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公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。  作者: 木山楽斗
第六章 アルーグ編

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涙の理由(アルーグ視点)

「……どうして、泣くのだ?」

「泣く? そうですか……私は今、涙を流しているのですね」

「ああ……」


 俺の質問に対して、カーティアは自らの目元に手を当てた。どうやら、自分が泣いていることを、彼女は理解していなかったようだ。


「気付きませんでした。自分が泣いていたなんて。でも、どうして、こんなにも涙が流れているのかは、わかります」

「その理由を聞かせてもらえるか?」

「アルーグ様が、泣かないからですよ」

「……何?」


 カーティアの言葉に、俺は呆気に取られていた。

 確かに、言われてみれば、俺は今回の出来事に心を痛めながらも涙一つ流していない。

 どうして、彼女がそれを知っているのか。それは、どうでもいいことだ。問題は、彼女が俺に代わって泣いているというその事実の方である。


「アルーグ様は、今回の出来事で、いいえ、ここに至るまでの間、ずっと苦しんできました。それなのに、辛い顔一つせずに頑張って……それが、私には辛いのです」

「……」

「もっと自分の感情を素直に出してください。私が……私ならいつでもそれを受け止めますから。どうか、あなたのその仮面を外してください」

「俺は……」


 俺は、今までのことを思い出していた。

 これまでの人生の中で、俺は辛い思いをたくさんしてきた。その思いを誰にも打ち明けず、ずっと心に溜め込んでいたのである。

 それが、少しずつ決壊していく。俺の目からは、自然と涙が流れ始めたのだ。


「やっと……」


 カーティアはそっと立ち上がり、俺の傍まで来た。そして、そのまま俺を抱きしめてくる。


「アルーグ様、本当によく頑張りましたね。あなたのことは、私が全部知っています。たくさん傷ついて、それでも折れずに戦って……」

「……」

「今はただ、その身を私に預けてください。どうか、全部吐き出してください。私が全部受け止めますから」


 俺は、ゆっくりとカーティアにその身を預けていく。彼女の温もりが、俺の冷めていた心を温めてくれる。抑えてきた感情が、一気に溢れ出ていく。

 それから、俺は子供のように泣きじゃくっていた。思えば、あの日からずっと、俺はこうしたかったのかもしれない。




◇◇◇




 一しきり泣いた後、俺はカーティアと隣り合って座っていた。

 彼女は、俺の手に自らの手をそっと重ねている。それが、少し気恥ずかしい。だが、悪い気はしない。俺は、それを心地いいと思っているのだ。


「……世話をかけたな」

「いえ」

「お前に頼みがある」

「なんでしょうか?」


 そんな俺は、カーティアに一つ頼み事をすることにした。

 いや、それはそのように言うべきことではないだろう。だが、今はその言葉しか思いつかなかったのだ。


「俺の妻になってもらえるか?」

「え?」


 俺の言葉に、カーティアは驚いているような気がする。なんというか、その仕草から何を言っているんだという感じが伝わってくる。


「……これから、俺とお前の婚約がどうなるかはわからない。だが、俺はお前を手放したくはない。故に、ここで一つ宣言をしておくと思ったのだが……」

「なんというか、今更感満載ですね?」

「何?」

「アルーグ様は、やはり鈍感なのですね」

「それは……」


 カーティアは、俺に対して呆れているような気がした。どうやら、いつかと同じように、俺は言動を間違えたようだ。

 しかし、彼女からは俺の提案を拒否するような素振りはない。ということは、受け入れてもらえたということなのだろうか。


「さて、ここまで鈍感なアルーグ様には、もう少し格好良く決めていただきたい所ですね?」

「……どういうことだ?」

「言葉だけではなく、行動でも示してください……ここまで、言ってもわからないなら、いよいよ本当に呆れ果ててしまいますけど」

「……いや」


 流石の俺でも、カーティアが何を言っているのかは理解できた。

 彼女は、俺の目の前で目を瞑って何かを待っている。それが何を待っているかなどということは、明白だ。

 恐らく、そういうことなのだろう。つくづく実感する。俺は、鈍感だったということに。

 それに少し笑みを浮かべながらも、俺は彼女と唇を重ねた。この時も思ったのだ。俺はきっと、彼女には一生敵わないだろうと。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 表情は硬い、心は柔らかい・・。
[良い点] 長男も幸せになれそうでよかったです。公爵家の信用とのことですが、この国では、どれくらいの公爵家があるのでしょうか。お家が公爵家としては下位にあたり、お相手が上位の公爵家の娘だったり、王女さ…
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