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公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。  作者: 木山楽斗
第七章 日常編

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僕の前で(エルーズ視点)

 僕は、お父様の部屋を訪ねていた。彼と話したいことがあったからである。

 お父様の部屋は、少し暗かった。それは、実際の明るさの話ではない。なんだか、雰囲気が暗いのだ。


「エルーズ、僕に何か用かな?」

「お父様に聞きたいことがあるんです」

「聞きたいこと? 何かな?」

「……お父様は、生きる希望を失ったの?」

「……」


 僕は、お父様に質問した。

 もしも僕の予想が正しければ、お父様はとんでもないことを考えているはずだ。

 そうでないことを願っている。本当にそうだったなら、それは悲しすぎるから。


「……お父様は知っているとは思うけど、僕は昔から体が弱かったんだ」

「……ああ、もちろん、知っているよ」


 僕の質問にお父様は何も答えなかった。

 そのため、僕は話をすることした。それは、僕の話だ。

 僕は、お父様にこの人生を知ってもらいたかった。僕がどんな考えで生きてきたのか。それを語ることが、今のお父様にとっていいことになると思うからだ。


「僕は、いつも体調を崩していた。よく風邪を引いていて、そうでなくても体がだるくて……いつもいつも辛かった」

「……」

「生きる希望なんてない。僕は、いつしかそう思うようになっていた。このままベッドの上で過ごすんだって、そう思っていたんだ」


 お父様は、僕の言葉を悲痛な面持ちで聞いていた。

 その気持ちは、なんとなくわからない訳ではない。子供がこんなことを言うのは、きっと親にとって辛いことなのだろう。

 だけど、僕はそれを語らなければならない。お父様の心を溶かすためには、それが必要なのだ。


「それでも、僕は生きたいと思うようになったんだ。前を進みたくなったんだ。ルネリアのおかげで……彼女の言葉で、僕は変わったんだ」

「ルネリアが……」

「今でも、僕は体が弱い。でも、もう後ろを向いたりはしないよ。リハビリを頑張って、健康になってルネリアの笑顔を見たい。皆の笑顔が見たい。それが今の僕の生きる希望なんだ」

「エルーズ……」


 僕は、お父様に笑顔を見せた。

 その笑顔は、彼に力を与えられているだろうか。

 そんなことを少し気にしながら、僕は次の言葉を考える。今のお父様に最適な言葉が何かをゆっくりと熟考する。


「お父様、僕は元気になりたいと思っているんだ。生きたいと思っているんだ。だから……健康に生まれてきたあなたが、僕をずっと見てきたあなたが、そんな安易な方法に頼るなんて、間違ってもしないで欲しい」

「……」


 僕は、お父様の目をはっきりと見ていた。

 彼は、とても悲しい目をしている。それは、何を悲しんでいるのだろうか。

 そう思った直後、お父様の表情が変わった。真剣なその顔には、しっかりとした意思が宿っている。

 凛々しいその表情を見ていると、もう大丈夫なように思える。なぜなら、それ程の力が、その表情には宿っているからだ。


「エルーズ……すまない。そして、ありがとう」


 お父様は、僕に短くそう言ってきた。

 それに対して、僕は笑みを浮かべる。その確実な言葉に、僕はやっと心から安心できたのだ。

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