第37話:男女の対立
あたしたちが授業を受けている間に業者さんが入り、慰霊碑がある辺りをブルーシートで覆い隠した。これで現場は校舎の窓からは見えなくなった。
そして、現場周辺に入れないよう規制のロープが張られた。
壊されたといっても石が倒されただけみたいで、表面に付いていた赤い液体を綺麗に洗い流してから積み直し、簡単に倒れないようにしっかりと固定するらしい。
昼休みが終わる頃にはブルーシートや規制線も外され、見た目だけは元通りになった。あれだけ騒いでいたクラスメイトも外観が戻ってしまえば興味はないみたい。
そして、みんなの関心は犯人探しに移っていた。
「昨日の帰りまでは何ともなかったよね」
「誰かが夜中に入り込んだんじゃない?」
色んな憶測が飛び交う。
「祠を壊した奴がやったのかもな」
思わぬほうに話が転がり、みんなの視線が叶恵ちゃんに集まった。未だに縁結びの祠を壊したのは彼女だと誤解している人がいる。彼らは何かにつけて叶恵ちゃんを疑う。
突然矛先を向けられ、叶恵ちゃんは狼狽えた。クラスメイトの視線が一気に集まり、驚きと戸惑いで何も言い返せないでいる。
「アンタたち、何を根拠にそんなこと!」
「あ、歩香ちゃん、いいよ」
「叶恵が何もやってないのは私たちが一番よく知ってんの。こういうのは言い出した人が一番怪しいんだから」
「なんだとぉ?」
向けられた言葉をそのまま跳ね返すように歩香ちゃんが言い返した。それを受け、クラスの男子と女子で対立が起きた。
「ちょっと、みんな落ち着いてよ。なんでケンカしてるの? おかしいよ」
思わず間に入ると、両方から睨まれてしまった。邪魔するな、という念を感じる。
「夕月、放っときな!」
「下手に関わると巻き込まれちゃうわ」
「でもぉ……」
千景ちゃんと夢路ちゃんは一歩引いてクラスメイトたちを眺めている。どちらかに加担するつもりがないなら、こうして関わらないようにするのが一番良いんだって分かってる。
でも、あたしこんな雰囲気やだよ。
「ねえ。そもそも何の慰霊碑?」
険悪な空気を物ともせず八十神くんが問い掛けた。転校してきたばかりだから、彼はこの学校のことをよく知らない。
それにより、さっきまでの殺気を消した女子が全員八十神くんの周りに集まり、我先にと慰霊碑についての情報を教え始めた。
「へえ、飼育していた動物たちのお墓みたいなものなんだね! 教えてくれてありがとう」
説明を聞いて、八十神くんは笑顔で御礼を言った。それで完全に教室内のピリピリした空気がなくなり、あたしたちはホッと胸を撫で下ろした。
結局犯人は誰だか分からないままだった。
うちの中学の生徒じゃなく部外者の可能性もある。器物破損と不法侵入で警察に相談済みということもあり、学校側からも「犯人探しをしないように」と改めて指導が入った。
「慰霊碑が?」
家に帰ってそのことを話すと、お兄ちゃんは難しい顔でしばらく考え込んだ。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「……あの慰霊碑もこの町にある不安定な場所の一つなんだ」
「え、そうなの?」
「僕が在学中に抑え込んで問題ないようにしたつもりだったんだけど、壊されたことで何か起きるかもしれない」
ええっ、それは困る!!




