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序幕

春の夕方。橙色に染まる住宅街を少年が歩いていた。


雲一つない西の空に浮かぶ太陽から発せられた暴力的なまでの光が街を包み込んでいる。


少年-斉藤(さいとう) 礼司(れいじ)は情景描写というものが嫌いだ。


天気の移り変わりは、礼司の気持ちを考えることはない。

今もそうだ。


それは自分が何の物語の主人公でもないことの証明であり、物語のように逆境が、苦難が、必ずしも幸福につながることがないという事実を礼司に突きつける。


美しく晴れている西の空を疎ましく感じながら礼司は顔に一切の表情を浮かべずに街を歩く。


今の礼司には何もない。


小学校に上がる前に両親をほぼ同時に失ってから後見人が見つけてくれた母方の祖母、唯一家族と言える存在を亡くした。


老衰死とのことだったが、祖母に勧められて地方の全寮制の中高一貫校に行っていた礼司は別れを言いそびれてしまった。


それが二週間前。

高校生活の一年目も終わりに近づいたころの話だ。


しかし、喪主となった礼司が葬儀や相続、諸々の手続きを終えたころには残ったのは虚無感だけ。


気付かないうちになっていた二度目の天涯孤独は、なったからどうと言うことはなく、世界はいつも通りの日常を刻み続けている。


「いっそ、死んでみるのもいいかもな。」


そんないじけた子供のようにつぶやいた子供らしからぬ言葉は橙色に溶けてしまい、誰の耳にも届かないだろう。


学校にも戻る気が起きず退学届を出してしまい、小学生時代を祖母と過ごしたこの町に戻ってくることにした。


おせっかいな後見人に何もしないよりはいいからと、半ば強引に地元の高校に転入の手続きをされ、今は必要書類を渡してきた帰り道。


ひとまず、無職という肩書にはならないことになった。


帰り道を覚えようと街を見回しながら歩いている礼司は周囲の人にはこの春上京してきた田舎者のように映っているだろう。


昔住んでいたとはいっても4年の間に街は再開発され、面影を残してこそいても懐かしさを感じるほど記憶の中の姿には似ていない。


目新しいものばかりだ。


「ここがばあちゃんの言ってたハイカラな定食屋か、ただのファミレスじゃねーか。」


地方の学校に来た時に祖母が楽しそうに語っていた町の変化を確認することが今の礼司の虚無感を紛らわせる手伝いをしてくれている。


ファミレスの外装は桜の花びらの模様が入った装飾で彩られ、昔の街にあった古臭さもう感じられない。


髪の毛を自己主張が激しい色に染めた制服姿の少年少女が机を囲んで楽しそうに談笑してる様子を横目に、礼司は同じ制服が入った紙袋を振り回しながら速足に通り過ぎ、路地に入る。


