第10話:小凍羅《コトラ》
学校にいる時から下校中まで、ずっと千景ちゃんと夢路ちゃんが側にいてくれた。おかげで八十神くんから話し掛けられることも、歩香ちゃんたちから呼び出されることもなかった。
「また明日ね」
「うん、バイバイ」
家の近くの交差点で二人と別れ、一人で歩き出す。そしたら、道の先に八十神くんが立っていた。
あれ?
あたしたちが教室を出る時にはまだクラスの女子と談笑してたよね。いつのまに追い越されたんだろう。
不思議に思いながらも、彼の横を通り抜ける。
朝にひと悶着あってから、学校では一度も喋っていない。千景ちゃん達が付いていたし、彼も人前で話し掛けたら迷惑だと気付いたのかもしれない。教室で声を掛けてくることはなかった。
だから安心してたんだけど……
「榊之宮さん、そんなに避けないでよ」
「……ッ」
寂しげな笑顔でそう言われて、あたしは急に罪悪感に襲われた。
彼は慣れない場所に引っ越してきて、しかも一軒家に一人で暮らしている。幾ら女子に囲まれているとは言っても、彼女たちはお互い牽制し合ってて特定の誰かと仲良くなることを防いでいる。そして、そんな女子が四六時中周りを固めているせいで男子とはまともに話せてない。
つまり、彼にはまだ友達がいない。
「ご、ごめん。八十神くんは悪くないのに」
元々仲良くなりたくてあたしの方から話し掛けたのに都合が悪くなったら避けるなんて、彼にすごく酷いことをしてしまった。素直に謝ると、八十神くんの表情がパアッと明るくなった。
「せめて、二人だけの時は話してくれる?」
「……うん」
「よかった」
思わず頷くと、八十神くんは照れたように笑った。そして、あたしに近付いて軽く頭を撫で、手を振って帰っていった。
家に着くと、またザワザワとした気配を感じた。
慌てて階段を駆け上がり、廊下の突き当たりにあるドアを開けると、そこには七つの光がフワフワと浮かんでいた。
「また出てる!」
七つの光は、何もない時はあたしの側で姿を消しているはずだ。それなのに、また離れたあたしの部屋にいた。
『其方の戻りを待っていたぞ』
「御水振さん」
『理由は分からぬが、また其方の側から弾かれた』
「え、なんで?」
御水振さんの言葉を肯定するように、他の六つの光があたしの周りにまとわりついた。
『だからさァ、やっぱあの男が怪しーって』
その時、知らない男の人の声が聞こえてきた。
『悪い男に騙されないよーにボクが守ってやるからな~?』
キョロキョロすると、目の前に紫色の光が現れた。光が揺らめくのと同じタイミングで声が頭に響く。
もしかして、この光が喋ってる?
「お、御水振さん、誰か喋ってる!」
『うん? もしや私以外の声が聞こえるようになったのか』
「悪い男にだまされないように、とか何とか」
『ああ、それは──』
『お嬢ちゃん、ボクの声が聞こえてんの? マジで? やりィ!』
紫色の光が浮かれたように部屋の中を飛び回り、そして再びあたしの前に戻ってきた。
『ボクは小凍羅。やっと声が届いて嬉しいな~!』
「こ、コトラ、さん?」
『そそ! よろしくぅ~!!』
御水振さんとはテンションも話し方も全然違う。
男の人の声だけど、御水振さんより少し高くて若い感じがする。
何故かは分からないけど、七つの光のうち二つと話せるようになった。




