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5. 桐生静は、成長を実感する

 翌日の早朝。まだ皆が眠りについている頃、俺は一人ランニングや腕立て伏せ腹筋背筋のトレーニングに勤しんだ。

 理由は明確。昨日の戦闘で大狼の咆哮にあっけなく吹っ飛ばされたからだ。風の精霊によって身を守られていたから平気だったが、弱体した今の俺では精霊の力がなければ完全に詰んでただろう。

 ステータスという目に見える自分自身の弱さを鍛え直すためにも、体が悲鳴を上げるまで続けては癒しの精霊の治癒で肉体と疲労を癒し、全力で肉体の改善に取り組んだ。

 その繰り返し行い、あの王女に最弱と罵られたステータスをふと確認してみようと思い、ステータスを表示させる。


 ――――――――――――――

 桐生静 16歳 男 レベル:0(永久)

 職業:なし

 筋力:110(-10000)

 体力:100(-10000)

 耐性:100(-10000)

 敏捷:100(-10000)

 魔力:10(-10000)

 魔耐:20(-10000)


 スキル:異世界言語


 バッドステータス:枷・無力・失速 ・超重

 ――――――――――――――


 何も変動していないステータスが目に飛び込んでくるのだろうと若干内心で思っていたりもしたのだが、それを裏切るように数字が加算されていた。

 正直驚いた。

 レベルが上がらない=成長しない。そう認識していたが、勘違いだったようだ。

 この世界に既存する目に見えて分かる自分自身のステータスを含めた不可思議をまだまだ理解出来ていない。

 今後解明出来るようにしたいものだ。

 精霊たちがおめでとーよかったねーと祝ってくれる。

 自分でも知らぬ間にガッツポーズを自然と行っていたのにも驚いた。




 再び魔の大森林で魔物を狩ってはベースキャンプに空輸して、食事の問題を解決する。

 今日は昨日と違い、二メートル近いニワトリやカタツムリの魔物と遭遇した。

 ニワトリは俺という餌を見つければ、すぐに襲いかかってきたが何の支障もなく風の刃で返り討ちにした。

 鳥の肉じゅるりで、近辺にいたニワトリは乱獲して空輸した。

 ちなみに俺の知る鶏の鳴き声「コケコッコー」と同じだった。

 帰った後にでも、オロ爺と相談して食用でニワトリ飼えるかどうか検討してみよう。ニワトリだから卵も産むだろうし、食の観点から検討の余地はある。

 カタツムリに至ってはニワトリと対照的で何をするわけでもなく、ただただそこにいた。襲わない。硬い殻を突いても反撃しない。目の前に立っても攻撃しない。

 つまり無害。俺から無害認定され、とりわけ問題なく全て空輸した。

 他の未発見の魔物とその後は遭遇することもなく、朝の狩りは終了したのであった。




「セイ様!」

 朝一番にオロ爺と会えば、開口一番に名前を大で呼ばれ、ベースキャンプの空白地帯に空輸した魔物たちを震える指で指差し、

「今度は凶暴で有名なニワトリどもをあーーーんなにも倒されたのですかな⁉︎」

 信じられない。セイ様あんたどんだけニワトリ乱獲してるのですか⁉︎という血走った目で見られる始末。

 目算では百はゆうに超えている。

 空輸スペースはニワトリ、ニワトリ、ニワトリといった感じで、ニワトリ目立ってるなーと言えるだろう。

「何か問題があったか?」

「いえ、問題はないのですが……数が数なだけに驚いてしまったのです」

「オロ爺」

 オロ爺がゴクリと唾を飲み込む。

「……何ですかな?」

「ニワトリを飼うことは可能かどうか知りたい。オロ爺の――」

「に、ニワトリを飼うぅー⁉︎」

 あんた何言ってんですかッ⁉︎そう言いたい表情のオロ爺。

「意見を聞こうと思ったんだが、オロ爺の顔を見れば一目瞭然だな。飼うのは難しいか」

「いえ!そんなわけでは……ただわたくしめにはニワトリを飼うなど大それた行いをした人物を今までに聞いたことが一度もなく、セイ様の発言が他の者とは違い、初耳だっただけで……そのなんといいますかな。正直理解し難い発言だったのです」

「そうか。じゃーニワトリが飼えないわけではないんだな?」

「はい。ニワトリではありませんが、魔物使いと呼ばれる職業の者なら魔物の一匹や二匹飼い慣らすのは造作もないと聞き及んでいます。わたくしめの考えでは、その魔物使いではない者が魔物を飼える飼えないでは間違いなく飼えないと言えますな」

