第8話:心強い味方
クラスメイトの女子から敵視されないようにするには八十神くんとの接触を断つのが一番手っ取り早い。
「夕月、おかず出来たから時哉くんに届けてきてくれるー?」
夕食前。
お母さんから届け物を頼まれたけど、ここで従ってしまうとまた同じことの繰り返しになっちゃう。
「お母さんが行きなよ。あたしはイヤ」
「なに、ケンカでもしたの?」
「そういうわけじゃないけど……」
八十神くんとは友好的な関係だと思う。彼自身は良い人だし、嫌いじゃない。
「ま、あんたも年頃だもんね。意識しちゃうのも無理ないか~」
「意識って何! 変なこと言わないでよ」
おかずの入ったタッパーを可愛い手提げ袋に詰め込みながら、お母さんはニヤニヤと笑っている。変な誤解をされたかもしれない。でも、そういうことにしておけば八十神くんに近付かずに済む。
「仕方ない。今日はお母さんが行くわ」
「う、うん」
なんだかんだ言って、お母さんは八十神くんに会いたいのだろう。鼻唄を口ずさみながら軽い足取りで出掛けて行った。
『正直に理由を伝えれば良いのではないか』
「クラスの子にいじめられるから八十神くんに関わりたくない、って? そんなの言えないよ。あたしが彼に近付かなければ済む話だもん」
御水振さんが声を掛けてくれたけど、それには従えない。
ここは田舎町で、住民はみんな顔見知り。変に話を広めて大ごとにしたくない。それに心配させたくない。
『其方がそう言うのなら……』
「ごめんね、心配してくれてるのに」
『其方は昔からそうだった。慣れている』
「昔から?」
『如何にも』
時折こうして御水振さんが洩らす話。
昔のあたしを知ってるってどういう意味なんだろう。深く聞いたらダメな気がして、いつもそのまま聞き流してしまう。
そもそも、あたしには何で七つも魂が宿っているんだろう。光の色が違うし、飛び方を見てると性格も違うっぽい。今のところ話せるのは青い光の御水振さんだけ。
「あたしって……」
『うん?』
「…………なんでもない」
『そうか』
あたしの考えてることなんて全部筒抜けなんだろう。心を読むなと言ったから、それ以上は何も言われなかった。その代わり、御水振さんは座るあたしの膝の上にちょこんと乗った。光の輪郭をなぞるようにして手を伸ばしても何も感じない。
でも、確かにここにいるんだ。
「御水振さんは、あたしの味方?」
『当然だ』
「ふふ、ありがと」
笑顔を向けると、青い光がわずかに揺らいだ。
もしかしたら照れているのかもしれない。