曲がってすぐだった。


なんてことはない地味な外観の個人経営らしい喫茶店に礼司は強く惹かれた。


一切飾り気がなく、通常なら興味を惹くものが一切ない。


典型的すぎて、通る人は景観の一部としてしか認識することはなく、素通りするような店。


だからこそ礼司は惹かれた。


店の前に立つと、わずかに漂うコーヒーの香りと申し訳程度に出してある小さな看板が営業していることを知らせてくれる。


店名は「ヒガン」。


礼司は数分前の自分の言葉を思い出し、クスリと笑いをこぼすと戸を引いて、店内に入った。


ドアに着けられた鈴を鳴らしながら入った店内は6つの椅子があるカウンター席と4人掛けのテーブルが2つ。


店の奥からカウンターのさらに裏手に入るように通路が通っている。


その通路の前には衝立(ついたて)が立てられていて奥の様子はうかがい知れないが厨房だろうか、空間があるのが見て取れる。


カウンターに置かれた小さなテレビは3人の小学生が連続して行方不明になっているニュースを真剣な表情で読み上げるニュースキャスターを映している。


客どころか、店主も席を外しているようで人が一人もいなかった。


物寂しい店内とは裏腹に衝立の奥から人の話し声、と言うよりは男の怒鳴っている声が聞こえてくる。


「うちの情報は流すなって言ってんだ!!うちだってもうギリギリなんだよ!あの件はケジメだったんだ!」


声の調子は荒々しく、尋常ではない焦りがうかがえる。


「そんなことは知らない。私には関係ないだろう?やつらより多く積めばいいのさ。そうすれば私はだんまりさ。」


男と話しているのは、幼い少女のような声だ。


その声には男と言いあっているにも関わらずどこか落ち着きがあり、余裕を感じさせる。


「チッ!また来る!」


その声が聞こえたかと思うと、衝立の奥から強面の男が小走りで出てきた。


その男は礼司を一瞥して舌打ちをすると、脇に寄っていた礼司の肩にぶつかりながらドアの鈴を鳴らして出て行った。


「出るときはそっちからじゃないって言ってるだろう!」


もう片方の声の主が叫びながら衝立の奥から出てくる。


茶色がかった色素の薄い髪と、色白な肌に深紅の瞳が映える美しい少女だった。

礼司より少し身長が低く、華奢な体格と大きな瞳は見る人に幼さを感じさせる。


いや、実際幼いのだろう。


右手の手首に鈴が付いた可愛らしいミサンガをしていて、それが時折チリンと音を立てる。


「なんだ、お客さんか。で、どっちなんだい?」


少女はにやりと笑うと、礼司に問いかけてきた。


「あ、じゃあカウンター席で。」


「カウンターって…え?」


少女は礼司の返答になぜか驚いた様子で大きな目をさらに大きく見開きながら礼司を上から下まで見る。


そしてさっと後ろを向くと、前髪を整える仕草をしてから礼司の方に向き直り、可愛らしい笑顔を作る。


「い、いらっしゃいませ~。お好きな席にどうぞ!」


豹変した雰囲気に驚き、礼司は少女に苦笑いを向けながらカウンターの席についた。


「うん、わかってるけど。なんで?普通のお客さん?」


少女はカウンターの奥に入るとメニューも出さずに礼司に背を向けてぼそぼそと独り言を言っている。


独り言を言っている間、頭を搔いている右手の鈴がきれいな音を奏でていた。


「あのー。」


礼司が声をかけると少女は礼司の方を向き、首を傾げる。


「あ。確かに!メニュー出さなきゃだよね!」


しばらくの沈黙の後一人で納得してメニューを取り出し、礼司の前に置いた。


少女が手首に付けたミサンガについた鈴がチリンと音を立てる。


「忙しかったみたいですね。すみません、出直します。」


何となく関わってはいけないような予感がして、早々に店を出ようと立ち上がった礼司の腕を少女がつかんだ。


「いや、全然!です。暇してたところ、です。久しぶりのお客さんでちょっと驚いただけで、す。」


少女のぎこちない敬語がなんだかおもしろく感じて微笑みながら礼司はもう一度椅子に座った。


久しぶりの客ということは先程の男は客ではないということだ。

並々ならぬ怒鳴り方をしていて少し心配ではあったが、部外者の礼司は触れないことにした。


「では、えーっと。」


少女は言葉を選ぼうとしているようだが、何も思いつかないようで、頭を抱えている。


「あーー、ここで敬語とかむりだよもう!もうどうせさっき聞かれてるしどんな口調でもいいでしょ?うん、仕方ない。」


少女はまた一人で納得して礼司に笑いかけた。


「さ、何にする?」


***

「はい。」


礼司がコーヒーを注文すると少女は無駄のない手つきで豆を挽き、丁寧に淹れて持ってきた。


カウンターに芳ばしい香りと湯気を立てるコーヒーを置いた時にまた少女の手首についた鈴が鳴った。


「猫みたいですね。」


「ひょえ!?猫!?どこに!?」


礼司がそう話しかけると少女は大げさに驚いた。


「いえ、猫がいるってことじゃなくてその手首に付けてる鈴のことです。」


「鈴?もしかしてこれのこと?」


少女は右手首を持ち上げて揺らして見せた。


「それです。なんだか猫の首輪についてる鈴をイメージしちゃって。いい音ですね。」


どこか懐かしさを感じる、温かみのある音だ。


礼司はさっきまで感じていた虚無感がその鈴の音で小さくなっているのに気が付いた。

鈴の音で癒されたのかもしれない。


