第42話:トリガー
慰霊碑の黒い靄は全て消え去った。
たぶん、ここに集まっていた無数の動物たちの魂を浄化出来たと思う。
体調不良だと嘘をついて授業を抜け出している最中だ。早く上靴に履き替えて保健室に行かなくちゃ。
でも、なぜか身体がうまく動かない。
胃がむかむかするし、頭もガンガンする。
気持ち悪い。吐きそう。
『あーあ、瘴気にアテられちゃったね~』
『今回は数が多かったから、我らだけでは完全に防ぎきれなかったようだ』
「そ、そうなんだ……うぷ」
校舎の外壁にもたれかかりながら、フラつく足取りでなんとか歩き、やっとの思いで保健室に辿り着く。
「おい真っ青だぞ榊之宮、大丈夫か?」
養護教諭の鞍多先生がひと目見てビックリするくらい顔色が悪かったらしい。すぐにベッドに寝かされた。
『これでサボりの理由が嘘じゃなくなったね~!』
「……そうだね……」
嘘から出た誠、ってやつ?
三時間目と四時間目の間の休み時間に千景ちゃんと夢路ちゃんが様子を見に来てくれた。
あれから少し横になったらかなり身体が楽になった。阿志芭さんがずっと体内に残っていた悪いものを浄化し続けてくれたおかげだ。
「夕月、教室戻れる?」
「だいじょぶ」
「良かった、元気になって」
二人に付き添われて教室に戻る。
慰霊碑を浄化したことで、クラスメイトたちが受けていた悪い影響は無くなったはずだけど、一度口から出た言葉は戻らない。まだ男子と女子の対立は続いていた。それでも、直接言い争うようなことはもうなかった。
「榊之宮さん、大丈夫?」
席についてすぐ、八十神くんから声を掛けられた。人前では話し掛けてこないでと頼んであるけど、今回は心配の方が勝ったんだろう。側まで来て、小さい声で控えめに尋ねてきた。
「もう平気だよ。ありがとう八十神くん」
「それなら良かった」
笑顔で応えると、八十神くんも安心したように微笑んだ。その表情はとても華やかで、またもやクラスの女子の注目を集めていた。そっちを見なくても歩香ちゃんから睨まれてるのが分かる。
あーあ、また面倒なことになりそう。
六時間目が終わったら掃除の時間だ。
千景ちゃんたちとは班が違う。一人になった時を見計らったかのように、また歩香ちゃんから空き教室に呼び出された。今度は叶恵ちゃんと深雪ちゃんはいない。一対一だ。
「アンタ、私に隠れて八十神くんと仲良くしてるんじゃないの? 近付くなって言ったでしょ」
「そんなことは」
「じゃあ何で直接声掛けてもらってんのよ!」
「し、知らないよぉ!!」
壁際に追い詰められ、ものすごい形相で睨み付けられる。さっきの黒い靄も怖かったけど、歩香ちゃんも同じくらい怖い。泣きそう。
これも全部、八十神くんに近付く恋敵を蹴散らしたいから。
あたしは恋敵なんかじゃないのに!
「なんでアンタたちばっかり気に掛けてもらえるのよ!」
ん?
アンタたち???




