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6. 桐生静は、ただ静かに怒りを燃やす

 大量の殻なしカタツムリはキノコ類と共に昼食の料理となった。味は美味。調味料があれば、なお美味しかったかな。

 料理にはスパイスは基本。調味料を獲得もまた今後の課題だろう。

 ただし調味料がなくても創意工夫で、イケるにはイケるんだ。なんたって、料理を長年続けてきたエキスパートがこの場にいたのだから。そう、猫族の皆さんが料理上手な上に料理スキル持ちだった事が今朝判明したのだ。というか向こうからオロ爺に「昨日の料理は最高だったニャー。ニャーらは料理スキルあるニャー。料理作らせてニャー」と事前申告しに来たそうだ。料理をあまりしたことがない俺としては火で焼くくらいしか役立てそうになかった。人数が人数なだけに探せば、十数人は見つかるだろうと思ってはいたがとてもありがたい申し出だった。

 この世界にはスキルがある。あら不思議で、朝食から昼食どちらも食べると力が内からみなぎる。

「オロ爺」

「今回は聞かずともセイ様が何を言いたいか、わかりますぞ。ズバリ、料理スキルの効果ですな?」

「……多分それだ」

「やはり。料理スキルを持つ者が作った料理には大なり小なり効果があります。今セイ様が感じられているモノも、料理スキルによる効果ですな。口で説明するより直に見てもらった方が早いでしょう。ステータスを確認してくだされ」

「わかった」

 ステータスを確認してみれば、


 ――――――――――――――

 桐生静 16歳 男 レベル:0(永久)

 職業:なし

 筋力:110+500(-10000)

 体力:100+500(-10000)

 耐性:100+200(-10000)

 敏捷:100+100(-10000)

 魔力:10+100(-10000)

 魔耐:20+100(-10000)


 スキル:異世界言語


 バッドステータス:枷・無力・失速 ・超重


 料理付属効果:オークの筋力・体力持続・敏捷小UP・魔力小UP・魔耐小UP・ハンの幸運

 ――――――――――――――


 数字+αされていた。

 ふむ。摩訶不思議な現象とは、これを指すのだろう。

「これは凄いな」

「そうですな。わたくしめもここまで料理スキルの効果が反映されたのは初めてです。付属効果が付いていることにも驚きしかありません」

「そんなに凄いことなのか?」

「はい。とても凄いことです。料理スキル持ちというだけで、貴族などの高貴な者たちが喉から手が出るほど欲しがりますな。料理スキルは他のスキルと違い、日々の研鑽と努力とどれだけ良い料理を作れるかでレベルの上昇が判定されます。よって上昇値が上がらずに止まる者が多く、わたくしめの知る限りでは付属効果のある料理を出せる者などいないのです。料理スキルレベルが高くないと成せない所業ですな――」

「呼んだかニャ?」

 ひょこっと姿を見せるシマウマ模様の猫。猫といっても俺の知る猫とは違う。俺の知る猫は四足歩行だが、こちらの世界の猫族は皆一様に二足歩行だ。大きさはあまり変わらない。

