聖女*2
どこからか「うぅ………おとーさん、おかぁさーん!へんじしてよぉー!」という女の子の泣き声が聞こえてくる。
それを聞いた俺は急いでそこに向かうと、血塗れで倒れた男女と、泣いている可愛らしい少女がいた。
ハッ、と息を呑みながらも「大丈夫?」と俺が声をかける、
すると少女が「うぅ………だれぇ?」と返事を返してくる。
口足らずな姿に思わず庇護欲が湧くが、母の母乳攻めで培ってきた理性でねじ伏せ「どうしたの?逃げないの?」という。
すると少女が更に泣き出しながら「お"どお"ざん"どおがあざんがあ"あ"ぁ"ぁ"!!」と言って倒れている男女に泣きつく。
その血塗れの男女の姿を見て、これはもうどうしょうもない…………そう思いながらもどうにかならないかと、脳内を高速で回転させて考える。
すると、少女の姿にふと見覚えがあることに気づいた。
そう。エロゲのメインヒロインの一人である聖女だ。多分だがこの子は、聖女の幼き姿なのだろう。
そしてこの聖女、回復特化のチートキャラで確か神聖結界・完全回復という技が使えたはずである。
そうとなれば簡単だ。彼女に神聖結界・完全回復の詠唱を教え、魔力は自分が彼女に魔力譲渡で渡せばいいだろう。
何故俺が使わないかといえば、回復魔法はあるイベントをクリアしないと使えないため、初期から聖女、というジョブ持ちの彼女に頼るしかないだろう。
まぁそんなことは置いといて、そうと決まればさっそく行動開始だ。
「ねぇ………君、お父さんとお母さん助けたい?」と問いかける。
すると「でぎるの"?」と泣きながらも聞いてくる。
「あぁ………君が僕の言うことを聞いてくれれば助けられるはずだ。だからまずは泣きやんでくれ。」と言いながら彼女の頭に手を乗せ、彼女が落ち着くように微笑む。
すると少し落ち着いたのか涙がやみ、「うん。助けたい!言う通りにする!」と元気よく言う。
可愛い。流石人気投票2位だな、と思ったが頭の片隅に追いやり「じゃあ僕の後に続いて詠唱してね?」と言ってから「最初は大いなる神よ」だからね?と教える。
そこからは彼女との共同作業が始まった。
「大いなる神よ」
「おおいなる神よ」
ここで彼女の手を握り、魔力をゆっくり馴染ませるように送り込む。少女は真剣な表現で詠唱を続けてくれる。
「大地の恵みと癒やしの加護を」
「大地のめぐみといやしのかごを」
そしてここで一気に魔力を注ぐ。彼女の体がビクンッ、と震えるが彼女の肩を抑えながら詠唱を続ける。
「どうか我らにお恵みください」
「どうかわれらにおめぐみください」
ここで彼女の体内の魔力を聖属性に変換する。繋ぐ手が光り輝くが気にせずに変換させていく。
そして遂に
「神聖結界・フルヒールゾーン」
「しんせいけっかい・フルヒールゾーン」と発動のキーを発した瞬間、半径1メートルほどの半透明な結界が包み込み、そして彼女の両親に大地から光が流れ込む。
すると彼女の両親から傷が消えていき、消えかけていた命が瞬く間に回復していく。
それと同時に、何故か俺にまで光がかかり、俺の体から黒いモヤモヤのようなものが出ていく。
すると体が焼けるように熱くなり、俺は思わず「うがあ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!」と声を出してしまう。
彼女が俺の心配をして「だいじょうぶ?!」と声を掛けてくる。
そしてその顔には不安が宿っといた。
思わず俺は作り笑いをしながら「うん、大丈夫だよ?」と嘘の返事をする。
それから数分が経つと、体の痛みが収まっていき、代わりに自身の強い力を感じた。
それはまるで、封印されていた力が解き放たれた感覚で、なんとなく体に馴染んだ力だった。
今まで以上の強い力に思わず苦笑いしてしまったが、キョトンとした顔の彼女を見たら不思議と笑みが浮かんできた。
そして数分後、彼女の両親が目を覚ましたのだった。
「う、うぅ………俺達は一体どうなったんだ?」と言いながら、意識を取り戻した彼女の父親が目を開く。
すると「お父さん!」と起きた父親に、彼女は泣きながら抱きつく。するとめちゃくちゃ困惑顔になりながらも、彼女の父親は彼女を抱きしめていた。
しばらくすると「あれ………わたしはどうして………」と言う声と共に彼女の母親も体を起こし、彼女は「お母さん!」とまたもや泣きながら抱きついていた。
それから彼女が両親に説明をする姿を見て、とりあえずは落ち着くまで待とうと決めて、俺は体内の魔力に意識を向けて新しい力を感じ取っていた。
これは……………聖属性の魔力か?確かサブキャラは教国イベントをクリアしないと聖属性の魔法は使えなかったはずだ。それにこの魔力、先ほどみた聖属性の魔力にそっくりだ。
ていうか意味わかんないレベルで強い聖属性の魔力だし。
大体、さっき体から出ていった黒いモヤだって意味が分からないし、そもそも俺が魔法を使ったわけじゃないからなぁ。
俺が使えるのは聖属性以外の魔法とゲームの知識で得た魔力の変質だけだったはず………ん?待てよ?確か俺は、彼女の魔力にあわせて俺の魔力を変質させてから渡した。
つまり彼女の魔力の影響を受けて、俺の体内の魔力の一部が聖女の持つ聖属性の魔力に変質したってことか?
