10 グローシニア帝国
一方そのころ……、
「おい、リーゼロッテが動き出したぞ」
「あの悪魔がっ」
「見たか? マダキア城のエクスプロージョン」
「あの大きさの城を一撃……、なんて火力なんだ」
「恐ろしい、なんとしてもリーゼロッテを消さなければ」
「ククク、もう手は打ってある」
「それは本当か?」
「ああ、任せておけ……」
※※※※※※
(SIDEベネット)
マダキア城を爆砕してから、追手は当然のようにいなくなって、無事にグローシニア帝国に入ることが出来た。
グローシニアの帝都がもう少しという所で、帝都から煙が上がっていることに気づき、今は様子を見ている。
どうやら帝都は何者かに攻められている最中らしい。
時折、爆発音と鬨の声が聞こえてくる。
「まずいよ。これじゃ王都に入れない」
「え~、じゃあ、また爆破しちゃいましょうか?」
顔面蒼白になる俺。
「母さん、加減して! 同盟国だから! 壊しちゃダメだから!」
マダキアの二の舞は避けたい。
「は~い」
母さんは浮かび上がり、すぐに上空へと飛行した。
すごいな。遠くまでよく見渡せそうだ。
「ベネットー! おーい!」
上空から手を振る母さん。
「見えてるよー母さーん」
「やっちゃうね~」
「気を付けて~」
大丈夫なんだろうか。なんだか心配になってきた。
「特大の~ファイアボール!」
雰囲気がゆるい。
なのに出現した火の玉は母さんを包み込むであろうサイズ感だ。
ヒューン
ドゴッ
見事に攻め手の軍団へと命中。
消し炭に変えた。
初級攻撃魔法であろうファイアボール一撃で。
遠目から見て、城壁に壊れた様子はない。
完璧な威力調節だ。
「撤退だ~!!!!」
蟻の子を散らすように逃げ去っていく軍団だったものたち。
ほとんど壊滅状態であった。
「ベネット~、やったわよ~。褒めて~」
地上に戻ってきた母さんに
「自慢の母さんだよ」
「やだぁ、もう、いい子ねぇ」
自慢ではあるが、どこに出しても恥ずかしい母親だ。
また今回もやっちまった。
もう母さんが魔王ですと言われても驚かない気がしてきた。
「なんというか、流石ですね。お母さまは」
エリーよ、ちょっと引いてるじゃないか。
「ガクガクブルブル」
パンサーは震え上がっていた。
「ありがとう! 旅の者よ! そなたらは救国の英雄だ」
ファイアボール事件のあと、悠々と馬車で帝都に入ったらあれよあれよとグローシニア皇帝との謁見になった。
「私たちはただの旅人ではありません。トリウス王国より輿入れに参りましたエリーと申します」
「なんと、遠路はるばるようこそいらっしゃった。エリー姫の護衛の者たちであったか」
謁見の間は超が付くほどの歓迎ムードだ。皇帝自らエリー姫の手を取って喜んでいる。
「そなたらには褒美が必要じゃな。救国の英雄には、我が国に代々伝わる聖剣が相応しかろう」
「はっ。ありがたき幸せ!」
え。いいのかな?そんな貴重なもの貰って。
やったのは母さんだけど、聖剣は俺が受け取ることになった。
シーフなのに聖剣もらっちゃったよ。
(私が貰っても使わないから。よかったわね、ベネット♪)
母さんから急な念話が入ってくる。
俺の脳に直接語り掛けてくることも出来たのか!母さん畏るべし。
俺だってシーフだから使いこなせないよ。
その日の夜は大宴会だった。
こんなに飲んだのは久しぶりだというほど羽目を外した。