第59話:忌み地
教室で見る限り、歩香ちゃんの様子は普段と変わらないように思えた。八十神くんに近付く女の子たちに威嚇し、彼にぴったり寄り添って微笑む。話し掛ければ、素っ気ない態度ではあるけれど返事もしてくれる。
でも、学校以外では違うって叶恵ちゃんは心配してた。学校以外……つまり、八十神くんが側にいない時かな。彼の側にいない時はものすご〜く無気力なんだとか。
『何かが取り憑いている様子はない』
「ホントに?」
『もし悪いモノが憑いているのなら其方にも分かるだろう』
「あ、そっか」
御水振さんたちが側にいると弱い霊は弾かれていなくなる。もし簡単に弾けないくらいの強いおばけがいたら、それはそれであたしには見えるはず。
『ま、例外もあるけどね~。ボクたちより格上だったら気配を消すことも出来るからさ~』
『全員の目を欺くほどの存在などそうそうおらぬ。不安を煽るようなことを言うな小凍羅』
『また怒られちったー!』
なんだか心配になってきた。
憑いてないモノを浄化することは出来ない。
だったら、あたしに出来ることをやるだけだ。
「この町の心霊スポットぉ?」
「うん。何か知ってる?」
学校からの帰り道、三人で帰りながらそれとなく聞いてみた。千景ちゃんちは古くからの地主さんだから、この辺りの土地に詳しいはず。
七つの光の力があれば、悪いモノをやっつけて浄化できる。今のうちに、少しでもこの町のおかしな場所を減らしておきたい。
「そうだなあ……昔は色々あったみたいなんだけど、数年前からだんだん減って、今はほとんど話を聞かないよ」
あ、これはお兄ちゃんの仕業だな。
自力で回れる範囲は何とか対処したって瑪珞さんから聞いた。じゃあ、この前の縁結びの祠や神社、慰霊碑で終わりかな?
「中でも一番酷かったのが、夕月んちのすぐ近くにある土地でね。父さんや爺ちゃんは『忌み地』って呼んでた」
「えっ、うちの近く!?」
意外な答えが返ってキターーー!!
「そ、あんまり良くない土地なんだって。二十年くらい前に、どうしてもっていう人がそこを買って家を建てたはいいんだけどすぐに出てっちゃってさ、それ以降も全然人が居着かなくて」
「ええっ、どこ!?」
「いま八十神が住んでるとこ」
「えっ……」
確かに八十神くんの家はうちの裏の通りにある。まさか、そこが忌み地だったとは。そういえば、八十神くんが転校してきたばかりの時、千景ちゃんがその家について何か言い掛けていた。
「八十神は平気で住んでるんでしょ? じゃあ、もう大丈夫なんじゃない?」
「そ、それなら良いんだけど……」
うちの近所だし、そこもお兄ちゃんがなんとかしたのかな。忌み地がどんな場所かは知らないけど、もしそのままだったら人が住めるわけないもんね。
「あそこは昔の刑場跡地だよ」
「ピャッ!!」
家に帰って聞いてみたら、予想以上の答えが返ってきた。
刑場!?
なんでそんなのが田舎町にあるの!?
「昔は集落ごとに罪人を処罰する場所があったんだ。文献にも残ってない。『良くない場所』ってことだけが伝わってる程度でね」
「めちゃくちゃ家から近いんだけど……」
道理でこの辺りは家が疎らなわけだ。
ちなみに我が家から八十神くんちまでの道のりは片道百メートルくらい。
「そんなに怖がることはないよ。あそこに眠る亡者は抑えてるし、今も出てきてないから」
「やっぱりお兄ちゃんが何とかしたの?」
「うん」
「どうやって?」
「祓うのは出来なかったから、建物を囲うように見えない壁を作ったんだ。悪いモノが外に出てこれないように」
見えない壁ってなんだろう。よく分からないけど、周りに悪い影響が出ないようにしたってことだよね。
「ってことは、あそこの中は?」
「そのまま」
「八十神くん住んでるよ!?」
「うーん……彼が何故一人暮らしなのか疑問だったけど、もしかしたらご家族に影響が出て一緒に住めなかったのかもしれないね。彼だけが平気で居られるのは余程鈍いのか、それとも……」
それとも……なに???




