3 街道にて②
(SIDEベネット)
シュペーさんを助けて2日が経過した。
旅は順調だったが、雨がうざいな。ずっと降っている。
母さんは後ろの馬車でシュペーさんたちとずっと話している。
馬が合ったのかな?
そのときだった。
俺のスキルの探知レーダー内を素早く移動する何かがこっちに向かってくる。
敵か!?
「た、助けてにゃー!!! 」
…なんだ、猫か。
御者台に飛び乗ってくる長靴をはいた黒猫。
「た、助けてほしいにゃ! 」
「ど、どうしたんだ? 」
「このまま先にいくと、ゴブリンとオークの群れがいるのにゃ!わたちは狙われてるのにゃ! 」
毛を逆立ててフシャーとぼふぼふになってしまっている。
馬車を止めて、母さんに相談する。
「猫さんを守ってあげましょう。モンスターの群れは私たちでなんとかするわ」
私たちって…、母さん戦えるのか?
「魔法の腕なら大したもんよ? 」
わかったよ。なら、このまま進もう。
問題のモンスター群はほどなくして見えてきた。
「わたちも戦うにゃ」
そういって腰に差した猫用のサイズの剣を抜く。
ゴブリン5匹にオーク3匹か。確かに猫だけじゃ戦力不足だったな。
「ファイアボール! 」
母さんの魔法で戦端は開かれた。
指先から放たれたこぶし大の火球はオーク一匹に直撃。
やった!一匹仕留めた。
俺と猫とで前衛を担当しようと前へ出る。
数が多いけど、やれるか?
俺はナイフを逆手に持ちゴブリンに斬りかかる。
ガツン!
ゴブリンの持つこん棒に防御された。
「まずい! 」
素早くバックステップで距離を取る。
そう簡単にやらせてくれないか。
猫も猫で一匹のゴブリンと切り結んでいる。
「二人とも、離れて! 」
その声と同時に俺と猫はモンスター達と距離を取る。
「フレア! 」
今度はさっきより大規模な炎がゴブリン達を包んで燃やしていく。
うは~、そんな魔法も使えたのか。たった一撃でゴブリンたちは動かなくなった。
あとはオーク二体だ。
「アイス・ガトリング! 」
複数の氷の槍が二匹のオークを串刺しにしていく。
母さん、こんなに強かったんだ。俺達の出番なんてまったくなかった。
普段の母さんはそりゃ呑気で、虫を殺すのもためらうほどだったのに。
「えへ~。ブイッ。お母さん頑張ったよ~」
褒めたあとにナンだけど…飲んでたのか!酒くさっ。
「これくらい~、朝飯前なのです~ヒック」
シュペーさんを見ると、ちょっと申し訳なさそうにしていた。
「助けてくれてありがとうにゃ。わたちは猫ナイトのパンサーといいますにゃ」
「なんでパンサーちゃんはあいつらに追われていたの?」
「わからないにゃ。何でかずっと追ってきたのにゃ」
「お礼はなんにも持ってないにゃ。だから身体で払うにゃ。二人の旅にわたちもついていくにゃ」
身体で払うとは何事か。
「どうぞ…、肉球ですにゃ」
「あら~、プニプニしてるわ~。わかったわパンサーちゃん、一緒に天下を取りましょう」
天下ってなんだよ。
俺たちは天下を取るために旅してるんじゃないよ。
こうして、長靴をはいた猫、パンサーが仲間に加わることになった。
戦力が増えるのはいい…、だがなぜかずっと母さんの膝の上で丸くなってすやすや寝てる。
「あら~、ベネットちゃんもお膝使う?」
「必要ない!」
戦力というかマスコットだな。これは。
そんなこんなで2日ほどして、ついに王都が見えてきた。
俺たちは、検問を待つ長蛇の列に並ぶことになる。
「ひゃ~、でっかい門だにゃ~。」
いやあ、いつ見ても立派な壁と門だな。この門が開いたのはもう10年以上も前だっていうんだから、平和になったもんだ。
そうこうしてるうちに自分たちの番になる。
「シュペー商会です。いつもご苦労さまです。後ろの青年と猫も我が商会の者ですので」
「はい、通ってよし」
よかった。シュペーさんのおかげですんなり入れた。
「お、あんた美人さんだね。商会にはこんなエルフの美女もいるのかぁ。羨ましいなぁ」
「ほほほ、ありがとう」
母さんが褒められてる。
門番め、この女は子持ちだとは知る由もなかろう。
王都内の道はすべて石造りで舗装されている。
大通りの賑わいはエルフの里とは大違いで目が回りそうだ。
「リゼさん、私たちはこのまま商会に向かいます。宿はこの道を一本左にいったところの狼亭をひいきにしています。何か用があれば、ぜひ我が商会をおたずねください。わかるようにしておきますので。」
シュペーさんと別れて宿屋に向かう。
狼亭。名前はいかついが、久しぶりのベッドで寝られるのは大きい。
それで、なんで、王都に来たんだ? 母さんに聞いてみた。
「ん~。王様に呼ばれてるの。明日行くから、そのつもりでいてね」
は~!?王様?なんでそんなことに?
「王様に会いに行くのかにゃ。わたちもよく毛づくろいしておくにゃ」
「え、なに、パンサーも行く気なの? 」
「ダメかにゃ?」
「んー。大丈夫じゃないかな? もうパンサーちゃんはウチの猫だし。大丈夫よ」
「大丈夫ならいいかー」
なんだか頭回らなくなってきた。
とりあえず寝よう。