29 古龍
馬車はトリウス王城からの使者であった。
なんと、近衛騎士のフィルが直接来たのだ。
「王城の西の山に、古龍が出たとの噂が立っております。もし本当に古龍が出たとすれば、国が滅びてもおかしくありません。リーゼロッテ様、どうか調査をお願いできないでしょうか?」
「うーん、古龍ねぇ。どうしようかしら」
「お母様、私からもお願いします。どうかお力をお貸しください」
シャルがフィルの横に立って頭を下げる。
「シャルちゃんにお願いされちゃったら仕方ないわ。私に任せなさい!」
ああ、請け負ってしまった。古龍だぞ。誰も見たことない生物を探せっていわれても、
「母さん、難しくないの? 見つけられるかもわかんないんだよ?」
「大丈夫よ。古龍って言われるほどの生き物なら、きっと近くまで行ったらパンサーがブルブル震えるわ」
パンサーはいつからセンサーになったんだ。確かに毎回震えてるけど。
「それに王城の西の山って言ったら、果物がいっぱいとれるところだわ。みんなでピクニックするのに丁度いいわ」
「それなら我も行こう。怪しい気配がしたらすぐにわかる」
ミーアゴッズもついてくることになった。
と、ゆっくり準備をして、西の山にゲートを使って飛んできたのがついさっき。
「ここで御昼ご飯にしましょう」
山の中腹あたりでシートを広げて各自、お弁当を広げる。
館の全員が着いてきたので大所帯だ。
「景色がいいですわぁ。ここから城が見えるんですのね。知らなかったですわ」
「わたちも初めて来たにゃ。良い所にゃ~」
シャルとパンサーが仲良くお弁当を食べている。平和だなぁ。
ホントにこんなところに古龍なんているのかな?
「む。感じるぞ。これは大きな力の波動だ」
ミーアゴッズが何やら見つけたらしい。
「ほ、本当にゃ。ビリビリするにゃ」
パンサーセンサーが反応してブルブル震えている。
そうか。今までパンサーが震えていたのは、怖いからじゃなかったんだな。
『キシャアアアアアアア』
鼓膜が破れそうなくらい大きな咆哮が聞こえた。
「あれ? この声は……、」
母さんはいつもながら呑気だ。
その瞬間、谷間から巨大な古龍と思わしき物体が飛び出してきた。
『人間どもよ、私の眠りを覚ましたのは貴様らか』
ズウゥゥゥゥン
大迫力の巨体が目の前に広がる。
これが古龍か。
銀の鱗に守られた、まるで城のような存在感であった。
か、勝てない、こんなのに!
「あらー、やっぱりドラゴノーラじゃない!」
え?なに?
『え、リーゼロッテ? 久しぶり~』
何なの? 知り合いなの?
巨大なドラゴンはみるみる小さくなり、人型になった。
キラキラ輝く金髪に碧い瞳。二本の角が生えた姿だ。
「ベネット、紹介するわね。神龍のドラゴノーラ。ママ友なの」
「お初にお目にかかります。ノーラと呼んでね。そう、この子がベネットなの。産まれてよかったわね」
「そうなのよ~、パパに似てカッコよく育ったわぁ」
「そうね~、よく似てるわ。二人ともずっとイチャイチャしてたから、すぐ子どもが出来ると思ってたけど、本当に出来てよかったわ~」
「ノーラ、ありがとう。それにしてもなんでこんなところにいるの? もっともっと西の竜山脈にいたじゃない?貴方。」
「いやあ、この辺り散歩してたら寝ちゃって。気づいたら私の上に山が出来てたのよ~、びっくり」
二人のマシンガントークは止まらない。ほんとに友達なんだな。
「それで、コンクレアスは今は一緒にいないの?」
ん?コンクレアス?父さんのことか?
「うん、そうなの、お酒買ってくるって言ったっきり帰ってこなくって(遠い目)」
「あんなアホ亭主なんか止めとけって言ったのに~」
「そこが可愛いんじゃないの~」
「は~、わっかんないわ~」
古龍退治はしなくてよさそうだな。神龍って言ってたし。害はなさそうだし。
「あ、そう、貴方、この国の人たちに怖がられてるわよ」
「え?そうなの? やだぁ、なにもしないわよぉ」
「あ、そうだ、ウチくる? 美味しいお茶菓子用意するわよ~?」
「あら、いいの~? でも貴方の家、エルフの里でしょ?ろくなもん無いんじゃないの?」
「今は引っ越しておっきな館に住んでるからあるんですぅ」
「コンクレアスが見たら驚くでしょ~?」
「そうなのよ~。見せたいわ~」
ママ友さんはウチに来る気満々らしい。
「コンクレアス……、だと?」
ミーアゴッズが何かに気づいたように驚いている。
「やっとわかった。見たことがあると思ったが、俺が会ったのはアンタの親父だ。コンクレアス。ヤツの名は決して忘れない」
「え、もしかして親父も何かご迷惑を?」
「ああ……、お前の親父は、魔王だ」
「え、名前はマオじゃないですよ?」
「違う。大魔王だ」
え……?
なんだって?




