9 マダキア城下
ここはマダキア城の一室。
マダキア王とその側近たちが会議をしている。
議題は、いつトリウス王国に攻め入るか。
「王よ、軍の準備はいつでも可能です。すぐにでも、宣戦布告なさいませ」
「うむ、トリウスのガンシャンドラの動きも気になる」
側近の言葉に重々しく頷くマダキア王。
「軍の準備が整い次第、宣戦布告の使者を出せ。儂の代で、あの国との決着をつけてやる。」
動き出すマダキア。トリウス王国の明日はいかに。
※※※※※※
(SIDEベネット)
馬の限界までスピードを出してマダキア城下までひた走った。
「今日はここで宿を探してひと休みしよう」
「賛成にゃー」
追われている身で宿が取れるのかは不安であったが、休まないと疲れがやばい。
城の前を横切り、宿を探そうとしたその瞬間である。
ヒュン!
「ん?」
ヒュンヒュンヒュン!
城から矢が射られている!
「くそっ! もう城まで情報が来てたんだ! 狙われてる!」
「大丈夫ですか?このままでは危険なのでは?」
エリーが心配するのも無理はない。さっきから相当数の矢が飛んできている。
「問題ないよ。こんな遠くから射られたんじゃ当たるわけない」
「そうにゃそうにゃ、あいつらの弓なんて大したこと無いにゃ」
パンサーは母さんの膝の上で丸くなって寝転がっている。
こいつは楽でいいな。
サクッ
一発の矢が俺の腕に突き刺さる
「わああ、当たっちまった!」
痛い。なにが『こんな遠くから射られたんじゃ当たるわけないよ』だ。
ゴゴゴゴゴ
今度は何の音だ!
「よくも私のベネットに傷をつけてくれたわね! もう許さないわ!」
母さんのキレた音だった。
「ベネット、当てた射手は誰?」
うわあ、顔笑ってるのに目が笑ってない。
「そ、そんなのわからないよ、距離あるし」
「そう、いいわ。なら全部消し去ってあげるわ」
母さんはそう言うと、幌馬車から飛び降りた。
また飛んでる。なにをする気なんだ。
「深淵なる魔道の源よ、我に力を。エクスプロージョン!」
ズガアアアアアアアアアアン!
それは魔法名の通りの大爆発だった。
たぶん射手はこれでやられただろう。
え?なんでわかるのかって?
城ごと吹き飛んだからだよ!
「ベネット、大丈夫? 痛いわよね、すぐ治すわ。グレートヒール!」
城が吹き飛んだのには目もくれず、放心状態の俺の心配をして回復魔法をかける母さん。
ヒールで治る傷に上位の魔法を使わなくていいだろう?
などと、現実には目を背けて考えてしまった。
え。母さん、やりすぎじゃないか?
あまりの爆発の強さに城だった場所は完全に更地になっている。
「悪いヤツは私がやっつけたからね。痛いの痛いの飛んでけー!」
母さんはまだ傷の心配をしている。
ああ、確かに悪いヤツはやっつけられたかもしれない。
根絶やしだ。
「ははは」
乾いた笑いがでた。
「あれ? これでエリーをグローシニア帝国まで運ぶ理由も無くなったんじゃないか?」
「あ、え、えと、どうなんでしょうね。この場合」
「城がこんな状態じゃ、戦争も何もあったもんじゃないだろう?」
「あ、えと、でもですね、今更、婚約を無しにってわけにはいきませんから。一応」
「そ、そうですよね。やっぱり。はははは」
俺たちは騒然としているマダキア城下での宿を諦め、グローシニア帝国へと馬車を向けた。
後でわかったことだが、今回の被害でマダキア王国は首脳部を全て失い、国としての機能を果たせなくなっていた。
この後、マダキア王国は滅びの一途を辿ることになる。