第74話:同調
神に近い存在。
そう言われて、八十神くんは肯定も否定もしなかった。ただ笑っているだけ。
彼には肉体がある。何度も触れたからそれは確か。
でも、不思議な力がある。そして多分すごく強い。でなければ、今までの不思議な現象の説明がつかない。
一瞬で移動したり、心を読んだり、忌み地の空間を歪めたり、歩香ちゃんを操ったり。なにより、この町の霊的に不安定な場所を乱したのも彼の仕業だ。
もしかして、人間の身体に強力な神様を宿しているのかもしれない。
「違うよ榊之宮さん。これは僕が授かった力だ」
また心を読まれた!
「授かったって、誰に?」
聞き返すと、八十神くんは目を細め、右手の人差し指を上へと向けた。
思わずみんなで見上げてしまう。
でも、木々の隙間から見えるのは夜空だけだ。
「空よりもっと上。天界だよ」
「て、天界???」
なにそれ。
天国とかじゃないんだ。
神様がいるところなのかな。
「僕は君がお役目を果たすのを見届けにきた。その為に必要な力を色々与えられてるんだ。こんなふうにね」
そう言いながら、天を指していた指をスッとこちらに向けた。その僅かな動きだけで突風が起こり、落ち葉や枯れ枝を巻き上げて襲い掛かる。
でも、思っていたような衝撃はなかった。
『あっぶねえなあ。まともに喰らってたらヤバかったぞ今の』
突風がぶつかる直前、あたしたちのいる場所だけを守るように風の壁が現れた。押し返すのではなく、流れを変えるように。散らされた風は後ろの木々に当たって消えていった。
「た、太儺奴さん?」
『怪我してねえか、チビ助』
玲司さんのおじいさんとシンクロした太儺奴さんがニカッと笑った。
見た目はおじいちゃんなのに、口調も表情もあの頃のまま。山で一緒に遊んでいた頃を思い出して、なんだか胸がいっぱいになった。
「次はどうかな」
風を防がれた八十神くんは、今度は両手を掲げて空気中から水を集め始めた。風で勢いをつけ、高速で回転する水の刃を七つ生み出して投げ付けてきた。それぞれを狙って襲い掛かる水の刃。
『そうはさせぬ!』
玲司さんの声が上がった。
同じような水の刃がこちら側にも発生し、迎撃するようにぶつかり合う。飛沫が上がった瞬間、ビキッと音を立てて凍り、そのまま地面に落ちた。
『あーあ、マジで勘弁してほしいよね~』
普段と全く違う喋り方で叶恵ちゃんがボヤいた。
今のは御水振さんが水の刃の動きを止め、小凍羅さんが凍らせて無効化したんだ。すごく息のあった連携。
「か、叶恵ちゃんに乗り移ってるの? 前は身体を動かすだけで精一杯だったよね」
『そういやそーだね、なんか平気になったっぽい!』
『この娘の意識が変わった証拠だ。我欲を捨て、其方の力になりたいと願う気持ちが小凍羅と同調している』
「そうなんだ……」
そういう玲司さんも普段のおちゃらけた雰囲気ではなく、落ち着いた大人の男の人って感じ。これは中身が御水振さんだからだ。
光の時のように隣に寄り添い、慈愛に満ちた表情であたしを見下ろしている。今まで玲司さんにトキめいたことなんか一度もないけど、これは心臓に悪いかも。
「おい玲司、夕月から離れろ」
「身体が勝手に動いたんだから仕方なくね?」
……完全に乗っ取られてるわけではないみたい?




