なにせ、次にハロルドが繰り出したのは斬撃ではなく突きであった。上段からの振り下ろしで地面まで切り下げるのではなく、ローレンスの胸部辺りの高さで止め、そのまま一息に刺し貫いたのである。
「ハロルド・マクミラン……!裏切者に相応しい末路をたどり冥府へ来るのを一足先にいって待っているよ――」
「裏切者と誹られようとも、俺が帝国を見限ったのは民のため。領主として領民を守ったのだ。俺がこの決断を悔いることなど、断じてないだろうよ」
そう言い捨てるなり、ハロルドは剣を引き抜いた。剣から滴る血を振り払い、鞘へと納める。ローレンスが討ち取られる頃には、九十いた兵は全員が討ち取られた頃であった。
「ハロルド様……」
「ああ、亡骸は埋めるとしよう。それに、墓碑くらいは立てておかないとな」
ハロルドは討ち取ったローレンスを含む将兵に一礼し、その場で地面へと埋め始めた。そうして作業を終えるなり、ハロルドたちは北へ。ノーマンたちの元へと帰還するべく進軍を再開した。
ハロルドがローレンスを仕留めた時。ハウズディナの丘での合戦も決着の様相を呈していた。ミルカ隊はやっとの思いで敵中突破を果たし、数日後には3千5百の将兵が南にあるヌティス城まで撤退することに成功していた。
「叔父上、ミルカを取り逃がしたのは痛手でござるな」
「うむ。だが、帝国軍の将兵を6千も討ち取ったのは大戦果と言えるだろう。ヴェルナー殿も、機を外さず北から援護に回ってくれたこと心より感謝する」
「いやいや、そうすれば敵を殲滅できるというトラヴィス殿の指示に従ったまで」
謙遜するヴェルナーであるが、トラヴィスからの言いつけ通りにタイミングを見切って動くことができるのも才覚なくては不可能。すなわち、ヴェルナーもまた名将としての才覚があるということでもあった。
「ノーマン様、ハロルド殿の部隊が帰還。無事に敵将ローレンスを討ち取ったとのこと!」
「おお、それは真でござるか……!」
ハロルドがローレンスを討ち取ったと聞き、ノーマンは「してやったり」と我が事のように喜び、叔父であり総大将であるトラヴィスにも嬉々とした表情を見せていた。
同席していたヴェルナーもニヤリと笑みを浮かべ、拍手し称賛する中。トラヴィスはどっしり構えて一度、ゆっくりと首を縦に振るのみであった。
第104話「死ねば死に損生くれば生き得」はいかがでしたでしょうか?
今回はハロルドの追撃にあい、ローレンスが討死。
ここまでロベルティ王国優位に進んでいるわけですが、ここからの戦いはどう展開していくのか、楽しみにしていてもらえればと幸いです!
――次回「碁で負けたら将棋で勝て」
更新は3日後、5/28(日)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!