2 街道にて①
俺にとって母さんは偉大な存在だ。ここまで育ててもらった恩もある。
だが、まさか一緒に幌馬車の旅をするだなんて思わなかった。
「ベネット、調子はどう?」
「ああ、体調は万全。むしろ調子がいいくらいだ」
「無理しちゃダメよ~。いつでも御車は交代するからね~」
いくらなんでも母さんにやらせる仕事じゃない。
馬も機嫌がいいし、この調子なら早く王都に着きそうだな。
母さんをみれば目を瞑ってうつらうつら船を漕いでいる。
起こさないようにしてやらないと。
エルフの里から王都までは街道に沿って一週間といったところだ。
ぽつ、ぽつ、
「ん。雨か」
幌付きだから雨に濡れることはないが。
うーん、ちと寒いな。
母さんが風邪ひかなきゃいいけど。
ん……?なんだ?行先に何か見える。
どうやら馬車が止まっているようだ。
「どうしました? 」
俺は馬車を寄せて困っている風の人たちに声をかける。
「ああ、片輪がハマってしまってね」
見れば、確かにミゾにハマっている。
これくらいなら、こっちの馬車にロープで括り付けて引っ張れば脱出できそうだ。
「母さん、手助けしてやってもいいよね」
「いいよ。私もいっちょ、やりますかね」
2人で降りて作業を開始する。
といっても俺一人ですぐおわることだ。
引っ張るタイミングで「せーのっ」と台車を押す。
その瞬間後方で光った気がする。母さんが魔法を使ったのだろう。
ミゾがほぼ何もなかったように埋まっていた。
「ふふっ、私にもこれくらいはできるんだからね」
「ははっ、初めから母さんに任せればよかったね」
2人でひとしきり笑ったあと、馬車の人から挨拶があった。
「このたびは助けて頂きありがとうございます。私どもは王都に向かう途中の商人でございます」
「奇遇ですね!私たちも王都に向かう途中だったんです。なんだったら護衛しちゃいますよ」
「母さん、また、勝手に決めて!」
「いいじゃない、こちらベネット。優秀なシーフだから敵モンスターや罠があってもばっちりよ。私はリゼ。無敵のお母さんよ」
「は、はあ、私の名前はシュペー・ベルドナンドと申します。シュペー商会の会頭をしております。何分急いでいたもので…。その護衛の話、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかりました。俺が責任をもって護衛を果たしてみせます」
「きゃー、ベネット、カッコイイ!」
ちゃちゃを入れるな!恥ずかしい!
とはいえ、決まった話なので、前衛が俺の馬車で、あとからシュペーさんの馬車がついてくることになった。
母さんは
「お話がしたいから」
と、シュペーさんたちの馬車に同乗した。
旅は道連れとはよく言ったもんだ。母さんが楽しそうならそれでいいと、馬車を動かし始めた。
※※※※
(SIDEリゼ)
最近雨がよく降る。
雨季じゃないんだけどな。
ベネットが馬車を助けると言い出した。
やっぱり優しい子だ。ここは、お母さんもいいとこ見せないとね。
ミゾにはまった車輪を見てピンとひらめいた。
土魔法でミゾをなくしちゃえばいいよね!
ミゾに向かって手をかざし、
「アース」
と唱える。
光と共にミゾがなくなって、平坦になっていく。
それをみていた(あとから名前わかったけど)シュペーさんが驚く。
「え、詠唱なしで魔法を使えるのですか!」
「ええ。これくらいちょちょいのちょいです~」
ベネットには悪いけど、勝手に護衛の件引き受けちゃった。
もしものときは2人でどうとでもなるでしょう。
ベネットを一人にして商人さんの馬車にお邪魔する。
「リゼさんは、魔法がお得意なんですな~。無詠唱なんて初めて見ました」
「そうです!得意なんです。にこっ。もしものときは私がみなさんを守りますから、ご安心ください」
「王都に着いたら、お泊り予定の宿はありますか?もしよろしければ、私のほうでご用意出来ればと思いますがいかがでしょうか?」
「本当ですか?それはありがたいです~」
「助けて頂いたお礼です」
うふふ、儲けたわ。やったね。
ベネットも安心して眠ることが出来そうね。
道中これ以上なにもなきゃいいけど…。