第9話:激しく散る火花
「おはよう榊之宮さん。昨日は来てくれなかったね」
翌朝、登校中に八十神くんから声を掛けられた。まだ学校までは距離があるけど、もし誰かに見られたらと思うと気が気じゃない。
「……代わりにお母さんが行ったでしょ」
「うん。でも僕は君に来てほしかったな」
「へ?」
思わぬ発言に驚いていると、一緒にいた千景ちゃんが間に割って入ってくれた。
「おやぁ? 転校生くんは誰彼構わず口説くのが趣味なワケ?」
「ち、千景ちゃん!」
「誰でもいいってわけじゃないけどね」
「八十神くん!?」
笑顔の八十神くんと、しかめっ面の千景ちゃん。
睨み合う二人を前におろおろしていると、反対隣にいた夢路ちゃんがあたしの腕を引っ張った。
「先に行きましょ」
「え、でも」
「ほら早く」
腕を引かれ、学校へと向かう。
後ろを振り返ると、まだ二人は睨み合っていた。
これをクラスの女子に見られたら、今度は千景ちゃんが変な言い掛かりをつけられるかもしれない。そんな悲しい目に遭わせたくない。
「ごめん夢路ちゃん、あたし……」
「夕月ちゃん!」
夢路ちゃんの手を払って戻ろうとした時、振り返ったらすぐ側に八十神くんが立っていた。
あれ、さっきまでもっと向こうにいたのに。
直前まで言い合っていた相手が十数メートル先に移動したからか、千景ちゃんも目を丸くしている。
「そんなに警戒しないでほしいな。榊之宮さんとは仲良くなりたいから」
そう言いながら、八十神くんはあたしの横を通り過ぎた。
「じゃあ、学校でね」
呆然と立ち尽くすあたしたちを置いて、八十神くんは先に学校へと歩いて行った。
「……なんだァ? アイツ……」
小さく舌打ちしながら千景ちゃんが悪態をついた。八十神くんとは相性が悪いみたい。
「千景ちゃん。ごめんね、あたしのせいで」
「は? コレは私が勝手にやってんの。……ていうか、アイツ掴み所なさ過ぎ」
「私もそう思う。ずっと笑ってて気味が悪いわ」
「そ、そう……かな」
二人は完全に八十神くんを敵視している。
八十神くんは悪い人じゃない。
彼の取り巻きが勝手に暴走してるだけ。関わったら面倒なことになるから避けたいだけなのに、何故か気に入られてしまっている。
「夕月、学校で一人になるなよ」
「私たちがついてるからね~!」
「千景ちゃん、夢路ちゃん……!!」
その日はずっと二人が一緒にいてくれたから、クラスの女子に呼び出されることはなかった。