20 少年の恋
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僕の名前はトール。最近シュペー商会の支店に奉公に出た十歳です。
仕事は順調、算術もばっちりだし、未来の支店長間違いなしです。
そんな僕ですが、最近、恋というものをしてしまいました。
相手は伯爵家に居るシャルさん。
名前だけしか知らない。
僕が伯爵館へ食料のお届け物をしたときに偶然出会ったんです。
「お届けご苦労様ですの。ちょうどお茶が入っていますし、飲んでいきませんか?」
一目惚れです。
陽に照らされてキラキラ光る金髪、宝石のような碧眼。
動作は洗練されていて、どこかのお姫様のよう。
天使はこんなところにいたんですね。
もちろん、一緒にお茶しました。
商会であったことや失敗談を話したら、クスクスと笑って下さった。
なんて素敵な笑顔なんだろう。
もっと詳しく彼女のことを知りたい。
溢れる気持ちを抑えられなくなった僕は、みんなが寝静まった夜中に、伯爵の館に潜り込んだ。
自分でも何をしてるのかわからないです。
でも、夜じゃなきゃ話せないと思って、シャルさんに会いに来ました。
潜入したところまではいいけど、シャルさんの部屋がどこだかわからない。
暗闇の中、館の廊下をさ迷っていると、偶然にもギイとドアが開いてシャルさんが出てきた。
やった。これで話せる!そう思って近づいたその時でした。
「きゃあああ! 泥棒!」
そんな、僕は泥棒じゃない!
そんな声を出す前に
「泥棒たいさーん! ウインドブラスト!」
どこからか出てきた女の人に吹き飛ばされた。
あーれー
こうして僕の初恋は終わりました。
数日後、傷心の僕の元に新たな女性が現れました。
燃えるような赤い髪の毛、吸い込まれそうな黒い瞳。
「伯爵館のローザです。頼んでいた物を受け取りに来ました」
ローザさんっていうんだ。
なんて美人なんだろう。
女神様はこんなところにいたんですね。
「あの?もしもし?」
おっと、見惚れてしまいました。
ご依頼の物を受け渡すと女神様は去っていった。
……、また伯爵館の人だった。
僕の天使も女神様も伯爵館に住んでいる……、
もしかして伯爵様に脅されて二人は強制労働させられているんじゃないだろうか?
僕はまた、伯爵館に忍び込む。今度はナイフを持って。
悪い伯爵から二人を解放しないと。
暗い中、ローザさんの部屋を探しさ迷うと、偶然にもドアが開いたらローザさんだった。
「きゃあああ! 泥棒!」
そんな!僕は泥棒じゃない! 女神様を助けに来たんだ!
その言葉は口から出なかった。
「泥棒たいさーん! ウインドブラスト!」
どこからか出てきた女の人に吹き飛ばされた。
あーれー
伯爵館は悪魔の巣窟だ。
またしても僕の恋は終わった。もう恋なんてしない。
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(SIDEベネット)
「ぶえっくし!」
誰かが噂でもしてんのかな?
それにしても、最近泥棒が多いな。
戸締りはちゃんとしてるんだけどな。
「旦那様、お茶が入りましたの。お仕事、休憩になさいませんか?」
「ああ、今行く。シャル、いつもありがとうな」
「そんな、妻として当然のことですわ」
頬を赤らめてくねくねしている。
「ベネット様、クッキーが焼きあがりました。」
「ありがとうローザ。ローザのクッキーが一番おいしいよ」
「お褒めに預かり光栄です」
ふう、休憩にするか。
今日もベネット一家は平和であった。