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6 委員長さん


 相沢の殺害計画は授業中でも変わらず実行に移されていた。


 体育の時間でバスケットボールに興じているときである。

 クラスメイト同士の対決をコートの外で眺めていると急にしゃっくりがでてしまった。

 

「ねえねえ! いましゃっくりしてるでしょ!」


 どこから現れたのか相沢が興奮した様子で俺に詰め寄ってくる。

 先ほどまで動いていたのか息を弾ませ、額に汗をにじませる相沢が健康的で素晴らしい。

 体操着姿がとても似合ってる。



「してるっヒック! けど」



 喋ってる最中にも無様にもしゃっくりをしてしまった俺に対して相沢は少し恥ずかしそうな様子で話し始めた。



「しゃっくりってね。100回やると死ぬらしいわよ……!」



 子供かコイツは! しかしその迷信を否定してやるのもつまらない。



「マジかっヒック! やばいな」

「うん、ヤバいのよ!」

「ちなみにいま80回目だぞっヒック!」

「マ、マジで!? 間近じゃん!!」



 勿論嘘だ。俺がしゃっくりする度に相沢は数をカウントしていく。

 喜びと不安が入り混じった表情でカウントしていく相沢が実に面白い。


 俺はすっかり止まったはずのしゃっくりの演技を続ける。


 相沢が99回目をカウントしたとき、けろっとした表情で「あ、止まった」と告げてやった。


 相沢は「あと一回だったのになんでよ!」と悔しそうに膝から崩れ落ちた。

 お前は俺を飽きさせないことに関して天才的だよ。


 そんな俺達の近くに笑いながら近寄ってくる女子が一人。



「あはは、穂波が崩れ落ちてらぁ~」



 声をかけてきたのはクラスの委員長を務める眞山真白(まやま ましろ)だった。



「何してんの~二人とも~。珍しい組み合わせだね~」



 なぜか身体を左右に揺らしながら喋る眞山真白。そのたび背中まで伸びる艶のある髪が柔らかに揺れる。

 ついでに体操着の上からはっきりわかるレベルの豊かな胸が、その、俺には少々刺激的で困る。



「べ、別に何もしてないわよ!」


 俺を殺そうとしてただろ相沢!



「そう~? なんか楽しそうに見えたけどな~?」


 楽しかったのは否定しないけど!



 俺は情けないことに眞山真白が話しかけてきたことに少し緊張している。

 だってそうだろう? 眞山真白はモデルか何かと疑うレベルに可愛いのだから!


 いやもちろん可愛いと言えば相沢だって可愛いと断りを入れておこう。

 ただ、眞山真白は相沢と違うタイプの可愛さを持っているという話なだけだ。



「最近鹿野くんとさ~仲良いよね穂波」

「はあ? 別に仲良くないけど?」



 怪訝そうな顔でそう言い放つ相沢穂波。そうはっきり言われると非常に悲しくなってくるからやめて!


 俺は落ち込む気分をなんとか立て直そうと眞山真白に話しかけた。



「眞山さんは……」

「真白、って呼び捨てでいいよ~同じクラスメイトじゃんよ」



 そうおっしゃるならそれに従うとしましょう。そうしましょう。

 いきなり下の名前呼び捨ては少々気おくれするんだけども、恥じらうのもかっこ悪い気がする。



「真白は、相沢と仲良いよな。中学一緒だったとか?」

.「ううん。私高校入る直前で引っ越ししてきたからね~」

「へえ、知らなかったな。葛塚と一緒だ」

「あ~、葛塚くんもこっちに引っ越してきたんだっけ」



 そう、葛塚も高校入学直前こちらに引っ越して来た。

 「だから友人がいないんだよ」と笑いながら葛塚が言ったのを覚えている。



「てことは相沢とは高校から仲良くなったのか」

「そうだね~、穂波ってなんかほっとけないでしょ~? ついつい世話焼きたくなっちゃってさ~」

「うがー! なんで頭撫でるの真白!」



 急に相沢の頭をなで始めた真白。

 口ではそういいながらも相沢はまんざらでもない様子に見える。

 なんてこった、急に目の前にほんわか空間が生まれてしまったぞ。



 相沢をほっとけない。以前の俺ならその言葉に欠片も共感できなかったが今なら違う。

 なにせ毎日頓珍漢な殺害計画を立て挙句自滅するような女だ。

 確かにほっとけない気持ちもわかる。


 こうして眺めていると、相沢は俺を殺そうとしてくることと結構なアホという点以外は普通の女の子のように見える。


 なんでこんな子が俺を殺そうとしてくるのだろうか。

 もしや友人である真白なら理由を知ってたりしないか?



「ん~? どうしたの鹿島くん。超ガン見してくるじゃ~ん!」

「あ、いや! 別になんでもない!」



 まずい、そんなにガン見してだろうか。


「もしかして穂波に見惚れてたり? おいおいやるねえ穂波ぃ、罪な女だよ全く~!」

「い、いや違う違う! 何言ってんだ!」



 そんなのキモいと思われちゃう! 案の定、相沢は怪訝な表情で見てきた。やめてみないで!



「あはは~冗談なのにかわいいなあ鹿野くんは~!」



 けらけら笑いながら真白が俺の肩をぺしぺし叩く。

 やめてくれそんなことされたらドキドキしちゃうだろうが!


 顔が赤くなるのを感じる。

 そんな俺を相沢がなんとも言えない表情で見つめていたのだが、やはり気持ち悪いと思われたのだろうか?


 その後すぐに二人のチームが試合が始まるということで、俺はコートに向かう二人を見送った。

 一人残された俺は先ほどの余韻に浸る。


 なんてこった、美少女二人とお喋りしちゃったぜ。しかもボディタッチまでされた!


 浮かれるのを許して欲しい。

 なんせ俺は今までそんな経験は殆どないのだから。ちょっとくらいは浮かれさせてくれ、そのくらいはいいじゃないか。



 時間は過ぎて昼休みになっても、先ほどの幸せな時間を思い出してはにやけそうになるのを必死に堪える気持ち悪い営みをしていた。


 そんな俺を葛塚がバカにしきった目で見てくるのだけれども、気にしないことにする。


 もはや何度目かわからない幸せな時間を思い返そうとした時、俺の肩を叩く感触。

 俺には誰だか姿を見ずともわかった。振り返るとほらな、案の定相沢のである。



「ねえ、鹿野」

「どうした相沢」



 相沢は少し顔を赤らめてて一呼吸置いて、口を開く。



「……放課後、屋上へ来てくれない?」



 相沢穂波からの、二度目の呼び出しだった。



評価とブクマ、本当にありがとうございます…!

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