それだとしたらもうゲームバランス崩壊どころじゃないぞ!
つまりそれは彼女が使える聖属性の魔法全て使える………それすなわち聖女の力を手に入れたようなものだからな?
やべぇ。
ただでさえ魔力量がチートっぽいのに更に全属性使えるとかもうめちゃくちゃだろ…………まぁいいか。
強くなるための材料。
これはもうそういうものだと思うことにしよう。うん。それがいい。
そっちのほうが俺の精神衛生上いい気がするし。
それはそうと、聖属性の育成はどうしようか…………確か聖属性は回復、浄化、バフのどれかだったはずだ。なら魔力の一部を常にバフに当てとけば自然に成長するだろうし、多分それがいいだろう。
それでバフをなににするかだがど「ーーーーーーの、あの!」
「っへ?」
「何か考えごとをしてるみたいでしたが大丈夫ですか?」
……………どうやら俺が考えごとをして聞こえなかったようだ。いつの間にか話が終わっていたのだろう。
考えごとをしていた俺に、彼女の母親が話しかけてきた。
「あぁ、大丈夫ですよ。すいません、心配をかけましたね………それで、話し合いはもう終わりましたか?」と丁寧な口調でいう。
「えぇ、おかげさまで………………それで、この度は助けていただきありがとうございました!このお礼はいつか必ず!」と頭を下げてくる。
それと同時に、彼女の父親も「娘と俺らの命を救ってくれてありがとう。礼は、出来ることならなんでもする!」といって頭を下げてきた。
なんかむず痒くなった俺は「いえ、あなたたちの命を救ったのは娘さんですので………お礼は娘さんの方にどうぞ」と頬を指で掻きながらいう。実際彼女の聖属性の魔法がなかったら助けられなかったしね。と思いながら。
すると彼女の両親が「え?フィリアが?」というキョトンとした声を同時に出す。
どうやら彼女が回復魔法を使ったことは知らないらしい………………一応、今後のためにも詳しく伝えておくか。と思い、彼女のことについて両親に話すことを決める。
「はい。お宅の子が聖属性の魔法を使えることは知ってますか?」
「え、えぇ……………確かにフィリアは回復魔法が使えますね。前に一度、私が指を切ってしまったことがありまして…………そのときにフィリアが詠唱もせずに私の指をぎゅっと握っただけで治ったんです。
それでちょっと調べてみると回復魔法……‥…聖属性の魔力を持つ人が傷に触ると少しだけ治る場合があるらしくて、それでフィリアが聖属性の魔力を持っていることが分かったんです。
でも聖属性の魔力を持っていることがバレると聖光教会に引き取られるじゃないですか…………それでずっと、父とフィリアには内緒にしてたんです」と彼女の母親は話してくれた。
彼女の父親はえ"?という顔をしており、聖属性の魔力を持つ本人の彼女もキョトンとした顔をしていた。
それで今、話にでた聖光教会なのだがこれはもうかなりの闇が詰まっている。
聖光教会とは表向きには回復、浄化を仕事とする神を崇めるといった宗教団体で、回復や浄化をしてもらう客は聖光教会にお布施金を払うというシステムだ。
そこだけ聞けば普通の宗教団体団体なのだが、裏ではかなりやばいことをやっている恐ろしいところだ。
例えば聖属性の魔法が使えるものはほぼ全員聖光教会に引き取られる。
多額の手切れ金があるためほとんどの平民は息子や娘を喜んで預けるが、時々そうでないものもいる。
そうなった場合は家族全員盗賊の服を着た教会騎士たちが殺していき、聖魔法の使い手だけを見えない場所に奴隷紋をつけて操ったりもする。
または小さな村だった場合村一つを滅ぼしてから孤児として育て、その間で洗脳をすることもある。
そのため聖光教会は反国家組織や麻薬、違法奴隷商、暗殺者ギルドと繋がっていたりもする。
