7 出発
パンサー事件の二日後、母さんの調子はすっかり元通りになり、フィルさんに呼ばれて応接間に通される。
そこには王とエリー姫が待っていた。
「解呪の手腕、見事であった。褒美の金貨じゃ」
王様はそう言うと袋いっぱいの金貨をくれた。
「ガン坊、ありがとう。大事に使うわね」
これだけの金貨があれば、数年は楽をして暮らせるだろう。
「リーゼロッテよ、そなたの腕を見込んで、もう一つ頼まれて欲しいことがある」
「んー、どうしようかしら。早くウチに帰ってベネットと楽しく暮らしたいのだけれど」
えー、俺は冒険者ギルドに戻ってやり直したいんだけどな。
冒険者は俺の憧れだった。出来れば今後も続けていきたい。
ずっと家にいるつもりは無いのだ。
「お願いします。話だけでも聞いて行ってください」
エリー姫が母さんに懇願する。
「いいでしょう。話だけは聞いてあげますわ」
母さん、ちょっと偉そうだなあ。
フィルさんも苦笑いしている。
「こほん。いいかね。ここトリウス王国から西にあるグローシニア帝国まで、エリーを護衛してほしいんじゃ」
「護衛ですか?」
思わず口を挟んでしまった。
「うむ、向こうの皇子に輿入れする予定となっておる」
「あら~、結婚するの?いいじゃない~。ロマンチックね」
「しかし、遠方にあるグローシニアになぜ? 間にマダキア王国を跨いで」
「簡単よ、ベネット。マダキアを相手に戦争の疑いがあるから、背後にあるグローシニアと同盟を結びたいのよ」
「せ、戦争ですか?」
王様の顔を見ると、とても難しい顔をしていた。
「このまま行くと、近いうちにな」
そ、そんなに険悪だったのか。知らなかった。
「だから、隠密に事を運びたいのだ」
「ふーん、戦争しそうな相手の国の中を突っ切って護衛しろというの?私とベネットで?」
えー、無茶だ。危険すぎる。
「どうかお願いします。この危険な任務、リーゼロッテ様にしかお願いできません」
姫も頭を下げた。
もしかしたら自分が死ぬかもしれないのに。
せっかく呪いを解いて拾った命を危険な場所に追いやり、しかもグローシニアとの懸け橋となることを使命としてる。
俺には真似できない。俺は母さんのほうを見遣る。母さんはどう応えるのか。
「では、息子くんに男爵の爵位を与えよう」
「男爵ぅ?低すぎるわ。伯爵じゃなきゃダメよ」
おい、子爵を飛び越えていったぞ!?
「うーむ。わかった!それで飲もう」
「さらに二番目の姫をベネットに嫁がせてちょうだい」
「ええ!?」
「あら、三番目がよかった?」
何人作ってんだよ王様!
「わかった! 三番目をやろう。まだ10歳だがな!」
「王よ、それでは王位継承権はベネットに行ってしまいますがよろしいのですか?」
フィルさんが慌てて止める。
「よい!」
うわあ、話が大きくなってきたぞう。
「ようし、乗ったわ!行くわよベネット。未来の伯爵さま!」
こうして、俺達は姫様の護衛のために旅立つことになった。