第14話:捜索開始
「夕月、まさか今から行く気か?」
「うん」
長袖長ズボンの上に厚手の上着を羽織り、外に出る準備を始めた。斜めがけにした水筒の中には温かいお茶が、上着のポケットにはお菓子が入っている。叶恵ちゃんは夕飯を食べてないだろうからお腹を空かせているはずだ。
お父さんはまだ仕事から帰ってない。お母さんはお風呂に入っている。家から抜け出すなら今しかない。
「真っ暗だぞ。探すのは大人に任せたほうが……」
「でも、あの場所は探す候補に入らなそうなんでしょ?」
小凍羅さんが教えてくれた場所は町外れの小さな山。ここは私有地で、敷地の周りはフェンスで囲まれているらしい。中に入って捜索するなら土地の所有者から許可を取らないといけない。たぶん、大人たちがここを調べるのは他を探し尽くした後になるだろう。
「あたし、じっとしていられない」
お兄ちゃんは、あたしを引き留めるのを半ば諦めている。一度言い出したら聞かない性格だって分かってるからだ。
「……危ないことだけはするな。少なくとも日付が変わる前に帰ってこいよ」
「うん!」
「僕が一緒に行けたら良かったんだけど」
そう言って、ぎゅっと抱き締めてくれた。体は弱くても、お兄ちゃんは優しくて頼りになる。もしあたしが約束の時間までに戻らなければ、警察に通報して山の探索をお願いすることになっている。
次にお兄ちゃんは目線を青色の光に移した。
「妹を頼みます」
『わかった』
御水振さんは頷くように点滅し、あたしの側にくっついた。
音を立てないように玄関から抜け出し、あたしは夜道を駆け出した。周りに浮かぶ七つの光が足元を照らしているから明るさは十分だ。
『お嬢ちゃん、こっちこっち~!』
「うんっ!」
走るあたしの前を紫色の光……小凍羅さんが飛んで案内してくれている。
件の縁結びの祠は、町はずれにある山の中にある。その山は数十年も前から個人所有になっていて近くに住む人も近寄らないんだって。
「祠があるのに、お参りする人が入れないの?」
『そそ。だからだろうね~。祀られてた神がちょーっと悪いモノになってるよ~』
『そのような場所に其方を近付けたくはないのだが』
「……そう」
悪いモノってなんだろう。
神様って人間を守ってくれる存在だよね?
話を聞きながら走っていたら、その山のふもとに辿り着いた。鬱蒼と茂る木々が風に揺られてザワザワと不気味な音を立てている。これからこの山に登らなければならないと思うと足がすくみそう。
でも、こんな真っ暗な中で一人でいるかもしれない叶恵ちゃんはもっと怖いはずだ。
「よし、行こう」
あたしは七つの光を伴い、山を囲うフェンスを乗り越えた。
着地した瞬間、足元からぞわぞわと這い寄るような感じがした。単なる勘違いではないようで、橙色の光が足に触れるように飛んで嫌な気配をパアッと散らしてくれた。
『この山には邪気が満ちている。神の加護があればこのようなことは起きない』
「じゃあ、小凍羅さんの言う通り……」
『うむ。祠の神は禍ツ神に変異している可能性が高い』
「ま、まがつかみ……?」
なんだかわからないけど、怖い。
「叶恵ちゃんはいるのかな」
『うーん、……人間が一人いるのは間違いないらしいよ』
「らしい、って……」
ん?
小凍羅さんは誰に聞いたの?
でも、この先に誰かいるのが確かなら、それは叶恵ちゃんに違いない。
あたしは整備されてない山道を歩いて祠を目指した。




