表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神成りの娘。  作者: みやこ嬢
5章・7つの記憶
47/97

第46話:新しい祠

 次の土曜日。

 私有地の山の中にあった壊れた祠の移設が完了した。空き地の片隅に新たに建てられた祠は、立派な土台の上に石造りの小さな社が固定され、雨よけのお堂まで作られている。


「すっごいね!」

「これからお坊さんが来るんだって」

「お坊さんが何するの?」

「……なんだろうね?」


 千景(ちかげ)ちゃんと夢路(ゆめじ)ちゃんと一緒に現場を見学に来た。だって、こういうの見るの初めてなんだもん。


 千景ちゃんのお父さんもこの地域の代表として参加するため、きっちりスーツを着込んでいる。他にも、この土地の持ち主のおじさんや近所の人たちも。あたしたちは少し離れた場所から邪魔にならないように眺めているだけ。


 完成したばかりの祠の前には机が置かれ、何やらお供え物が並べられている。準備は万端。あとはお坊さんが来て何かするだけらしい。


『今は山中の祠の跡地から神を連れてくる儀式をしておるようだ』


 あたしの疑問に、御水振(オミフリ)さんがそっと教えてくれた。


『この祠はまだ空だ。容れ物は出来ておるが、祀るべき神を連れて来なければならぬ。山中にある壊れた祠で魂抜(たまぬ)きをして、その後こちらで開眼(かいげん)する』


 ほえ~。なにそれ。


『お嬢ちゃん絶対わかってないよね~』

『……とにかく、神をここに封じる儀式だ』






 あの後、お坊さんがやってきた。山の持ち主である玲司(れいじ)さんのおじいさんの車で。壊れた祠から魂抜きをして神様をここまで連れて来たんだ。


 車から降りて来たのはお坊さんだけではなかった。少し畏まった服装の玲司さんも居た。離れた場所にいるあたしを見つけて駆け寄ってくる。


「あっ夕月(ゆうづき)ちゃん! こんちは」

「こ、こんにちは」

「友だちと見学してんのー?」

「は、はい」


 おじいさんの付き添い……ではなく、お兄ちゃんに会いに来たんだろう。この前来たばかりなのにフットワークが軽い。


「夕月、この人だれ?」

「お兄ちゃんのお友だち」

「え、この人が?」


 千景ちゃんは突然話し掛けてきた大学生を警戒している。夢路ちゃんも疑ってるっぽい。まあ、お兄ちゃんとはタイプが真逆だもんね。


「前に来た時ちょっと様子がおかしかったから心配でさあ、じいちゃんの用事が終わるまで朝陽んとこ行ってくるねー!」

「え、ちょっと」


 そう言って、玲司さんは開眼法要を見ることなく走っていってしまった。おじいさんはそんな孫に慣れているのか、こちらに軽く会釈をして「お嬢さん、済まないね」と声を掛けてくれた。


 本当に何しに来たんだろう。







 開眼法要自体はすんなり終わった。


 お経が終わる頃には祠の周りの空気が変わってキラキラ輝いて見えた。でも他の人には見えてないみたい。


『無事に移った。今は弱っているが、この地で拝まれるうちに再び神としての力を取り戻すだろう』


 この土地、すごく良い場所だって言ってたもんね。縁結びの神様だもん。きっと女の子たちから人気のスポットになると思う。


「夕月、お参りしてから帰ろっか」

「そうだね、折角だもんね」

「……」

「夢路、めっちゃ真剣に拝んでるじゃん」

「シッ、邪魔しちゃダメだよ」


 夢路ちゃんは口には出さないけど、たぶんお兄ちゃんが好きなんだよね。真新しい祠の前で手を合わせて目を閉じ、ずーっと拝んでいる。



 人を好きになるってどんな気持ちだろう。


 歩香ちゃんみたいに他人を蹴落としたり、

 叶恵ちゃんみたいに恋敵の排除を願ったり、

 夢路ちゃんみたいにひっそり想ったり、


 どれも同じ恋心から始まってる。


 あたしにはまだ分からないけど、いつか好きな人が出来たら神様にお願いしようかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