しかし聖光教会の力が届かないのが貴族たちだ。
以前教会が王族に手を出したことがあり、そのせいで一度王都にある教会が燃やされたことがあるのだ。
それからというもの、聖光教会は王族や貴族には手を出せなくなったのだ。
ならば国をあげて聖光教会を滅ぼせるかといえばそうというわけでもない。何故なら教会は『神聖国家・プリュンヒルデ』という教国と呼ばれる国から派生した団体で、俗に言う支社、大使のような扱いなのだ。
そのため王族や貴族は見えないところなら、と許容している部分もある。
とまぁここまで話したのはゲームの知識の部分であり、実際はどうなのか分からない。
ただ一ついえることは今回も聖光教会が絡んでいるのは間違いない。
何故なら……………
「隠れていないでそろそろ出てこいよ。教会の犬」
そう俺がいうと、俺の後ろの木からカサカサ、という音がなり、純白の鎧に身を包んだ騎士が現れる。
「へぇ…………まだ幼いのに僕に気づくなんてやるじゃないか。いつから僕に気づいてたんだい?」と髪をかきわけながらいう男騎士。
「最初からだ。あんな気配丸出しでよくそんなこと言えたな…………それと、これ以上近づくな。これ以上近づくなら容赦なく首を切る」とこちらに歩み寄ってくる男騎士にいう。
そう。
最初から気づいていた。彼女が助けを求め、話をしているところを見ていたことも知っている。
「ふふ、流石だね…………秘匿されているはずの聖属性の最高位魔法を知っているだけのことはある」そういいながらも騎士は歩みを止める。
「そりゃどーも。んで、教会は村を滅ぼして彼女を奪いたかったわけですか…………まぁ残念ながら今回はご縁がなかったということで。どうぞお帰りください」というと騎士は驚いたような顔をし、それから楽しそうにニッと口角をあげた。
「ハハハッ!そこまで知っているのか!実に愉快だな!あぁ、そうさ。大司祭様がね、彼女を……………聖女を何がなんでも連れてこいっていってね!まぁ教会が引き取るといっても聞き入れはしなかっただろうし、いっそのこと村一つを滅ぼして彼女を孤児として迎え入れようと言うことになってね!だから彼女を渡して貰おうか!これは大司祭様の命令だ!」
そういって騎士は俺に剣を向けてくる。
まぁやっぱりこうなるよなぁ………ゲームでも、彼女は孤児として教会で育てられたっていう設定だしね…………まぁ渡す気はないんだけどね。
「ははは…………まぁこの子は渡せないかな。そっちこそ尻尾振りながら帰りなよ。僕は公爵家長男のナノシア・アスフィリアだよ?つまり次期公爵だからね………君を不敬罪で処分してもいいんだよ?」という。
この国では、王族や貴族に剣を向けた場合斬り捨てていいことになっている。
平民の場合も拘束のほうが好ましいが、自らの命最優先といった感じで平民と平民の場合は捕まることはない。
そんなこと考えていると後ろから「貴族様だったんですか?!」という彼女の母親の驚いたような声が聞こえてくる。
あっ、自己紹介忘れてたわ………
まぁそれは置いといて………今は目の前の騎士だろう。
その目には明らかな動揺が浮かんでいる。きっと貴族に、それも公爵家の長男に手を出していいものか悩んでいるのだろう。
このまま諦めて帰ればいいのに。
しかしそんな期待を裏切るように騎士は俺に剣を向け「皆殺しにすればいい話だ」という。
はぁ…………戦闘開始か。
「仕方ないなぁ………………今すぐワンって吠えながら帰れば見逃して上げたのに。ほら、ワンちゃん?かかっておいで!」と挑発する。
すると頭に青筋を浮かべ、「殺すっ!」と言いながら、引き攣った笑みで俺に向かって剣を中段に構えながら駆け出してくる。
