第51話:太儺奴《タナド》
異変に気付いたのは下校途中だった。
千景ちゃんたちと一緒に帰る途中の景色がいつもと違う。なんだか白く煙っているような場所や、日が当たってるのに薄暗い場所とかにやたらと目が向いてしまう。
二人は普段と変わった様子はない。
ということは、あたしにしか見えてないってことだよね。急にどうしたんだろう。
……。
…………。
あれ?
御水振さんたちがいない。
姿を消してるんじゃなくて、あたしの側にいない。
「あっ」
「どうしたの夕月ちゃん」
「う、ううん、なんでもない!」
心配そうに声を掛けてくれた夢路ちゃんに笑って答える。
ああああああああ!!
これマズいやつだよね!?
御水振さんたちの言い付け破って八十神くんに不用意に近付いたせいで触られちゃったんだ。それで、みんな強制的に引き離された。
たぶん今頃あたしの部屋で怒ってる……。
油断した。これは素直に謝ろう。
……無事に家に帰れたらの話になるけど。
普段は七つの光が弱い霊を遠去けてくれている。だから、あたしは幽霊とかを見たことがない。
でも今はその守りが無い状態。
つまり、その辺の幽霊が全部見えてしまうのだ。
「夕月、顔色悪いぞ」
「早く帰りましょ」
「う、うん……」
帰りたいのはやまやまなんだけど、この道の先にブツブツ呟いてる真っ黒なおじさんが立っているのが視える。
これ、生きてる人間じゃない。
知らんぷりして通り過ぎたらいいんだろうけど、こんなにハッキリ幽霊見たの初めてで、怖くて足が進まない。
出来るだけそっちを見ないようにしながら歩く。
あ、でも、このまま進むと千景ちゃんにぶつかりそう。見えない人は触っても平気なのかな。何か悪い影響が出たらヤだな。
さりげなく場所を交替して、あたしが……と考えていたら、突然千景ちゃんが走り出した。体当たりするようにぶつかった瞬間、パアッと光が散って真っ黒なおじさんの姿が掻き消えた。
え、どういうこと???
「夕月、夢路、見て。猫!!」
「わあっ、可愛い!」
千景ちゃんは道の先にいた野良猫を見つけて駆け寄っただけだった。道路に転がる猫の側にしゃがみ、二人は満面の笑みでおなかや喉を撫でている。
良かった。なんだか知らないけど幽霊はどっか行ったみたい。
家に帰ると、やっぱり二階から怒りの波動が伝わってきていた。お兄ちゃんに同行を頼み、一緒に部屋まで来てもらう。
ドアを開けた途端、一斉に怒られた。
『あれほど言ったのに、何故其方はすぐあの男から離れなかったのだ!』
『怒り通り越して呆れちゃうよね~』
『おまえ油断し過ぎなんだよ! 全っ然危険性を理解してねえじゃねーか! ナニ考えてんだ、ああ??』
「ひえっ……」
予想以上に怒ってる~!
「夕月、僕も御水振さんたちと同じ気持ちだよ。転校生の彼に近付いたらこうなるって言ったよね?」
「ご、ごめんなさい、お兄ちゃん」
みんなから怒られるのもツラいけど、お兄ちゃんから淡々と諭されるのが一番効く。御水振さんたちが弾かれる時、何故かお兄ちゃんにも影響があるって忘れてた。すぐに回復するとはいえ、しんどいのは変わりないのに。
そんな時、黄色い光が間に割って入ってきた。
『全員で怒ったらチビ助が可哀想だろ? その辺にしといてやれよ、なっ?』
あれ、知らない声だ。
優しい、しっかりとした男の人の声。
チビ助って、もしかしてあたしのこと!?
「あの、あなたは?」
『俺は太儺奴。ようやく話せるようになって嬉しいぜ!』
そっか、八十神くんに触られたから新しく声が聞こえるようになったんだ!
黄色の光……太儺奴さんは頼れるアニキって感じの印象だ。みんなから庇ってくれた。優しい〜!
『ま、こんだけ怒られたんだ……次はねえからな?』
優しい……かな???




