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第102話 鎬を削る

どうも、ヌマサンです!

今回はライオギ平野での決戦直後の話。

一体、どのような戦いが待ち受けているのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!

それでは、第102話「鎬を削る」をお楽しみください!

 まさにこの日のライオギ平野の戦は、ロベルティ王国軍の大勝。それにあたり、カルロッタは悲壮な退陣を余儀なくされていた。


 カルロッタ本隊、続いてガレスの部隊が壊乱状態に陥り、南へと退き始めた。東側にてローラン隊を迎え撃つジュリア隊も撤退を開始。


「おい、姉貴!本気で撤退する気かよ!」


「ロベルト。このままでは私たちは敵中にて孤立無援になるのですよ?」


「だとしても、このまま下がるなんてできるものか!」


 撤退を頑なに拒む弟に、姉のジュリアは嘆息する。臣下と共に撤退するように言い聞かせるが、ロベルトは生来の駄々っ子。説得にも骨が折れる。だが、戦場において呑気なことを言っていると、命取りとなる。


「申し上げます!ローラン隊からの猛攻に第一陣が壊滅!第二陣も危うく思われます!」


「そら、姉貴が撤退などというから敵がここぞとばかりに襲来したじゃねぇか!」


「だから、それはあなたがいつまでも駄々をこねるからでしょう……!」


 姉弟はここに決裂した。ジュリアは同心する7千の兵を引き連れて南へと速やかに退いた。


 無論、ジュリアも弟を見殺しにするのは本望ではないが、このままでは自分も8千の兵も、誰も助からない。ならば、たとえ弟が死ぬとしても全滅を免れることこそが大将であるジュリアにとって最優先事項であった。


「腰抜けの姉貴は逃げうせた!ここに残ったのは1千程度だが、みな退くことを知らぬ万夫不当の強者だ!潔く一戦を交え、逃げた者どもに目にもの見せてやろうぜ!」


「おおっ!」


 ロベルトと共に残った1千の将兵は、みな死を覚悟して合戦に臨んでいた。しかし、たかだか1千の兵数では正面から押し寄せるローラン隊7千2百を食い止めることは無謀に等しかった。


 弱冠のロベルトの采配のもと、1千の兵は一丸となって北からの猛攻に応じる。しかし、衆寡敵せず。右肩や左大腿部に矢を受けた大将ロベルトをはじめ、兵たちも負傷していないものはいなかった。


 ジュリアの撤退から半日余り。死闘を繰り広げたが、大勢は決した。最後に武人の意地を見せんと突撃を敢行しようと決意。そこへ、西から迫ってくる旗が見えた。


「ロベルト様、もしかすると味方かもしれませぬぞ!」


「ああん?味方だと……!?」


 兵士たちは援軍が来たものと期待した。ロベルトもそう思いたかった。思いたかったが、味方である帝国軍はライオギ平野から撤退済み。このライオギ平野に在陣しているのは自分たちだけなのである。ならば、答えは明白。


「我こそはフォーセット領主クリスティーヌ配下、ルービンである!ただちに投降すれば、命だけは助けてやるぞ!」


「黙れ!俺はロベルト・リーシェだぞ!死んでも敵に降るものかよ!」


 つばを吐き捨て、ただちに抜刀。ロベルトたち生き残った2百ほどの兵たちも投降を促されても、一兵も投降することなく、ルービン隊4千5百へと突撃したものであった。


「よし、放て!」


「よ、よろしいので?」


「死兵を相手にしては損害が計り知れないだろう。弓で仕留められるだけ仕留め、それでも生き残った者を槍で突き刺して討ち取ればいいだろう」


「拝命仕りました!」


 ルービンの指示に従い、ロベルトたち2百の頭上には千を超える矢が飛来した。ルービンの見込み通り、死に物狂いで突撃してくるロベルトたちの気迫は鬼をも退けるのではないかと思われるほどである。


 結果、ルービン隊に斬り込むことができたのはロベルト以下30名。しかし、いずれも矢傷を負っており、満身創痍であった。それをルービン率いる精鋭が槍衾でもって、一兵残らず討ち取った。


