23 魔王城
そびえたつ魔王城(仮)はかなり大きい。
稲妻が響き渡る中、これまた大きな扉の前まで来た。
「ごくり。俺のシーフとしての勘が告げてる。ここはやばい。皆、覚悟してくれ」
ウチから全員着いてきたので大所帯だ。魔王を相手に守り切れるだろうか。
「わたちもビリビリ感じるにゃ。ここは間違いなく魔王の城にゃ」
パンサーがビクビクしている。
なんか毎回ビクビクしてるな、パンサー。
「魔王の城なんてカッコいいですわ。一度は入ってみたかったですの」
この中で唯一の素人であるシャルはピクニック気分だ。何があってもシャルは守らなければ。
「はーい、じゃあ、開けるわよ~」
母さんはゴゴゴゴゴゴゴという音をさせながら重そうな扉を開けていく。
もうこの時点で母さんは規格外だ。
どうやったらこのサイズの扉を開けられるんだよ。
「なあんだ。あっけないわね。いくわよ皆。ついてきて」
母さんが先導して城の中をズンズン進んでいく。
「母さん、罠があるかもしれないから気を付けて!」
「大丈夫よー!」
ガコンッゴロゴロ
うわっ!前から巨大な岩が迫ってくる!
「ふんっ」
バキッ
迫りくる岩をパンチ一撃で粉砕する母さん。
「わお、びっくりした」
「今の普通逃げるとこだよね!?」
「さ、どんどんいきましょっ」
それからも次々と罠が発生していく。
炎の壁、落とし穴、毒矢。
ことごとくを跳ね返していく母さん。
「最近お腹がぷよってきてて、毎日ここで運動しようかしら。」
「魔王城でダイエットするなんて聞いたことがないよ」
「奥様は十分に痩せております。私も見習わなくては」
「そう?ありがとうローザ。でもクッキーは甘さ控えめにしてね」
などと言いながらも現在進行形で罠は発動してるのである。
母さんの前では罠など無意味であった。
俺のシーフの罠検知警報は鳴りっぱなしである。
ついには大広間に出た。
そこには俺の5倍はデカいゴーレムが待っていた。
「ここは通さない」
おお、喋った。
「フン、ゴーレムごときが!リーゼロッテよ、このグレイに任せるのだ」
「時間が惜しいから倒しちゃうわね」
ドゴッ
母さんのパンチ一撃で崩れ去るゴーレム。
「ワタシの見せ場が!」
残念がるグレイ。
ついに魔王城の最深部までたどり着く。
玉座の間には誰もいなかった。
「あら~、誰もいないわね~」
残念そうな母さん。
「もしかしたらもう引っ越しの後かもしれないにゃ」
「なるほど、引っ越しの後なら仕方ないわね~」
「というわけでここにあるツボはわたちが貰っていくのにゃ」
パンサーが高級そうなツボを手に取る。
「あ、じゃあ、私は下に引いてある絨毯を貰っていきますね」
ミカが廊下に敷いてある絨毯をくるくる巻いている。
「旦那様、あそこに掲げてある剣、何か禍々しい気配がします」
ローザが指差したのは玉座の横にある立派な両刃の剣だった。
「ふむ、鑑定!」
呪いの類はかかっていなさそうだ。
貰っていくか。
しばらくして……
「は~い、じゃあ、各々必要なものは持ったわね~?」
「「は~い」」
「ゲートを開いてお家に帰りましょう!」
「「はーい」」
こうしてそれぞれがお土産を持って帰途についた。
※※※※※※
後日……、
「な、我の城のものが何もない~!」
「強欲のツボも、魔剣も、空飛ぶ絨毯も!なにもない!」
城の主は玉座の間にあるゲートの痕跡を確認して歯嚙みした。
「これは……、人間の匂い。人間め!よくも我の物を!覚えておれ~!」
何もない大広間に魔王の声がこだました。