6 魔女の呪い
パンサー事件の翌日、母さんの部屋を訪ねると、窓辺の椅子に座って、母さんがパンサーの毛づくろいをしていた。
「パンサーちゃんは黒い毛が綺麗ね~。ま、ベネットの髪のほうが綺麗だけど」
俺の髪の毛を猫と比較しないでくれ。
「うにゃーん」
ちょうど窓から入る陽射しがポカポカとパンサーに当たり、気持ちよさそうにしている。
「……。…ますか?」
ん?なんだ?
「誰か俺に話しかけた?」
「「いいえ~?」」
気のせいか?
「聞こえますか?今、貴方に話しかけています」
聞こえた!シーフの便利スキル、地獄耳でようやく聞こえる。
「聞こえますか? 私はこの猫に取りついているノミです」
ノミ!? まじか!? 俺はノミの声を聴いてるのか!
「私は悪い魔女にノミの姿に変えられた隣国の姫です」
隣国の姫は、確かに数年前に行方不明になっていた。
「どうか助けてください。この声が聞こえている貴方だけが頼りなんです」
「助けたら何をしてくれるんだ?」
母さんもパンサーも麗らかな陽気にうたた寝を始めた。話すなら今しかない!
「望むだけの富を。父から懸賞金がかけられていると聞いています。それに付随して私からもお礼を差し上げます」
「どうしたら助けられるんだ? 何か情報はないのか?」
「魔女は言いました。『ノミのあんたにキスをしてくれるような男性が現れたら呪いは解けるだろう』と」
「ええ? ノミにキスするの?」
「ノミではありません! 私は姫です! こう見えてまだ16歳で、まだ恋もしたこともない純情乙女です」
自分で純情乙女って言っちゃうんだ。
「でも、その、君の姿が見えないんだ。ノミじゃ小さすぎるよ」
「そこを何とか。私はこの猫の首元にいます」
仰向けに伸び切って寝ているパンサーの首元を見てみる。
見えん。真っ黒だ。
「ここです! ここです!」
あ、なんかちっこいのがジャンプしてるのが見える。
ええ、ほんとにノミじゃん。
「どうかキスを。愛しの王子さま」
誰が愛しの王子さまじゃ。
「わかりましたよ。では、いきますよ」
ノミに向けてキスをしようと顔を近づけていく。
「何をするにゃあ! フシャアアアア」
バシ!
パンサーは起きた。そして猫パンチをかましてきた。痛い。
「あら、パンサーちゃん起きたの? どうしたの? ベネット。猫パンチされちゃって。」
母さんも目を覚ました。これでは具合が悪い。キスができない。
「諦めないで! 貴方ならできます!」
(いや無理だろ、パンサーにキスしようとするように見える。)
「何を言っているのですか! この人たちにも事情を話して協力してもらってください」
「そうか、その手があったか」
「どうしたのベネット?」
「ああ、母さん、実はね、」
「あ、ノミがいた。えい!」
プチ
「あ」
「パンサーちゃん、ノミがいました。これで痒みから解放されまちゅね~」
パンサーを逆なでしてぐりぐりしている。
「うにゃん、くすぐったいにゃん」
やっちまった。
俺は今、一つの命が失われるのをみた。
「で、なあに?ベネット」
「いや、もういいんだ」
ぐったりと疲れた俺はベッドにダイブする。
「聞こえますか? 勇者よ、私はこのベッドにいるダニです」
もう、いい加減にしろ。