 ロベルト・リーシェは父や兄に匹敵するほどの武勇を存分に発揮し、最後まで奮戦を続けたが、ルービンとの一騎打ちの末に斬り伏せられる結果となった。


「敵将ロベルト!このルービンが討ち取った!」


 ロベルト隊を壊滅させ、勝鬨が上がる中で追いついたのはローラン率いる部隊であった。


「ルービン将軍、その手に持つ首は……」


「おう、ローラン殿。この者こそロベルト・リーシェ。昨年戦死したユルゲン・リーシェの次男坊だ」


 ニヤリと笑みを浮かべるルービン。対するローランは手柄をかっさらわれる形となり、内心、地団太を踏んでいた。


 ともあれ、両名は共に勝鬨を挙げることとし、速やかにナターシャたちの軍勢と合流することを決定。南西方面へと軍を動かしていった。


 一方、敗軍の将となったカルロッタは残兵をまとめ上げた上で居城であるヌティス城まで退いた。


「ガレス様、この度は私の無策でとんだ失態を……」


「いや、こうなった以上はどうしようもない。俺も一度帝都フランユレールへ退き、軍勢を再編成する」


「……それしか手はなさそうですね」


「ああ、俺もやられたまま逃げる恰好になったのは甚だ不愉快。必ず、雪辱を晴らしてやる」


 雪辱に燃えるガレス・フレーベルは無事に撤退することができた1万数百の兵を率いて西へ、帝都まで撤退していった。残ったのはカルロッタ率いる本隊とジュリア隊の兵たち。


「カルロッタ様。我が愚弟が戦死、1千の兵を犬死させた罪は私の身でもって償いたいと――」


「いえ、そのことは気にしても仕方ないわ。大事なのはここからどう巻き返すかよ」


 そう腹心であるジュリアに語るカルロッタ。彼女の心中は穏やかではなかった。なにせ、ヌティス城下に集結した兵数は3万2千。すでに帝都へ引き揚げたガレスの軍勢を含めても総勢4万2千。


 ライオギ平野に出陣した6万5千であったが、今となっては3分の2ほどの数しか居なくなっていた。迫りくる敵はナターシャ率いる5万7千もの大軍勢。


 我に倍する大軍を相手にせねばならない。この事態にカルロッタも複雑な心境であった。しかし、それ以上にハウズディナの丘方面へと向かったローレンスとミルカの1万6千から音沙汰がないことも気がかりでもあるのだ。


 そんな状況の中、ローレンスとミルカの向かったハウズディナの丘方面からの知らせが入った。


「何っ、ローレンスとミルカの両名の軍勢が……!」


「ハッ、トラヴィス・ハワード率いる軍勢の待ち伏せを受け、半壊の状況!」


「それで、両名は今……」


「ローレンス殿はすでに討ち死に!トラヴィスの甥、ノーマンの手にかかった模様!」


 カルロッタの従弟であり、ジュリアの夫でもあるローレンス。カルロッタにとっては参謀、軍務における右腕に等しい。


 右腕を失ったような心地に、カルロッタは絶句。妹のミルカはと言えば、トラヴィスやノーマンの追手を槍で突き伏せ、血路を開き包囲を突破したのみで、その後の消息までは不明との報せであった。


「カルロッタ様、ローレンス様は……」


「口惜しい限りですが、こうなってしまってはどうしようもない……」


 しばらくの間、沈黙が流れた。かたや従弟であり腹心の参謀を失ったカルロッタ。かたや夫を失ったジュリア。ジュリアにとっては今回の戦でロベルトという弟まで失ったのだ。カルロッタに匹敵するか、それ以上の悲しみに包まれているのだ。


 だが、悲しみに暮れている暇はカルロッタにもジュリアにも与えられなかった。なぜかといえば、ナターシャ率いる大軍勢がライオギ平野を抜け、数日後にはヌティス城下に到達するという一報が入ったためである。


 はたして、ナターシャたちはこのままの勢いでヌティス城まで占拠してしまうのか。また、カルロッタは大勢の家臣を失う中で、居城を守り抜くことができるのか。


 ――まだまだ帝都フランユレールまでの道はほど遠い。

第102話「鎬を削る」はいかがでしたでしょうか?

今回はジュリアの弟、ロベルトが討ち死に。

さらには、ローレンスまでも戦死するというカルロッタにとっては訃報続き。

このままナターシャたちはヌティス城を奪取することはできるのか、見守っていてもらえればと思います……!

――次回「ハウズディナの丘の戦い」

更新は3日後、5/22(月)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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