第26話:朝の神社で
ゴールデンウィークど真ん中の朝、お母さんからお使いを頼まれた。
手紙を最寄りのポストに投函するだけなんだけど、そのポストが地味に遠い。そこまでは歩いて十分くらいかかる。郵便屋さんが回収しやすいように、大きな道沿いにあるんだよね。
まあ天気もいいし。
朝ごはん食べ過ぎちゃったし。
断るとお母さん怖いし。
というわけで、田植え前の、水が張られている田んぼを眺めながらポストに向かう。
すると、はるか前を歩く人を見つけた。
私服だけど間違いない、八十神くんだ。
朝の散歩だろうか。歩幅が違うから、どんどん距離が開いて追いつけそうにない。彼も後ろにいるあたしに気付いてないみたいだし、別に用事もないし、わざわざ声を掛けなくてもいいか。
八十神くんはポストの前を通り過ぎ、その先にある神社へと入っていった。まだ引っ越して二週間も経ってないから近場を探索しているんだろう。
あれ?
連休なのに、八十神くんの家族は帰ってこないのかな。それか、八十神くんが家族の元に行ったりしないのかな。
中学生が一人で一軒家に住むなんて変だよね。
寂しくないのかな。
いや。他所様の家のことだ。なにか事情があるんだろう。勘繰るような真似は良くない。
ポストに手紙を入れたし、後は帰るだけ。
だけど、あたしの足は家とは反対方向に歩き出していた。
「……あれ?」
鳥居をくぐって境内に入ったけど、見える範囲に八十神くんの姿はなかった。確かにここに来てるはずなのに。境内には手前に手水舎、正面に拝殿、末社と呼ばれる小さなおうちみたいなお社が傍に三つ。人が隠れられるような場所はない。
じゃあ神社の裏かな?
拝殿の横を通り抜けた先には鬱蒼と木が生い茂っていた。山のふもとにある神社だから、ここから先は斜面になっているし、木々の間には岩がゴロゴロしてて足場も悪い。
まさか、この森に入った?
ちょっと心配になってきた。
探しに行こうかと迷っていたら、
「おはよう、榊之宮さん」
「ひゃあっ!!」
後ろから八十神くんに声を掛けられた。
びっくりして心臓が止まるかと思った!!
「ごめんごめん、驚かせるつもりはなかったんだけど」
「ど、どこにいたの?」
「建物の周りをぐるっと一周してたら、榊之宮さんが奥に行くのが見えたから」
「ああ……」
なるほど。同じ建物の周りをぐるぐる回ってたから、前だけ見てたあたしは気付かなかったんだ。
「ここ、静かな場所だね」
「う、うん。にぎやかなのは秋のお祭りの時くらいかな」
「お祭りがあるんだ!」
「町内会で屋台を出したりしてね、小さいけど御神輿もあるんだよ」
「へえ、見てみたいなあ」
家が近いから、一緒に帰ることにした。
誰かに見られるかもしれないといった気持ちもあったけど、まだ朝だし、たまたま出先で会っただけまから大丈夫。そう自分に言い聞かせる。
「八十神くん、宿題終わった?」
「うん、初日に全部。榊之宮さんは?」
「すごいね! あたしはあと少しかな」
当たり障りのない話をして、家の側で別れた。




