21 ヘキサのおつかい
私の名前はヘキサ。元暗殺者で今はメイドをやっている。
リーゼロッテ様にお仕えし、お褒め頂くのが至上の喜び。
「ヘキサ、ちょっとお買い物頼まれてくれるぅ~?クッキーの材料切らしちゃって」
リーゼロッテ様の頼みとあらば喜んで。
すぐさま支度をし、街へと繰り出した。
ところがどうした。
何故か私と一緒にベネットとパンサー、グレイまでもが着いてきた。
「たまには散歩がしたくてね」
「わたちもお散歩にゃ」
「ワタシは行きたいところがある」
各々勝手なことを言っている。
「私は散歩ではありませんので、さっさと歩きますよ」
街の大通りを大股で歩く私。
リーゼロッテ様の寵愛を一身に受けるベネットめ。
妬ましい。そして喋る猫だ。なぜ猫と歩かねばならないのか。
「いつも母さんの趣味に付き合ってくれてありがとう。母さんいつも楽しそうにしてるよ」
ふ、ふん。私も楽しいのでいいのだ。
貴様に感謝されることではない。
「わたちたちに美味しいご飯作ってくれてありがとうにゃ。」
「感謝しとるぞ」
そうなのだ。
私の普段の仕事である着せ替え人形ともう一つの仕事は猫どもへのエサやりだった。
毎日三食欠かさず、三匹とも人並みに食うので作るほうは大変だ。
「ヘキサは優しいにゃーん」
リーゼロッテ様にお願いされたからだ!
ええい、脚にまとわりつくな!
と、そのときである。私の「暗殺者の勘」スキルが警報を鳴らす。
敵がいるのか!?
「む、この気配は!」
グレイも何かを察知したみたいだ。
「ういー! ひっく」
ん?なんだこの筋骨隆々な酔っ払いは。
周りの人に迷惑だ。寝ていてもらおう。
ストンと首筋に手刀をかまし、寝ていてもらう。
つもりだった。
スーッ
怪しい動きで避ける酔っ払い。
こいつ……、できる!
「へっ、ねえちゃん、そんな動きじゃオイラには当てられないよ」
今にも倒れそうなフラフラ具合なのになんて機敏な動きをするんだ。
「気をつけろ。こいつは酒の魔王シャベレゲブレだ!」
グレイが警告してきたが、なんだって?シャベレ……?
「にゃ、にゃんだって!? あの、酒を飲めばの飲むほど強くなる十大魔王シャベレゲブレですかにゃ!なんでこんなところにいるのにゃ!」
「名前言いづら!」
「おお、おめーさん、グレイじゃねえか。こんなとこで何をやってるんだ?」
「シャベレゲブレよ。ワタシはもう魔王を辞めたんだ」
「ヒック。新参のくせに入ったり出たり忙しいことだね」
十大魔王ならリーゼロッテ様の敵!
ここで倒す!
「ベネット様、ここは私がなんとかします。ベネット様は領民の避難をお願いします」
「わかった。でも、無理はするなよ」
「無理はしません。時間を稼ぐつもりで……、しかし、倒してしまっても構わんのでしょう?」
ベネットを遠ざけて戦闘準備をする。
勝てるか? 今の私に。
「ははは。オンナ一人に猫二匹。やる気なのかい?」
「気を付けるにゃ! もうすでにベロンベロンに酔ってるにゃ。相当強いと思われるにゃ!」
私は瞬時に間合いを詰め、刀を一閃する。
ひらりと躱される。
避けたと同時に蛇のようにうねって蹴りがくる。
ガツン!
思いっきり腹に喰らってしまう。
「ぐううっ」
腹の中身が全部出そうになるのをこらえる。
「へえ、よく耐えたね。」
このままではダメだ。本気を出さなくては。
服を破いてビキニアーマーだけになる。
「な、なんで破いたにゃ! 防御力が下がるにゃ!」
「うるさい駄猫!私の本気はこの恰好なんだ! 代わりに破壊力は大幅に上がった!」
「だ、駄猫じゃないにゃ……!」
「いくぞ酒の魔王、これが本気の私だ!スナイプアイス!」
ズバア!
超精密な氷射撃。
パシッ
頭を狙った氷は片手で受け止められる。
「余裕だよ」
その隙に再度、肉薄し、斬りつける。
ズシャア!
飛ぶ血しぶき!
バタッ
「やるじゃねえか、ねえちゃん。倒されちまったよ。あー、酒が飲み足りなかったかなぁ」
や、やった。倒した。
「た、倒したにゃー! すごいにゃ! ヘキサは強かったんだにゃ!」
「シャベレゲブレよ、残念だったな。ここで滅せよ」
グレイがそう言い、シャベレゲブレの胸元に肉球を置く。
すると紫色の炎がシャベレゲブレを包みこんでいく
「ヘキサー、大丈夫~?」
リーゼロッテ様だ。
この騒ぎを聞きつけて駆けつけてくれたのだろう。
「はい、十大魔王を倒したところです」
「この人が魔王?」
「そうにゃ! 酒の魔王、シャベレゲブレにゃ!」
「ふーん、お酒の魔王なんだね。飲み過ぎちゃダメだよ! ていっ」
シャベレゲブレにデコピンをかますリーゼロッテ様。
ドゴッ
すごい音と同時に、シャベレゲブレは消滅した。
「十大魔王を倒しちゃうなんて、ヘキサは強いんだね」
「いえ、リーゼロッテ様ほどでは」
実際なんだ、あの一撃は。シャベレゲブレが消滅したぞ。
「あー! ヘキサちゃん服は!? 私の作った服!」
「や、破いてしまいました」
「嘘でしょう! 帰ったら着せ替えね」
「はい!」
私はリーゼロッテ様とお買い物を済まし、館に帰った。
いつもより着せ替えが長引いたことは言うまでもない。