8 激走 マダキア王国
パカラッパカラッ
ガラガラガラガラ
幌馬車がこれでもかってくらいのスピードで爆走している。
荷台が悲鳴を上げてる!
「追われてるよ! 母さん!」
「何よ、こっちが下手に出てれば追ってきて!」
母さんは全然下手に出ていないっ。
どうしてこうなった!時間は少し前に遡る。
マダキア王国。
トリウス王国の西に位置する中規模国家である。
トリウス王国との仲は先々代の王から険悪なんだとか。
商人の流入が盛んで、国庫が潤っている。
商人からの関税を取るため、国境付近に関所があった。
「うーん、どうやって関所を突破しよう」
天気もよく、絶好の旅日和である。
俺は城を出てからずっと考えていた。
「商人のフリをして関税を支払ってしまってはいかがでしょう?」
変装して旅人の恰好をしているエリー姫が案を出す。
「姫さま、では、それでいきますか」
「姫さまではありません、私はただのエリーです」
ニコリと微笑んでくる。
ああ、笑うと綺麗さが際立つ人だな。
だが、いざ関所の検問に差し掛かると予定外のことが発生した。
「んー、待つのめんどくさいから特攻しましょう。時は金なりよ。ファイアストーム!」
ドガーン!
母さんが関所を爆破したのである。
唖然とする関所番の人、待ってる人たち、俺。
そこからは必死の逃走だった。
うわあ、いきなりお尋ね人になっちまったよ!
関所を通り越して、気づけば街に入っていた。
もちろん馬車は最高速だ。
「なんとか撒けないもんかな!」
「どうでしょう! あちらのほうが早いですし、追いつかれるのは時間の問題です!」
どうする! 万事休すか!
「んー、お腹すいたわね。そろそろご飯にしましょうか」
母さんの言葉に俺は耳を疑った。
今、めっちゃ逃げてる途中なんですけどぉ!
「あの人達、黙らせてくるわね」
ひょいっと、最高速の馬車から飛ぶ母さん。
文字通り飛んでいた。
何をする気なんだ! 母さん!
「食事は静かに取りたいの。お引き取り願いますわ。フレアアロー!」
母さんから放たれた大出量の炎の矢が追っ手を燃やし尽くす。
「さ、これで静かになったわ。ご飯処に入りましょう」
最寄りの定食屋で馬車を止め、中に入る。
「うふふ、このオムレツ美味しいわ。後でコツを教えてもらえないかしら」
関所と追っ手を爆破した後とは思えない素晴らしい笑顔である。
店の人も怯えてしまっている。
食事を終えた俺達は、マダキア城下を抜けるため移動を開始した。
一日でも早く着くため、迂回をせず真っ直ぐにグローシニアに行くには、どうしても王都を通らないといけないのだ。
その選択が、歴史の大きな転換期になることを、俺はまだ知らない。