「魔物使いか」

「しかし!しかしですな……セイ様ならもしかするかもしれませんな」

「つまり魔物使いじゃない俺でもニワトリを飼うことができると?」

「はい。力を示すのです。魔物は自分より強き者に従う傾向があります。強い個体の魔物なら尚更、セイ様の望まれる通りになるかもしれませんな」

「わかった。オロ爺、色々教えてくれてありがとう」

「いえいえ、それがわたくしめの役目ですので、セイ様のお役に立てて光栄です。では、わたくしめは解体作業になれた者達に頼みに行ってまいりますな」

 オロ爺は一礼して去っていく。

 本当に何から何まで、オロ爺には感謝しかない。ありがとうと心の中で、もう一度お礼を呟いた。




 入れ違いになる形で、白石さんがやってきた。

「桐生くん、おはよう」

 軽く手を挙げ、挨拶された。

 俺も真似して挨拶しようか。いや、そんな挨拶をする仲でもないな。

「おはよう、白石さん。昨日は眠れたか?」

「うん。自分でもビックリするくらい、ぐっすり眠れた」

「それは良かった」

「桐生くんはなに?眠れなかったの?」

「いや、そんなわけは――」

「だから朝からまた魔物を狩ってきたの?」

 ちょっとそこまで買い物に行ってきたって感じのニュアンスだな。白石さん、俺はそんな風に見えてるのか?

「まぁ……。……すまない」

 何か言おうと思ったが、全く言葉が見つからなかった。

 白石さんの有無を言わせないジト目には勝てない。

「わかってくれたならいいよ。桐生くんは悪気があってやってるわけじゃなさそうだし。別にいいよ。でもね、こんな事になっちゃったわけだよ。朝起きたら見知った人がいないのって、すごくすごく不安になるんだよ。あーでもないこーでもないって、私置いてかれちゃったのかな?一人で不安に苛まれるんだよ。もう頼れるのは桐生くん、君しかいないの……。だからクラスメイトをたった一人残していくのはよくないからね?」

 涙目で訴えられた。

 白石さんの瞳から涙が零れ落ちた時、ハッとさせられた。

 俺には精霊たちが常についていた。だからこそ不安な気持ちは一切なかった。でも白石さんはどうだ?クラスメイトたちと離れ離れになって、今となっては知った人間は俺しかいないじゃないか。あの場で白石さんの許可も得ずにここまで連れてきたのも俺だ。俺じゃないか。なにやってるんだよ、俺!他を優先にして、白石さんそっちのけで置いてけぼりじゃないか。

 配慮が足らなかった。今更言われて気づいた。

 白石さんをここまで不安にさせてしまった。

「本当にすまないことをした。反省する。もうしない」

「約束だよ?」

 右手の小指をピンと立てる白石さん。

 すぐにその意図を理解する。

 白石さんの小指に自分の小指を絡め、

「わかった。精霊に誓って約束する」

 不安で揺らめく瞳を真剣な眼差しで見つめて答える。

「じゃー指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます。指切ったぁ!」

 白石さんと指切りで約束した。

 涙を流して笑う白石さんの顔を俺は一生忘れないように記憶に刻み込む。




 オロ爺が駆け足気味で、再び俺の元へ。

「セイ様!」

「血相変えてどうした?」

「セイ様が狩られた魔物の中に生きたカタツムリがおりまして……」

「ああ。あれか。無害だったから生きたまま空輸しておいたんだが、何か問題があったのか?」

「いえ、問題はございません。セイ様のおっしゃる通り、人畜無害で有名な魔物でございます」

「じゃー何が言いたい?」

「あのカタツムリは人畜無害で有名なのと同時にカタツムリの殻もまた建築素材として職人の間で有名なのです」

「あの硬い殻が建築素材になるのか」

「はい。殻は硬く、砕くのに力が必要ですがセイ様なら造作もないことです。砕いてしまえば、あとは土に混ぜるだけでより固くなるのです」

「それは凄いな」

「ええ、全くもって」

「なら早速、全ての殻を砕こう」

「セイ様、ありがとうございます」

「白石さんも一緒に行こう」

「うん。行く」

 その後、昨日土で構成した体育館などを砕いた殻と混ぜ合わせて補修した。

 触り心地はコンクリートの質感で、これなら崩落の心配もないだろう。

 名付けて、体育館ver2だな。

 なんだなんだと人が集まる頃には朝食が出来たよーと知らせが来て、朝食を済ませる。その際にオロ爺から全員に体育館がより固くより安全な建物にリメイクされた事が告げられた。

 まだまだ殻は大量にあり、今後の生活居住区を作ろうとは頭の片隅で考えていたが今日中に作ってしまおうと決め、木の精霊に森林を伐採していいか尋ねれば、快く了承してくれて、空間を開けるための手伝いも買って出てくれた。木の精霊に応えるかのように木々が根っこごと自分の足で動き、空いた空間にイメージを固めた建物を土の精霊に共有して次々と建てていく。それにより予定よりも早く完成した。

 居住区が出来たことに皆一様に喜び、

「セイ様、あなたという人は本当に……」

「桐生くん、本当に君は何者なのかな?」

「セイさん、驚きを通り越しましたぁー。一周回ってホント尊敬しますぅー」

「俺じゃないよ。全部精霊たちの力だ。みんな、ありがとう」

 この場に集まる全ての精霊に感謝する。精霊たちはいいよーよかったねーとキャッキャ楽しそうに飛び回った。


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