その構えはゲーム内で中級に位置する『聖剣流』という700年前の天魔大戦時の剣聖が使っていたとされる剣技で、聖光教会に属する聖騎士のほとんどがこの剣技を使っている。
まぁ当時の剣聖が使ってた剣技は『白狐流』というスピード重視の最上位剣技なんだけどね……………確かこの国の剣聖だかがつかえたはずだ。
俺は今、そんなことを考えられるくらいには落ち着いており地面に『錬金』といって地中から鉱石を抽出し、そのまま錬成、更に2双の剣を作り出す。
その色は紅い光を帯びており、ステータスに補正がないため伝説級とまではいかないまでも逸話級以上であることは間違いないだろう。
そしてこの鉱石は紺色鉱石ヒヒイロカネだと思われる。というかまさか、こんなところでヒヒイロカネが採れるとは思わなかった。
後で全部収納袋に入れよ。と思う。
俺は若干驚きはしたものの、何かしてくると思ったのかバックステップで俺から離れた騎士に向かって1本の剣を向ける。
「いくぞ!」
そう宣言した俺は、常に掛けている身体強化に『身体強化』と唱え重ねがけし、更に先ほど手に入れた聖魔法の『フィジカルアップ』を唱える。
すると騎士が驚いたように「っ?!」という声をあげる。
きっと、俺が聖魔法を使えるとは思わなかったのだろう。
そのまま俺は風魔法の『ブースト』を唱え一気に加速、そのまま相手の後ろにまわり込む。
「速いっ?!」と驚いている騎士の首に向かって容赦なく剣を突き出す。
咄嗟に反応した騎士が首を守るように剣を滑り込ませ、剣を逸らそうとする。
しかしそれは俺にとっては悪手だ。
「エンチャント・ウェポンブレイク」
そう唱えると騎士の首を狙う剣に黒い光が纏わりつき、そして騎士の剣と当たった瞬間…………パリンっと相手の剣が砕ける。
「なっ?!」と相手が驚愕の声を出す。
まさか自分の剣が砕けるとは思わなかったのだろう。
俺は驚愕している騎士の首にそのまま剣を突き出す。
しかし剣は騎士の首には当たらなかった。咄嗟に剣を持っていた左手で俺の剣を叩いたのだ。
そのせいで首を狙っていた剣がズレ、結果右肩に剣が刺さるだけとなった。
相手の肩から剣を抜こうとするが、騎士は肩に刺さっている剣を掴み、俺から剣を奪おうとする。
だが相手の肩に刺さった剣を諦めた俺は、体を思いっきり捻り、持っていたもう一本の剣で騎士の首を狙う。
咄嗟に防御をとろうとしていたがもう遅く、俺は相手の首をあっけなく斬り落とした。
(ううむ……………この世界に来て初めて人を殺したが、特になんとも思わない…………これも、異世界に脳が馴染んできたということなのだろうか?)
戦いが終わり、そんなことを考えていると母親の後ろにいた彼女が「だいじょうぶ?!」といってこちらに駆け寄ってくる。
きっと、俺が返り血を浴びて怪我をしていると思ったのだろう。
安心させるために「大丈夫」そう答えようとしたが、何故かフラッとして、「ねぇ!ねぇ!」という声を側に、俺の意識は闇に呑まれたのだった。
3日連続で更新なんて奇跡だと思う。どうもルナです。最近天気が悪く、更には風邪気味とクリティカル連続で喰らうレベルで酷い状態です。寝れば治る。それはそうと先日でポイントが30を超えました。⸜(*ˊᗜˋ*)⸝嬉しい気持ちと頑張らなきゃという気持ちでいっぱいです。
皆さんには感謝の雨あられです。
昨日あげた聖女*1については一度上げなおしました。理由はタイトルを変えるときに反応せず、結果再投稿という形にしました。ほんと迷惑をかけて申し訳ないです。これからも約一ヶ月毎日投稿頑張っていくのでどーぞよろしくお願いしまふ。
後日、ちょっとした閑話で1歳から4歳までにあったことを2話くらい投稿します