前編
三女アリスの恋愛を書いてみたかったんです。
この家の子どもは基本的に奥手だけどスイッチが入ると大胆な行動に出る感じです。
ボクは自分が許せなかった。
大事な人が、同じ日に生まれた姉が助けを求めてたのに気づかなかった。
そんな自分が……許せなかった。
もう二度と彼女を傷つけさせない。
そしてもし、次にあいつが現れた時はこの手を汚してでも……
強い決意のもと、鍛錬に励み強くなった。
だけど大きなストレスはボクの心を圧し潰しそうになっていた。
だからボクはお酒に逃げるようになった。嫌な事があればとりあえずお酒。
酔い潰れるまで飲んで誰かに迎えに来てもらう。
ツケで飲んである程度溜まったら大きな仕事でをして報酬で返す。
ダメな人間だと思う。
親からもよく小言を言われていた。
そんな事を続けていたらいつか『大変な事が起きる』、と。
そしてその日はとうとうやってきてしまった。
□
ううっ、身体がだるい。
飲み過ぎたなぁ……
「うぇ?」
違和感を感じた。
身体を誰かの腕が抱いている。
小さい頃に両親に抱いてもらいながら寝た事があるがそれとはまた違う。
寝ぼけ眼をこすりながら身体を起こして状況を確認する。
「うぇおおっ!?!?!?!?!?」
我が目を疑った。
あまりにも凄まじい衝撃に一瞬で頭がクリアになってしまった。
隣に寝ていたのは……母達がかつて暮らした想い出の地、コランチェで出会った青年エミールではないか。
ついでに互いの格好についてはその……割愛!超絶割愛ッ!!
「あっ、アリス……おはよう」
「おは……おは……うぇぇぇぇ!!?」
わけもわからず叫び声をあげ彼の腕からすり抜けベッドから飛び起きると置いてあった服を素早く身に着けた。
「お、お邪魔しましたっ!!」
頭が混乱に支配される中、彼の家を弾かれるように飛び出した。
周囲を見てここがどの辺なのかを判断し朝焼けの中、家へと全力ダッシュした。
まさか、まさかボク……
昨夜の記憶が段々と蘇ってくる。
うん、これは…………
「や、やっちゃったぁぁぁぁ!!」
□□
家の近くまで来たところで足を止め息を整える。
そうだ。昨日もいつも通りギルドの酒場で飲んでいた。
しっかりと出来上がってしまいそろそろ誰かに迎えに来てもらおうと思っていた矢先だ。
エミールがやって来て送ってくれると言ってくれた。
彼は最近、コランチェの冒険者ギルドから異動してこの街に来た。
彼の父親はお父さんの友人であるエルマーさん。
全く知らない顔でもないし大丈夫だろうと思って送ってもらう事に。時間を遡る事が出来るならあの時の自分をぶん殴りたい。
送ってもらう途中、『こんな事続けていたらぽっくり逝ってしまう』とかいろいろ言われた。
余計なお世話だと返せば『君が心配だ』とか。
せっかくいい気分だったのに水を差された感じになって少し苛つき色々言った気がする。
その後、フラフラだったボクはとりあえず彼の家で休むことになったのだけどそこで……
男というのは獣ですよ、お母さん。
そんなことは重々承知だったはず。
姉の彼氏が何というか変態ながらもどこまでも紳士な人だったから油断していた。
が、ここで更に記憶が戻って来る。
うん、実にまずい記憶だ。
ボクの方から誘った。
何なら押し倒した。
いや、もしかしたら何かの間違いかもしれない。
もう一度考えてみて……やっぱり間違いじゃない事を確信しただけだった。
背筋を冷たいものが流れる。
とりあえず、家に帰ろう。
出来る限り誰にも見つからない様に部屋に戻ってこれからの事を考えよう。
そんなボクの願いはあっさり打ち砕かれた。
庭には一番上の姉が居て水やりをしているでは無いか。
いやいや、普段はしないのに今日に限って何をしてんのさ。
ともかくこうなったら自然な感じで家に入っていって素早く部屋に滑り込んでしまおう。
「ちょっとアリス。あなた朝帰りするとか何を考えてるの?」
はい、見事に捕まりました。
超絶残念。
「うぇぇ、ただいまケイト姉。悪いけどちょっとボク疲れてるんだよね……」
何せ全力疾走したからなぁ。
それも結構な距離をだ。
「疲れてるって……今度はどこのお店で酔い潰れてたの?支払いはきちんとしたんでしょうね?いい加減にしないと体壊すよ?」
支払いは……してた気がする。多分。
万が一してなくても請求書は職場に行くから安心。
いや、安心しちゃダメだけどさ。
今はともかく素早く部屋に戻って……
「ちょっとアリス!あなた、いい歳なんだからいい加減……」
行く手を遮る姉。
ああもうっ!今はのらりくらりとかわせるほど心に余裕が無いって言うのに。
「あーもう、ケイト姉はうるさいなぁ。昨日は男の人のとこにお泊りだったの!それで、あんま寝てなくて……ちょっとは察してよね!!」
うえぇぇぇぇ!?
よりによって出た言葉がこれ!?
明らかに状況が悪化する台詞なんですけど!!
案の定凍り付いてしまったケイト姉を放って家に飛び込む。
そして階段を駆け上がり自分の部屋へ飛び込んだ。
鍵を閉め。机の上に置かれた卓上ミラーを覗き込む。
そこに映る自分の顔がニヤッと笑う。
『ゆうべはお楽しみだったね、アリス』
「『チェシア』!まさかお前の仕業か!?」
鏡を通して会話をしているのは姉を守れなかった自分を責め続けた結果生みだしたもうひとりの『自分』。
『勘違いしないでよ。ゆうべのことに『わたし』は関係ない。身体のコントロールは完全にお前にあったよ』
「うっ……」
そうだよ。
だってしっかりと記憶があるもの。
そうなるともう責める相手が居ない。
あれは完全に自分の意志でやった事だ。
『まあ、いいんじゃない?お酒で身体を壊すより遥かに健康的だよ?』
「だけど、だけどあんな……何で止めてくれなかったんだよ」
『勘違いするなよ。『わたし』はお前がルークを殺すために力を貸すだけ。お前のプライベートに関しては関与しないよ。まあ、あの男がこの街に来た時からこうなるかもとは思っていたけどね』
「何でだよ!」
『気づかなかったのか?あの男は『お前に遭う為』、この街に来たんだよ?』
確かに思い当たる節はある。
初めて出会った時、彼は食事に誘って来た。
さらりと躱したけどやっぱりあれってそういう事だったのか……
『良かったじゃん。『お酒の代わり』が見つかって』
「っ!そ、そんなの!!」
そんなの、何というかあれだよ……その……
「無理ィ……」
呟くとベッドへとあおむけに倒れ込んだ。
ああ、ダメだ。とりあえず……寝よう。