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19 組織を追放されたのでお母さんの元でメイドとして働きます。

私の名前はヘキサ。ある組織の雇われ暗殺者だった。

そう。「だった」だ。度重なる失敗を理由に解雇されてしまったのだ。

私は苦悩した。

百発百中だった暗殺が失敗に終わったのは、悪魔と呼ばれたリーゼロッテがあまりに強すぎるからだ。

このままではダメだ。もう暗殺者なんかやってられるか。

頭から離れないリーゼロッテの影。

何をしても手につかない。

思い出されるリーゼロッテの感触。

決めた。

ある決意を胸に秘め、やってきたのはトラムの街の領主の館の前。ドアが開くと同時に私は土下座した。


「私の名はヘキサ。リーゼロッテ様、弟子にしてください。貴方様の強さに惹かれました。どうか! この通りです!」


「結構です。間に合ってます」


出てきたメイドにすげなくあしらわれる。

諦めるもんか。私はなんとしてもリーゼロッテ様の部下になってやる。


「そこをなんとか! 弟子でなくても! 草むしりでもなんでもしますから!」


私は強引に足をドアの隙間に挟み、閉まらなくして頼み込む。


「ちょ、出て行ってください。困ります」


「お願いします! どうか! 後生ですから」


「どうしたの~? ローザ。お客さん?」


この声は! リーゼロッテ様!


「リーゼロッテ様! ヘキサです! 貴女を見て改心いたしました。どうぞ私を部下に! お使いください」


「リゼ様、お知り合いですか?」


お知り合いもなにも、命のやりとりを何度もした仲だ! 心通わぬわけがない!


「さあ、初めてお会いするわぁ」


知らない素振りを見せるリーゼロッテ様。なんと! 私をお忘れか!


「水着審査の折、間違って貴女様のブラをはぎ取ってしまった者です!」


「ああ~、あの時の」


「いかがいたしますか?」


「ん~。見た感じ、可愛い女の子だし、新しいメイドさんにしましょうか。ローザも一人で大変でしょう?」


「いえ、そんなことは」


「これは決定事項です。ヘキサちゃんをメイドにします」


「かしこまりました」


ん? 私がメイドだと? 暗殺稼業をしてきた私がメイド……。


「何かご不満?」


「いいえ!そんなことはありません! 誠心誠意メイドとして働かせていただきます!」


こうして私はリーゼロッテ様のメイドになった。

主な仕事はリーゼロッテ様の着せ替え人形である。


「ヘキサちゃん、可愛いわね、お洋服の作り甲斐があるわ」


興奮気味に私に服を着せてゆくリーゼロッテ様。

こんな趣味もあったのですね。



※※※※※※


「ヘキサが裏切ったぞ!」


「いえ、雇い止めをしたので、正確には裏切りではありません」


「バカ者!ヘキサが組織の事をバラしたらどうする! 我等の命に関わるぞ」


「ヘキサを消すしかあるまい」


「しかし……、誰がいきますか? あの悪魔リーゼロッテのもとへ」


「こうなったら戦力は多いほうがいい。ここに居る全員で行こう」


「どうやって近づきますか?」


「動物に化けて油断させよう」


一斉に頷き行動を開始する集団……、



※※※※※※


私の名前はヘキサ。伯爵の母、リーゼロッテ様のメイドだ。

今日は館の表側の草むしりをしている。ヒラヒラのレースがたくさんあしらわれた服を着て。


「ヘキサが来てくれて助かるわぁ。可愛いし働き者だし、とっても嬉しいわ」


リーゼロッテ様に褒めて頂ける、こんなに嬉しいことはない。

あぁ、暗殺よりメイドの仕事のほうが向いてたんだな。

鼻歌を唄いながら、雑草を抜いていく。


「私もたまには運動しますか。裏庭の雑草抜きは私に任せて~」


「いえ、そんな、リーゼロッテ様の手を煩わせるほどの事では!」


「いいのよ、たまには動かないとね~」


裏庭の草むしりを始めるリーゼロッテ様。


「ふんっ!あら?この雑草抜けないわ」


その瞬間、私のスキル「暗殺者の勘」が警報を発する。

何かがここを狙っている!


「ふんっ!ふーん!無理だわ。魔法を使いましょう」


どこだ! どこにいる! リーゼロッテ様は私が守る!


「えい!ダンシング・ウインド」


ビュウウウン


突風が裏庭を襲う。


ぴゅーん


『うわああああああああああああああ』


「何か言った?」


「いいえ?」


裏庭がごっそり削れた。

何も置いてなくてよかった。


「ふう、スッキリしたわね」


「暗殺者の勘」の警報は鳴りやんだ。

なんだったんだろう。

やはり暗殺者を辞めたから勘が鈍ったのだろうか。


「さ、ヘキサ。草むしりも終わったし、クッキーでも作りましょう」


「はい、リーゼロッテ様!」



※※※※※※


「いたぞ! ヘキサとリーゼロッテだ!」


「慎重に行け! リーゼロッテに気取られるな!」


「裏庭まで着いたぞ! 魔法でヘキサを消すぞっ」


「よし、今だ!」



『えい!ダンシング・ウインド』


ぴゅーん


動物の集団は飛んで行った。


「うわあああああああああああああああ」




「ええい、またしても失敗したぞ!」


「もう諦めましょう、きっと無理なんですよ」


「あほか! 我等の命が危ないのだぞ!」


「もしかして、こちらから手を出さなければあの悪魔は何もしてこないのではないでしょうか?」


「え? そうなの?」


「え? もしかして、ほんとに?……、」


一斉に静まり返る集団。

果たしてこの集団は一体何なのか!?




こうして今日も平和なベネット一家であった。

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