第101話 雌雄を決す
どうも、ヌマサンです!
今回もライオギ平野において、ロベルティ王国軍と帝国軍の激闘が繰り広げられます!
一体、戦局はどう移り変わっていくのか、楽しみにしていてもらえればと思います!
それでは、第101話「雌雄を決す」をお楽しみください!
「矢を放て!」
北から南へ、ロベルティ王国軍からフレーベル帝国軍へと矢が放たれる。放たれた矢は北からの強風に乗って、帝国軍の頭上へと降り注ぐ。
後方への奇襲とカルロッタが討たれたという偽情報により動揺しているところへ、大量の矢が浴びせられたのだ。帝国軍は壊乱の様相を呈した。
「モレーノ、作戦通りお願いしますよ」
「ハッ、万事お任せを」
主君ナターシャの命令を受け、モレーノは決死隊6千を率いて前進を開始。兵は騎兵が3千、槍兵が3千。モレーノ自身も馬に跨って、前方の帝国陣へと突撃。
帝国兵でも応戦したのは約半数、残る半数は飛んでくる矢から逃げ惑うばかり。大混乱に陥り統制のとれない帝国兵など、モレーノの指揮する部隊の敵ではなかった。
「このまま一気に敵勢を蹴散らし、カルロッタの首は我らが取るぞ!」
「おおっ!やってやりましょう!」
馬上からの大将モレーノの声に、近くにいる兵士が応じる。このやり取りからもわかるように、帝国軍をなで斬りにし、次々に蹴散らしていくモレーノ隊の士気は最高潮に達していた。
「モレーノ様!後方からリカルド様の旗が迫って来ております!その数、およそ1万!」
「よし、リカルド殿も戻ったか……!ならば、前進することに注力するのだ!このままの勢いで血路を開き、リカルド殿よりも先にカルロッタの本陣へと斬り込むぞ!」
後方よりの奇襲に成功したリカルドは迅速にナターシャのいる本陣へと帰還していた。しかし、休む暇もなくナターシャから頼まれて1万の兵を連れてモレーノの後詰をすることとなった。
リカルドやモレーノによる攻勢が強まったことを受け、アルベルト隊、ルービン隊といった各隊も負けじと前進し始める。
この頃。ナターシャの陣に残った数は7千。レティシアとも相談のうえ、マリアナ率いる本隊8千と共にゆっくりと陣を南へ南へ進めることとした。
ロベルティ王国の女王であるマリアナの旗が前進した。その事実を受けて、戦場にいるロベルティ王国兵の士気は否が応でも高まるというもの。影響は鶴翼の左右へも波及し、左右ともにロベルティ王国軍優位と相成った。
「何っ、カルロッタの本隊が押されているだと!?」
不意に東を顧みたガレスは唇を噛んだ。さりとて、戦の流れはどうすることもできなかった。
「それだけの武勇に、茶色の髪!さては、アンタがガレス・フレーベルかい!」
刃こぼれした大剣を引っ提げて暴れ回るガレスの前に褐色肌を露出した長身女性が駒を飛ばして駆け寄って来た。好戦的な黄土色の瞳に風を受けてなびく黄土色の髪。これらの外見的な情報から、ガレスにも心当たりがあった。
「フッ、そうだ!俺こそガレス・フレーベル!そういう貴様はマルグリット・サランジェか!」
不敵な笑みを浮かべるガレスに、獲物を見つけた虎のように獰猛な笑みを見せるマルグリット。両雄ともに武芸に秀でていることは周知の事実。だが、どちらが強いかまでは誰にも分からなかった。
白兵戦となり人馬によって立てられる土煙の中、ガレスとマルグリットの一騎打ちは開始された。
互いに馬を寄せ、手にした大剣と斧槍をぶつけ合う。マルグリットの持つ赤茶色の柄をした斧槍の刃の部分は帝国兵の鮮血で彩られ、対するガレスの鈍色の大剣も刃の部分はロベルティ王国兵の血で染まっている。
敵兵で得物を染めた両名の一騎打ちは打ち合うたびに火花を散らし、閃々と輝きを発した。勝負がつく様子はなく、一歩も引かぬ接戦となる。
そうして、双方100合近く得物をぶつけ合った頃。若く体力気力ともに十分なガレスであったが、時間の経過とともに馬の扱いや戦の経験の豊富なマルグリット優位に傾きつつあった。
「マルグリット!なかなかやるな。褒めて遣わすぞ」