「これの音がわかるんだね。君は。」


少女は鈴をしばらく眺めると左手で大切そうに握りこんだ。


「鈴はあんまり詳しくないですけど、こんなにいい音が鳴ってたらいいものなんだってことくらいはわかります。」


チリンとまた心地よい音が聞こえた。

子供を心配する親鳥のさえずりのような、優しい音。


礼司は音が鳴るごとに気持ちが軽くなる気がしている。


「少し、変なことを聞いてもいい?」


少女は握っていた鈴を離して礼司に向き直った。


「君、最近死にかけたこととか、ない?」


変なこと、と言われて軽く心構えをしていた礼司でも椅子から落ちそうになるような質問だった。


「ないですよ!全然元気です。」


「そうか……じゃあ、心霊スポットに行ったりしたかな?」


少し考えた後少女はもう一度よくわからない質問をした。


「行ってないです。」


礼司は笑みを浮かべて答える。


先程までの礼司ならきっと無意味な問答だ。と店を出るところだっただろう。

鈴の音で癒されているからか、不思議と嫌な気はしなかった。


「うーん、そっか。」


少女はまた、顎に手を当てて考え始めた。

その様子は、少女の端正な顔立ちもあってか美術品のように美しい。


いつまででも見て居たい気持ちにさせられる。


また、チリンと鈴が鳴った。

何度聞いても不快になるどころか心地よさが増す音だった。


「そうだね。じゃあ、誰か大切な人を亡くしたり、した?」


礼司の心臓がはねた。


祖母の知り合いだったのか。

しかし喫茶店に通っていたという話は聞いたこともないし自分が関係者だとわかる道理もない。


「どうしてわかったんだって顔をしてるね。」


少女は優しげな顔で目を細めると肘をついて顎を手で支えるようにカウンターに寄り掛かった。


「そんな顔してヒガンに来るのに。何にもないって思う方がおかしいでしょう?」


肘をつきながら肩をすくめて冗談っぽく言った。


「まぁなんでもいいけど、自分まで引っ張られないようにね。きっと君の大切な人も、そんな事望んでないからさ。」


「はい。」


礼司はそう返事をした。


何がどこまでわかっているのかはわからない。


相手もでたらめを言っているのかもしれないと言うことはわかっていたが礼司は無条件に信じて居たくなった。


「まぁ、それは置いておいて。どうしてわざわざこっちの店に来たんだい?別にコーヒーにこだわりがあるって感じでもなし。」


少し強引に話題を変えるように少女が言った。


「こっちの店って、あのファミレスと比べてます?」


礼司は笑いをこらえて聞き返した。


「いや!全然!比べてなんかないよ!あんなに派手なところなんか。」


「まぁ、こっちは装飾とかもなくて味がありますから。仕方ないですね。」


「はいはい、地味でわるかったね!」


少女は唇をつんと(すぼ)めてそっぽを向きながら答える。


「でも、懐かしい感じがして、好きですよ。」


「うんうん、そうでしょ!」


礼司の言葉に目をキラキラさせながら頷いた。


「というより、敬語。やめてくれない?年上に敬語を使われるのは、なんかくすぐったい。」


「うん、じゃあ、そうさせてもらうよ。」


その後もしばらくの間他愛もない会話を続けた。


この喫茶店は育ててくれた祖父の店であるということ、祖父が淹れるコーヒーはとてもおいしかったこと、その味に近付けるようになることが目標だということ。


再開発前の空気をそのまま残していることが誇りの様で、彼女は時折店内を見回してはため息を漏らしていた。


礼司はあまり人との会話を多くする方ではないが、この時は会話が留まることを知らなかった。


きっとこの彼女の雰囲気がそうさせたのだろう。


「なんだか、気分が軽くなったよ。」


「それはよかった。」


時計を見た礼司が言うと少女は満面の笑みを浮かべた。

眩しい、太陽のような笑みだ。


「なら君はヒガンに来る理由がないね。来るのは死んでからにしなよ...

なんてね!まぁ、コーヒーを飲みに来てくれるなら大歓迎だよ。」


「うん、ありがとう。」


粋な冗談にクスリと笑ってからコーヒーを飲み干すと礼司は立ち上がり、財布を取りだした。


「600円、置いておいて。」


少女はそう言い残すと空になったカップをもって奥に入っていった。


礼司は千円札を一枚、カウンターに置くと、足取り軽く入り口に向かった。


外は夕日が落ち、暗くなっていた。


礼司はスーパーにでも寄って帰ろうと思い、大通りの方向に歩き始めた。


***


腰の高さほどしかない申し訳程度の石の塀についた鉄の扉を開けて礼司が我が家と呼ぶアパートの敷地に入った。


木造二階建て、各階に四部屋ずつある、所々塗装が剥げて木目の露出しているお手本のようなおんぼろアパート。


税金と言う名の思い出の搾取(さくしゅ)を逃れた数少ない祖母の忘れ物だ。


賃貸として貸し出すことで礼司の生活を成立させながら、家としても機能している頼れる忘れ物である。


他の住民は帰ってきていないのか、あかりは灯っていない


一階の一番奥の部屋、礼司の部屋に向かうと、扉の前に一人のスーツ姿の男が立っていた。


「十郎おじさん!」


「おかえり、礼司。」


男を部屋に上げ、買ってきたものを冷蔵庫に入れた後、お茶を置いたちゃぶ台を挟んで向かい合わせに座る。


男の名前は遠賀(えんが) 十郎(じゅうろう)