「ハン殿!」

「食事してたら、ビビッときたニャー」

「ビビッと?ですかな?」

「ビビッとニャーを呼ぶ声が聞こえたニャー」

「そ、そうでしたか。セイ様、こちらが先程説明をしておりました高レベルの料理スキルを持つハン殿です」

「セイ様この度は奴隷から自由の身に開放感謝ニャー。ニャーはハン・コック、ミドルネームのコックは大事な人から受け継いだものニャー。気楽に接してくれニャー」

 一つ一つの動作が洗練されている。ここまで洗練するのにどれだけの時間がかかるのだろうか。

 身分の高い人の元で教育されていたと推測する。

「ああ。了解した。俺の名前は語らずとも知っていると思うが、静・桐生だ。とても美味い料理をありがとう」

 俺は隣で黙々と話を聞いていた白石さんに目線を送る。

「!」

 向こうもこちらを見ていたようで、すぐに目線に気がついてくれた。

「私は真琴・白石ですっ。とっても健康的なバランス料理を提供してくれてありがとうございます。感謝してますっ」

 手を合わせて、お礼を言う白石さん。

 ハンは目を見開き、

「ニャハハハハ。いい人間だニャー。マコちゃん、よろしくニャー」

 しっかりした足取りで、白石さんの足元にピョコンと座り込む。

「ハンさん、よろしくお願いします」

「固いニャー」

「えっ?」

「気楽に言うニャー」

「え、えっと――ハンさん、よろしく?」

「まだ固いニャー」

「えぇえぇー」

 困惑してるな。白石さん。

 助け舟を出そう。

「ハン、よろしくな」

 時にはくだけて話すのも必要だ。

 相手が望んでいるなら尚更必要だ。

 相手によっては堅苦しく話されるのを嫌う人もいる。逆も然りだが。

 今回は人ではなく、猫だが猫の社会ではどうなんだろうな。俺の知る世界の猫は皆自由気ままに生を謳歌していた印象がある。縄張り争い云々を取り除けば、ストレスフリーな猫生を送っているのではなかろうか。この世界の猫族の皆さんはどうかは今の時点でわからないことだらけだが、ハンにとってはくだけて話すのが一番重要そうだ。

「ニャハハハハ。マコちゃん、これニャーコレコレ。セイセイよろしくニャー!」

 バンバン俺の肩を叩くハン。

 セイセイか。

 あだ名で呼ばれるのはいつ以来だろうか。ハンにあだ名で返すか。ハンだから、ハッちゃんか。いや待て。ハッちゃんはたこ焼きを焼いているイメージがあるな。料理を作る意味ではイメージピッタリのあだ名だな。決めた。

「ハッちゃん」

「!……セイセイ」

 叩く手を止め、えっ、それニャーの呼び名⁈と目で語るハッちゃん。

「ハッちゃん」

「セイセイ」

 信じられないと言わんばかりのキラキラした目で見つめてくるハッちゃん。

「ハッちゃん!」

「セイセイ!」

「ははははははははははっ」

「ニャハハハハハハハハッ」

 笑った。心の底から笑った。

 あだ名で呼び合うのって最高だな。

「セイ様が笑った⁉︎ハン殿の呼び方を変えたですと⁉︎何か言い知れない絆で結ばれてるかのようにッ⁉︎1日の長はわたくしめの方があるというのにハン殿のセイ様への好感度の抜き方がエゲツないですぞッ!」

「わぁー本当に凄いっ。あだ名で呼び合う関係に秒でなっちゃう二人……あれ?一人と一匹?まぁーそんなの関係ないかッ。でも学校にいる時には笑ってる姿なんて考えられなかったよねッ。桐生くんがこんなに高笑いするところ初めて見たよッ。ハンちゃん凄いよッ!」

 白石さんは無意識だったのかもしれないが、ハッちゃんに対しての呼び方がさんからちゃんに変化した。

「白石さん!」

「ニャハッ!マコちゃん!」

「ちゃん付けですな!マコ殿!」

 俺、ハッちゃん、オロ爺はその変化にすぐに反応した。

「え?」

 白石さんは無自覚か。

「白石さん、今ハッちゃんのことをハンちゃんと呼んだの気づいた?」

「え?」

 無自覚恐ろしや。

「マコちゃん忘れたのかニャー?ハンちゃん言ったニャー」

 ハッちゃん、ちょっと残念そう。

「言いましたな。ハンちゃん凄いよとわたくしめの耳がバッチリ聞き取っておりますぞ」

 オロ爺はエルフだから耳は間違いなくいい。バッチリの言葉がその証拠だな。

「あっ!わぁーっ!本当だッ!」

 白石さん、どうやら思い出したようだ。

「じゃーもう一回言ってニャー」

「うん!ハンちゃんよろしくねっ!」

「ニャハッ!ニャハハハハ!マコちゃんよろしくニャー!」

 白石さんとハッちゃん、どちらも笑顔で握手を交わした。



 その後、白石さんの足元でくつろぎ始めるハッちゃんに「どうして、そこまで高い料理スキルを持っているのか」聞くと昔を懐かしむように語ってくれた。話が進めば進むほど、ナナセを始めとしたここにいる元奴隷全員が円を描くように集まり話を黙って聞いた。

