13 伯爵領
トリウス王都に戻り、さっそく王様の元へ行く。
近衛騎士のフィルさんに案内され、接待室に入ると、もう既に王様と10歳くらいの女の子が待っていた。
「おお! リーゼロッテ! よく戻ってきた! 無事エリーの護衛を果たしてくれて感謝する」
王様はそれはもう満面の笑みで喜んでいる。
「んむぅ! ベネット君、その恰好は!」
ほら、やっぱり聖剣三本くくりつけてるのオカシイんだよ。
「伝説の勇者様の恰好じゃ。『その者、三本の聖剣を携えし者、悪を悉く討ち滅ぼすであろう』伝承の通りじゃ」
いや、勇者じゃないし、俺、シーフだし。
「勇者様、あなたが私の旦那様になるのですね」
だから勇者様とかじゃないから。というかどちら様!?
「私の名はシャルロッテ。お気軽にシャルとお呼びください。旦那様」
流れるような金髪で、ヒスイのように透き通った碧眼。背丈はまだ小さく顔も幼いが、将来整った美人になるのは間違いない。
「わっはっは。よく出来た娘じゃろう? 勇者に相応しい立派な妃になるじゃろうて」
「あら、こんなに小さいのにもう花嫁修業? ふふ、いいわ。お母さんがみっちり色々教えてあげる」
か、母さんが認めた! よかった、喧嘩にならなくて。
(ふふ、まだまだベネットは渡さないわよ)
なんか小声で聞こえる。
聞かなかった事にしよう。
「ふむ、そして、伯爵として相応しい領土を与えよう」
と、言われ、シャルちゃんを連れて伯爵領に来てみれば。
「ガン坊め!こんな辺境の土地なんて寄越して! 何もないじゃない!」
あまりの何もなさっぷりに母さんがキレた。
雄大な大自然だ。
「母さん、怒らないで。一から街づくりをしよう。俺、そういうの楽しみだな」
パンサーを撫でながらそう言うと、
「そう? ベネットがいいならいいわ」
ほ。危ない危ない。一歩間違えたらトリウス王国まで崩壊するところだった。
伯爵領に唯一ある『トラム村』に着くと村長のネズさんが領主の館まで案内してくれた。
「ほあ~、あんたたちが新しい領主さまかね~」
朴訥でのんびりとしたお方だ。
領主の館はトラム村を見渡せる小高い丘の上にあった。
扉を開けると、そこには年若いメイドが一人待っていた。
「お初にお目にかかります。この館の管理を任されております。ローザと申します」
赤髪に黒い瞳。あ、耳が長い。この人もエルフだ。
「ローザちゃんね、これからは一緒に頑張りましょう!」
母さんはローザさんの手を握ってブンブン振っている。
「いいお屋敷だにゃー。わたちのベッドも用意して欲しいにゃー」
「かしこまりました。ご用意いたします」
屋敷の中は綺麗に保たれていた。ローザさんの真面目さが伺える。
「ローザちゃん、お台所どこー?」
「ご案内いたします」
「私もご一緒いたしますわ」
母さんに続いて新妻であるシャルも台所へと続いて行った。
うんうん、仲良くやってくれ。
その晩はこれでもかというほど豪勢な食卓だった。
シャルとローザお迎えのパーティだ。
これからの門出にカンパイ!
……、にしても、トントン拍子に話が進みすぎて、ついていけんぞ。
一介の冒険者だった俺が気づけば伯爵。
聖剣を持って勇者様なんて言われちゃって。
今後どうなっていくんだろう。