12 湖
トリウス王国に帰る途中、グローシニア帝国の有名観光地であるサイオン湖に寄ることにした。
「まあ、素敵な湖ね。ベネット、休憩にしましょ」
サイオン湖はそんなに大きい湖ではなく、対岸が見える程度の広さだ。
だけど、水は透明で魚が泳いでるのがよく見えるとても水質のよい場所らしい。
「うふふ、つめたーい」
母さんは靴を脱いで湖の中に足を入れてちゃぷちゃぷしている。
「うにゃー! 魚が取り放題にゃ! ごはんにするのにゃー!」
パンサーは釣りを始めた。ときおり『とったにゃー!』と聞こえるから、収穫はまずまずなのだろう。
取ってないじゃん、釣りじゃん。
「そんなかたいこと言うにゃよー」
平和だな~。
ここら一帯には魔物も出ないみたいだし、俺も羽を伸ばそう。
ん~、と背を伸ばした瞬間のことだった。
「とったにゃー! うお! こいつは活きがいいにゃ!わっとっとっと」
ぽちゃん
パンサーの釣った魚が俺に激突した。
やべっ、大事な聖剣が湖に落ちた!
腰にくくりつけるだけだったのが災いした。
ボワワワワン
辺り一帯を霧が立ち込める。
「私はこの湖に封印されし女神エレオール」
なんか湖から美人な女の人が出てきた!
なんで女神が封印されてんすか?
「それはさておき、貴方が落としたのは金の聖剣ですか? 銀の聖剣ですか?」
何を言っているのだ? 俺が落としたのは……、
「普通の聖剣です」
普通の聖剣ってなんだか妙な言い回しだな。普通じゃないからな。聖剣自体。
「正直者の貴方には、この金の聖剣を差し上げましょ……、」
「知らない人からモノを貰っちゃダメって言ったでしょー!」
ドゴッ
急に割り込んできた母さんのパンチ一撃で、どこかに吹っ飛んでいく女神。
「ふう、危なかったわ。知らないオンナにベネットが誑かされるところだった」
女神様ぁー!!!
あれ?封印されてたんじゃ…、これ解いたことになるのかな?
残されたのは金の聖剣、銀の聖剣、普通の聖剣。
「あら? 聖剣が三本になったわね。ベネット、装備してみて」
だからシーフだから装備出来ないんだって。
ごっつい聖剣三本を腰に二本、背中に一本くくりつける。
「きゃー、ベネット、男前!」
ほんとか?絶対、不格好になってるだろ?
「いいにゃー、わたちも聖剣ほしいのにゃー」
普通の猫にはサイズ的に無理だろパンサー。
こうして三本の聖剣を手に入れた俺達は、トリウス王国に向かって馬車を向けたのである。
そういや、今回の護衛の褒美に伯爵になるんだっけ?あれ?嫁さんも貰えるんだっけ?
マダキア潰しちゃったけど、今更、約束は守られるのであろうか……。