 元々は隣国のセブンティア王国生まれで、その国の公爵家に仕えていたこと。

 公爵家はとてもいい人達で、自分の料理を美味しい美味しいと毎日喜んで食べていた姿を今でも鮮明に思い出せるほどに色濃く記憶に残っている。

 公爵家の人達に喜んでもらうために日々研鑽と試行錯誤を繰り返し積んで、料理スキルのレベルを高める。レベルが上がれば、公爵家のみんなが喜んだ。

 公爵領の人々にも料理の恩恵は広がり、冒険者は本来の実力以上の力を発揮し活躍は冒険者組合(ギルド)を通して、瞬く間にハッちゃんの存在と同じ種族である仲間達の料理スキルも万能であると拡がり続けた。

 そんなハッちゃんの力に目をつけた者がいた。そいつは狡猾だった。

 公爵家との幸せな日々はあっという間に過ぎ去り、そしてその日はきた。

 ファミリア王国がセブンティア王国の最西領にある公爵領へ前触れもなく大軍で攻め込み、侵攻してきたのだ。

 公爵領に攻め込んできた大軍を迎え撃つ公爵家は使えるものは全て総動員して、これを何度も撃退した。だが籠城しか選択肢が残されていなかった公爵はすぐに援軍を要請した。

 しかし、一向に援軍も支援物資も送られてくることはなかった。

 ハッちゃん曰く国同士で何かしらの政治的な裏があったのでは?と。

 証拠はないが奴隷時代に裏の人間達が

「公爵家は領地を発展させ過ぎた」

「王に献上すれば助かったものを」

「彼方の王も此方の王も腹の中は一緒か」

 話す噂で耳にしたそうだ。

 狡猾なそいつの策に嵌められ溺れた公爵領は、内側の味方の一人の裏切りであっけなく壊され、雪崩れ込んだ敵軍に公爵は討たれ、ついには壊れてなくなってしまった。

 あとは目当てのハッちゃん達はファミリア王国で奴隷として捕まり、仲間と一緒に地下のオークション会場で裏の組織の人間達や来賓の貴族達に料理スキルを無理矢理使わされ続けた。

 最初に数多くいた仲間は料理スキルが成長しなくなれば、黒服の男達に一人また一人と連れて行かれ、二度と会うことはなかった。消えて行った仲間達の分まで、ハッちゃん達は公爵領を攻めたファミリア王国と公爵を討った狡猾なそいつに復讐する。ただ復讐心の気持ち一つだけで、今日のこの日までやり遂げた。

 裏の組織が拠点とする場所を移動するこの日に救出されたハッちゃん達全員は運がよかった。そう思えた。

 料理スキルがなぜ高レベルに至ったのかを。それは余りにも酷く凄惨な過去だった。

 話を聞き終えたあと、俺を含めた全員が静かにただ静かに怒りを燃やした。

 知らない間に俺はファミリア王国に巣食う裏組織にも喧嘩を売っていたことになる。

 裏組織の奴らは今頃血眼になって、ハッちゃん達を探しているに違いない。

 王家との繋がりのある裏組織だ。王族の王女に攻撃した時点で、最初から裏組織とも敵対しているようなものだ。

 別に問題ない。もし、そいつらがハッちゃん達を奪いにきたら俺が反抗心をこれでもかと砕き叩くまで。


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