第29話:出火の謎
散歩がてら神社のほうに向かうと、周りにはチラホラ近所のお年寄りたちが集まっていた。
境内では消防署の人が現場の調査をしていた。小火が起きたのは昨夜だから、明るくなってから出火原因や被害状況を確認しているみたい。みんな、その様子を遠巻きに見守っている。
さっき散々止められたし、野次馬には加わらないことにした。
「燃えたのは何年か前に新しく拵えた社らしいじゃないか」
「なんでそんなとこから火が出たのかねえ」
それでも近くを通るだけで勝手に情報が耳に入ってくる。
現場は境内に並ぶ三つの末社のひとつ。
マッチやライター、ロウソク、タバコなどの火の気は一切見つかっていない。
そして、なにより不思議なのは、末社の社殿の内側からの焼けていたという点。
小さな扉がついてるけど普段は鍵が閉まってる。それなのに、突然内部で発火したように内側から焼け焦げていた。幸い通報が早くて社殿は全焼せずに済んだらしい。
「不思議なこともあるね」
『……そうだな』
「御水振さん?」
『いずれにせよ其方には関係のない話だ。行くぞ』
「はぁい」
そういえば、七つの光の中に炎を操る人がいたよね。縁結びの祠の時に1回だけ見た。ああいう力があれば中から燃やすことも出来るのかな。
『もちろん出来るが、我らは基本的に其方の側におらんと力が使えぬ』
「そっかあ。……、……待って。あたしの考えてること読まないでよ」
『わっかりやすい顔してんだもん。読まなくても大体ナニ考えてっか分かるよ』
失礼な!
でも、そうか。御水振さんたちはあたしから離れると不思議な力は使えないんだ。取り憑いてるのとは違うんだよね。宿ってる状態?
「あ、でも、前に小凍羅さんが叶恵ちゃんに取り憑いて身体を動かしてたよね。あの状態なら使える?」
『ありゃ非常事態だったからね~。あの場であの子と相性が良かったのはボクだけど、それでも歩くだけで精一杯だったよ』
「そっか」
『めっちゃピッタリ相性が合えば自由自在に』
『小凍羅、喋り過ぎだ』
急に、御水振さんが低い声で小凍羅さんを制した。
「ど、どうしたの?」
『怒られちったー!』
紫色の光はおどけるようにあたしの周りをくるくると飛んで後ろに隠れた。
現場の神社を通り過ぎると、その先にある空き地の一画がロープで区切られていた。
確かここは祠の移設先に決まった場所だ。連休明けから始まる工事の告知看板が立てられている。
人通りもそこそこあるし、近所の子どもたちの遊び場にもなっている。ここなら縁結びの神様も寂しくなさそう。
『地脈も良いし、祠を移すには適した土地だ。朝陽の友人の祖父は見る目がある』
「ちみゃく?」
『大地に満ちる気の流れのことだ。これが滞っていると良くない』
「へぇ、そうなんだ」
あたしにはただの空き地にしか見えない。
難しいことはよくわからないけど、そういう良い場所を見抜くって、玲司さんのおじいさん、すごい。




