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56. 舞台裏

 私は間近で目撃したのです。

 真上から降り注いだ光に歯向い、受け止めたセイ・キリュウという名の彼の灰色の髪が根元から黒髪に染まり、金色の目が黒目に変わるのを。

 過去の世界で見た彼がそこにいるのです。あの彼が成長した姿が、成長した容姿があるのです。

 銀翼の仮面以外を除けば、あの世界の彼と今目の前にいる彼が別人ではなく、他人の空似でもない同一人物だと確定的になるのです。

 彼の周囲から闇黒が溢れ出し――わたしは心の奥底からゾッとするのです。背筋が凍りつくのと同時に彼やわたしを対象とした滅する光から身を呈して守られているのに気づくのです。

 上級の枠を超えた超級の威力を内包した滅する光に対抗する闇。

 拮抗し続けた光と闇は――一方的なもので終わったのです。

「あなたがなにを考えているのかわからないのです」

 わたしの言葉は虚空に消えるのです。

 わたしは終始動くことができなかったのです。

 彼はこの場にはもういない。

 彼は滅する光からわたしを守り、強烈な殺気を伴って一瞬先の闇に溶け込み消えてしまったのです。

 彼は――――




 ☆☆☆☆☆




 ダーメン領から無事脱出に成功した面々は黒帳に包まれた領外を目にする。

 白魔術師は書簡にダーメン領で起こった事実を事細かに書き記して、

「これを頼みます」

 確実に送り主へ届くように預ける。

「承りました」

「国主へ必ず」

 受け取った一人は深く頷き、一瞬で夜闇に消える。

 時を同じくして、黒帳が中央から崩れ始めるのを目視した面々が指を指して言う。

「瘴気が外へと流れ出しています」

「やはりダーメン領は終わりですか」

「瘴気に包まれたダーメン領は人の住まう場所にあらずです」

「神殿が瘴気に侵食されるのは見過ごせませんな」

「神殿を手放すだけで胸が痛いというのに……瘴気は止めようのない」

「瘴気の元凶は墓場にいます」

「水晶に映るこの者が元凶でしたか」

「嗚呼。臭い臭い」

「このような年端もない子供が瘴気を呼ぶとは正気とは思えないですな」

「悪魔に憑かれたのでしょう」

「光の女神様より預かった使命を果たす場所の一つを穢すとは由々しき事態ですぞ」

「闇の波動すら感じ……周囲を飲み込んだ痕跡がある」

「闇に愛されし、あの少年は何者ですか⁉︎」

「水晶から得られる情報は少ないが両者の関係性は敵対しているわけではなさそうだ」

「今回の一件に深く関わっているのでは?」

「あそこまで至った悪の権化は見たことがありません」

「白魔術師様、このまま教本通りに準じるのは正しいのでしょうが……浄化を行うことこそ、女神様の望まれていることではないでしょうか?」

「神官長、浄化の道は正き道の一つ。教本通りに準じるのは正しい。しかし瘴気を見過ごすのは光の女神様を崇める我々への試練。全ては我々の手で決める。これもまた女神様が我々を試される試練。皆、相違は?」

 白魔術師以外の全員が言う。

「ありません。正しい道を歩む聖職者として全てに光を」

 白魔術師はダーメン領外へ流れ出す瘴気に表情を顰め、鼻をつまんで言う。

「イヤだイヤだ。腐った臭い。死者の臭い。瘴気の臭い。強烈な瘴気が纏わりつく臭い。浄化でこびりついたイヤな臭いを全部綺麗さっぱり取り払わないとイヤでイヤなイヤイヤな瘴気の元は取れない――いいでしょう。皆の相違無し。審判は下った。光の女神様への試練を皆で乗り越えましょう」

 白魔術師の言葉に歓喜する神官達が言う。

「光に反した闇は滅光すべし」

 試練に望む面構えとしては些か邪悪に見えなくもない神殿関係者達が言う。

「光の女神様のお力こそ偉大なり」

 全員が口を揃えて言う。

「一切合切を光で包みたまえ。偉大なる光の女神様の元へと還りたまえ。悪は還り、輪廻転生を繰り返し、浄化されたまえ。正は還り、光の女神様の寵愛を受け、神格の道へ導きたまえ。――白天の裁き」

 白魔術師含めた神殿の面々は集団魔術『白天の裁き』を行使した。

 領内と外界を遮断する黒帳が消え、邪魔する弊害はない。

 瘴気が密集した墓地の浄化が一つ。

 墓地にいる元凶の排除が一つ。

 元凶とは別の意味で無視することは不可能と言わざるを得ない禍々しい闇の波動の即刻除去が一つ。

 神殿に属す神官と神官以外の神殿関係者達の魔力を全結集した集団魔術で全てを葬り去るべく、暗闇に包まれた夜空と夜闇が明るく照らされる。

 一条の光が天上から垣間見え、天から光の柱が光速で落ちた。

 白天の裁きを受けた墓地は浄化されて消え――去らなかった。

 逆に深い闇が全てを飲み込み喰らい、地から天へ上昇して昇る。天から射した光の柱は――白天の裁きは得体の知れない闇によって吸い込まれて消失した。

 辺り一帯を眩しく照らし続けて輝いた光の粒子が淡く光り――スッと消えた後に残ったのは夜闇のみである。

「――あっ、りぃ、え、なぁ、ぃ」

 白魔術師は言葉を失った。

 その場でたじろぎ、

「――聖神国へ報せないと……」

 よろよろした足取りで後方へ振り返った先に――闇が顕現した。

「……うっ、うそッ、そんなッ……‼︎」

 白魔術師以外の誰一人立っている者はいない。誰もが地面に倒れ伏し、血の一滴も流さずにピクリとも動かない。そのまま地面に広がる闇に飲み込まれる。闇一色に包まれた少年の手が白魔術師の方へ伸びて――

這い寄る脅威(カオスクリーパー)

「――聖結界ッッッッ‼︎‼︎」

 その一声で全ては飲み込まれ、抗った白魔術師は無へと誘われる。


 唐突なる幕切れ。

 唐突なる終焉で、舞台裏の幕は降りた。

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