「ずいぶんと余裕だねぇ。アンタの方が不利だって言うのに!」
――と、そこへもう一撃。互いに凄まじい膂力で得物をぶつける。その甲高い音は周囲で血みどろになりながら戦い続けている両軍の兵士たちを驚かすに十分だった。
「チッ、止むを得ん。悪いが紋章を使わせてもらうぞ」
「そうかい。なら、こっちも遠慮はいらないねぇッ!」
ガレスは光魔紋、マルグリットは地魔紋を発動。ガレスの鈍色の大剣は白い光に覆われ、マルグリットの斧槍にも石の混じった砂が纏われる。
次の瞬間には大剣と斧槍が凄まじい破壊力をもって衝突。そこからさらに100合近く干戈を交える。
今度はマルグリットとの経験の差などものともしない破壊力で圧倒するガレスが優勢。そんなガレスも、紋章を使えば帝国三将の1人であるカルロッタとも引き分けるほどの武芸の腕前を誇る。さすがにマルグリットには荷が重い相手であった。
「ハァッ!」
「クッ!」
大上段から振り下ろされたガレスの大剣により、マルグリットの斧槍から悲鳴が上がる。互いの馬も汗を滴らせているほどの激闘に、武器の方が音を上げ始めていた。
振り下ろされたガレスの大剣を辛うじて受け止め、ギリギリのところで踏ん張るマルグリット。彼女は渾身の力でもって剛腕の一撃を弾き返し、持てる力のすべてでガレスに一撃を見舞う。
マルグリットの攻撃を見切ったガレスは余裕の表情で斧槍を受け止める。が、ガレスの右手にある大剣から金属が砕ける音がした。
「チッ、もう使い物にならんか……!」
ガレスはそう言い捨てるなり、マルグリットの一撃を横方向へと受け流して見せる。そのまま一度マルグリットとは距離をとり、改めて自らの大剣へと視線を移す。
鈍色の大剣は刃の半ばに亀裂が入っており、次にマルグリットの得物と打ち合えば粉々に砕け散るのは明らかであった。そこでガレスは大剣を背中に背負っている鞘へと納め、腰に佩いている二振りの剣を引き抜いた。
「その剣でもう一勝負しようっていうのかい?」
「ああ。だが、逃げるなら今の内だ。この剣で貴様の首を刎ねることになるからな」
「フッ、そうかい。だったら、やってみな……!」
ガレスとマルグリットの第二ラウンドが始まろうかという時、ガレス隊とマルグリット隊の白兵戦はマルグリット隊が押し切ったのだ。
「……もはやこれまでか」
「どうしたんだい?まさか、ガレス・フレーベルが逃げようってのかい?」
「フハハハハッ、そんな安い挑発に乗る俺ではない。命拾いしたな、マルグリット・サランジェ。次に会う時までその首は預けておくこととしよう」
戦況が変わり南へ退こうとするガレスを逃がすものかとマルグリットが追撃する。しかし、去り際に後方へ斬り飛ばしたサランジェ族の戦士の亡骸がマルグリットの馬と衝突し、マルグリットは危うく落馬しかけた。
なんとか、暴れる馬を抑えて追撃を再開しようかという時。すでにガレス・フレーベルの姿は戦塵の中に消えていた。
「マルグリット様、ご無事ですか……!?」
「ああ、アタシなら無事さね。でも、ずいぶん大きな獲物を取り逃がしちまったよ……!」
フレーベル帝国の金枝玉葉であるガレスを取り逃がした。そのことにマルグリットも地団太を踏みながらも、麾下の精鋭を励まし、南へ撤退していくガレス隊への追撃にあたった。
こうしてロベルティ王国軍とフレーベル帝国軍の一大決戦となったライオギ平野の戦い。
その戦況はロベルティ王国軍の圧倒的優位に転じる中、東側で真っ先に戦端を開いたローラン隊とジュリア隊の合戦においても形勢の変化が現れ始めるのであった。
第101話「雌雄を決す」はいかがでしたでしょうか?
今回の見どころはガレスとマルグリットの一騎打ち。
結果は、引き分けという形になりましたが、白兵戦では依然としてロベルティ王国軍の優位。
このままの流れが続くのか、見守っていてもらえればと思います……!
――次回「鎬を削る」
更新は3日後、5/19(金)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!