16 苦手なもの
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一方そのころ、とある組織。
「リーゼロッテを止めることは出来んのか? このままでは我が組織が潰されるのは時間の問題だぞ」
「あの悪魔めっ! 次こそは仕留めてやる!」
「ヤツに弱点はないのか!? そこを突けば、あるいはやれるかもしれん」
「フッフッフ、もう情報は掴んでいます」
「なに? それは本当か?」
「悪魔リーゼロッテ。ヤツの弱点は……、」
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(SIDEベネット)
街は順調に大きくなっている。
今日は母さんと散歩がてら街の中央広場の市場に来ているのだが、こりゃすごいもんだ。
人の賑わい。商品の流通。王都にも引けを取らないんじゃないか?
「勇者様! こいつをどうぞ!」
店の店員からヒョイッと投げられたモノをパシッと掴む。
それは真っ赤なリンゴだった。
「シャクッ。ありがとう。美味しいよ」
勇者ではないんだがな。
笑顔で店をあとにする。
「母さんにもちょーだい。あーん」
「あーん、じゃないよまったく」
俺が食べた反対側を差し出して口に突っ込む。
「もがっ、乱暴ね!もう!むしゃむしゃ、美味しいわ~」
ふと、気になることを聞いてみた
「母さんは何が好き?」
「ベネットが大、大好きよ!」
めっちゃ目がマジだ。キラキラしてる。
「じゃ、じゃあ、嫌いなものは何?」
くそっ、照れちまった。恥ずかしい。
「えー、口に出すのもおぞましいわ」
「へー、母さんにも弱点があったんだ?」
「そうねー、アレを見ると、全身が総毛だつわ」
「いったい何なの?」
「それはね……、」
ドンッと子どもがぶつかって来て母さんがよろける
「あ、ごめんなさい!」
「いいのよ~、危ないから走らないのよー!」
「おーい! 早くこいよ! 面白いぜ!」
「うーん、いまいく!」
駆けていく子ども。
どうやら人だかりが出来ているところで見世物をやってるらしい。
「母さん、俺達も見に行こう!」
母さんの手を引き、人だかりに混じる。
そこには三匹の蛇を自在に操る蛇使いが座っていた。
蛇使いが吹く笛の音に合わせて、にょきにょきと踊る大蛇。
すっげぇ、よく手なずけてるなぁ。
「母さん、すごいなコレ!」
母さんのほうを見ると、
ゴゴゴゴゴゴゴ
え、なんか禍々しいオーラが。
「いやああああああああああああああああああああああああああ!」
ドゴッ
吹き飛ぶ蛇と蛇使い。
「わーん、ベネットぉ、蛇はダメなの~、あのヌメヌメしてるのがぁ!思わず吹き飛ばしたくなるくらい嫌いなのよ~!」
ガチ怒りしてる!
周囲は唖然としている。
とりあえず逃げよう!
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私の名前はヘキサ。とある組織に雇われた暗殺者だ。
リーゼロッテはさすがは悪魔といわれるだけある。前回は完全に失敗した。その失敗を取り返すためトラムの街に潜入している。
組織より情報がもたらされ、リーゼロッテは蛇が苦手とのことで蛇使いの変装をしてきた。
蛇は猛毒を持っている。噛まれればイチコロだ。
「おにーたん、へびたん可愛いね」
興行をしていると小さいお子さままで寄ってくる。
ヘビのディアンサは目標以外は噛まない。
私の音色に合わせてダンスする姿に人々は魅了され足を止める。
いいぞディアンサ!私たちは最高のパートナーだ!
なんだか楽しくなってきたぞ!
暗殺者など止めてディアンサと各地を回るのもいいかもしれん。
そのときだった。
『母さん、俺達も見に行こう!』
ヤツだ。私たちの興行もこれでおしまいだ。
なんだか少し、しんみりする。
だが、全てはリーゼロッテを仕留めるために。
見ろ!リーゼロッテが固まっている!
チャンスだ!
いくぞディアンサ。最後の仕事だ!
噛めと指示する。
その瞬間だった
ドゴッ
あーれー
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「またヘキサがやられた!」
「なに!? 今度は弱点を突いたんじゃなかったのかっ!」
「それが……、一撃で吹き飛ばされました」
「それは本当に弱点といえるのか!」
「ええい、倒せないなら意味がないわ!」
「また逃げる羽目になるのか!」
「逃げろ! 逃げろ!」
「逆探知されてるかもしれん」
バタバタと逃げ出す集団。
こうしてまたもやリーゼロッテは刺客を気づかずに退けたのであった。