父の仕事仲間らしく、両親の死後、後見人として礼司の世話を焼いてくれている。


街ですれ違う人が二度見するような大柄な体格と強面で、人からは怖がられやすい上に、頬にある古傷がそれに拍車をかける。


一見すると堅気には見えない人だが実際は面倒見がよく優しい人だと礼司は思う。


両親と疎遠だった礼司の母方の祖母を見つけてくれたのも十郎だった。


「ちゃんと学校に書類出してきたかぁ?」


「うん、心配ない。ちゃんと出してきたって。」


少々過保護なところもあるお節介で強面の後見人がネクタイを緩めながら出す心配そうな声に苦笑しながら礼司は答える。


「でも、本当に良かったのかぁ?こんなアパートで。」


「大丈夫だって。何度も言ってるだろ。」


礼司は今このアパートに住んでいるが、少し歩けば祖母の家が、電車で二駅も行けば両親の家がある。


おんぼろなのが心配なのか、十郎はそのどちらかで暮らすことをよく勧めてくる。


「でもだな。」


「そんなこと言うためだけにわざわざ来たわけじゃないだろ?」


話題を変えるために十郎の言葉を遮る。


「ああ、そうだった。これを。」


そう言って十郎は花柄のきんちゃく袋を取り出した。


「これは?」


「ああ、お前のばあさんが近くの貸金庫に預けてたものらしい。自分が死んだら礼司に渡すようにって書いた手紙と一緒に預けてあると貸金庫のオヤジが電話してきた。」


手の平に乗せると大きさの割にずっしりと重く感じられる。


手のひらに調度乗る大きさのそのきんちゃくに見覚えこそないが、礼司には確かに祖母の物だろうことは何となくわかった。


「安心しろ、開けてない。」


「そんな心配してないって。」


今日は懐かしいものが多い日だと思いながらきんちゃくをそのまま棚の上に置いた時、礼司の腹が空腹を訴える音を鳴らした。


「お、飯の前だったか。すまなかったな。用はそれだけだから俺ぁ帰るさ。」


そういって立ち上がるとゆっくりと部屋を出て行った。


普通の家族であるならば一緒に食事をとるのだろうが、十郎と礼司はこういった関係だ。


十郎の足音が遠ざかり、外の扉のきしむ音がした後、車が走り去っていった。


「さてと、飯でも作るかな。」


そう独り言をつぶやいてキッチンの方へ向かう。


米を洗い、炊飯器に入れてボタンを押し、その間におかずを用意する。


先程買ってきたばかりの豚のこま切れ肉を油を引いたフライパンに入れ、軽く炒める。


色が変わってきたところでニンジン、少し炒めたらキャベツ、もやしと火の通りやすいものを後から入れていく。


塩胡椒で味を調えた後鍋敷きをちゃぶ台においてフライパンをその上に置く。


本当なら味噌汁でも欲しいところだが、そこは男の一人暮らし。そこまでする気にはなれず茶碗と箸だけを用意する。


調度ご飯が炊けたことを知らせるメロディーが軽快になった時だった。


アパートの前で車が止まる音がしたかと思うと、人が入ってくる音が聞こえた。


「なにか忘れ物かな。」


このアパートに車で来るのは十郎くらいなものだ。


足音が部屋の前まで来たのを確認してから礼司はドアを開けた。



その時だった


ゴンッ。


強い衝撃と鈍い痛みを感じ、視界が揺れる。


何が起きたのか、状況を確認をしようとしても頭が働かない。

開け放たれたドアから吹き込むまだ冷たい春の夜の風を感じながら、礼司は意識を手放した。


***


窓から差し込む光が眩しく感じて、礼司は目を覚ました。


体を起こして部屋を見渡す。

正方形、八畳の畳張りの部屋、いつものアパートだ。


窓から差し込む日の光を浴びていると、頭が少しずつ覚醒してくる。


壁にかけてある時計を見ると時針は12を指していて、自分が昼過ぎまで寝ていたことに気付く。


昨日、衝撃を感じて倒れこんだのを思い出し、慌てて頭に手をやるが、傷どころか痛みも一切ない。


夢だったのだろうか。

それとも十郎とぶつかったのか。


しばらく考えていたが何か不都合があるわけではないからと気にしないことにした。


「ん、腹が減った。そういや飯も食べてなかったな。」


空腹を感じ、机の上の野菜炒めを一瞥するが布団もかけずに眠っていた状態で冷めきった体でそれを口にする気は起きず、ラップをして冷蔵庫にしまう。


「そうだ、あの喫茶店でコーヒーでも飲むかな。」


思い立つと、早々に身支度をしてヒガンへ向かうために外に出る。


扉に鍵をかけ、敷地の外に出ようとした時、塀の近くに一人の女が倒れてるのを発見した。


祭鈴(まつり)さん、、。」


駆け寄って女-祭鈴の肩を支えて体を起こす。


彼女は礼司の部屋の一つ手前、103号室に住む方見(かたみ) 祭鈴(まつり)


年齢不詳、職業不明だが見た目は美しく、日本人らしい顔つきながら鼻筋の通った顔は背中までのびた染めていると思しき金髪によく似あう。


「ぐへへ、オレはもう飲めないよーミナミちゃん。」


美しいのは見た目だけである。


祭鈴は稀代(きだい)の酒と女好き。夜な夜などこかへ行って泥酔して帰ってくるのだ。


「ほら、こんなとこで寝てないで部屋に行ってください。あと少しですから。」


さすがに二ヵ月毎日この状況に立たされると驚きも無く、礼司が慣れた手つきで頬をぺちぺちと叩いてやるとうっとおしそうにしながらもうっすらと目を開く。


「うああああああ、ゆうれえええいっ!!!」


「いだっ!」


祭鈴は礼司の顔を見た途端、すごい力で礼司の顔面にこぶしを叩き込んだ。


「って、なんだ礼司坊か!とうとうオレと子作りする気になったのか?」


「はいはい、そんなはずないですから。寝るなら部屋に戻ってください。」


「あんだよ、ちがうならほっとけぃ。。。」


そう叫ぶと上着の袖から腕を抜き、布団のようにかぶりなおすともう一度その場で眠り始めた。


泥酔している時の人間の寝つきの早さはすごいものだ。


しかしこうなってしまっては動かないのが彼女の常。


礼司はあきらめて外に出る。


歩いている間も特にふらついたりはせず、昨日倒れたのは一切影響がなさそうだと安心する。

祭鈴に殴られたところのほうが痛いくらいだ。


「一応、あとで病院でも行っとくか。」


そんなことを思いながら十数分も歩けばあの飾り気のない喫茶店についていた。


入り口の鈴を鳴らしながら店に入ると、少女は掃除をしていたようで、室内用の(ほうき)を持ったまま振り返ると、礼司を見てニコリと笑って駆け寄ってくる。


「おや、また来たんだね。」


「ねこ、、?」


「またこれかい?」


そういって少女は右手の鈴を上げて揺らす。音はしない。


違う。


礼司の目は、異様なものを映していた。


猫。

少女の肩に紫色の猫がいるのだ。


紫と言うだけで異様なのだが、尻尾が二本。片方はゆらゆらと二股に分かれ、もう片方は下に垂れながら先に行くにつれて半透明になっていっている。


「その、肩の猫は?」


その言葉を聞いた少女の顔には驚愕の表情が浮かび、猫も驚いた様にピクリと耳を動かした。


「今度は、見えてる?」


少女が猫の方を見ると猫は首を傾げた後、礼司の肩に飛び移った。


なにが起こっているのかわからない礼司の肩や頭を猫が歩き回り、調べるように臭いを嗅ぐ。


そしてとても懐かしさを感じる声で一言、言い放った。


「あんた、どこに命を落としてきたんだい?」

はじめまして。能楽のうがく飛鳥ひちょうと申します。

稚拙極まりない文章にてお目汚し失礼しました。

現状ではジャンルが分かりづらいかと思いますのでここで大体言わせていただくと、裏社会、推理、異能力バトルという、ジャンルのサラダボウルを予定しています。

このジャンルの時点でお気づきになる方ももしかしたらいるかも知れませんが、設定時点であるライトノベル作品の影響を大きく受けています。

わかった方はほくそ笑んで、わからなかった方も考えながら楽しんで見ていただけると幸いです。

不定期ですが三人称一視点の練習をしながら楽しく更新していけたらいいなと思っていますのでよろしくおねがいします。

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