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第4話 桐生静は、魔物を狩る

 魔の大森林。

 魔物が数多く生息する場所。そこに気配や匂いを消さずに堂々と進む一人の人間が現れれば、

「*****!」

 餌と勘違いしたゴブリンは群れで襲いかかる。

 次の瞬間、風が強く吹いた。

 動揺を一切見せない俺に困惑しながら、バタバタと倒れていくゴブリン。

「「「「「*****⁉︎」」」」」

 後方にいたゴブリン達が倒れた仲間に驚き、叫び声を上げる。だが、1秒も満たないうちにそれらも地に倒れふす。

 一歩も歩みを止めず、先へ進む。

 何も理解できず、頭と胴体を切り離されたゴブリン達は火に焼かれる。

 モクモクと焼かれ続けるゴブリン達が風に運ばれて、俺の後ろを追ってくる。木に火が燃え移り広がらないよう万全の注意しつつだ。

 少し歩けば焼ける匂いに釣られて、次にやってきたのはオークだ。

 ゲスな笑みを浮かべるオークもまたゴブリン同様に攻撃はもちろんのこと、理解の範疇を超えた攻撃によって沈む。

 ゴブリンが跡形もなく燃えて灰になって消え去れば、その代わりとしてオークがジュウジュウと音を立たせて燃やされる。

 美味しい匂いが俺の鼻をくすぐる。

「いい匂いだ」

 匂いが良かった。

 焼けたオークの香りは周囲にいる獰猛な狼を呼び、

「グルルルルルルル」

 よだれを垂らして、俺を威嚇したかと思えば、首を噛みちぎろうとする。

 一瞬の出来事だった。

 しかし首を噛みちぎろうとした狼は逆に首をスッパリと切られ、俺の制服に最後の悪あがきとして血を付着させる事も叶わずに風に地面へと叩かれた。

「「「「「⁉︎」」」」」

 驚愕した狼達。

 前へ進める足を後ろへ下げる狼が一匹また一匹と増える。

「ワォーーーーーーーーン‼︎」

 一番後ろに控えた群れのリーダーと思しき大きな狼が吠えた。

 全身にビリビリくるものがある。

 ビクッと震える狼達の目に力が宿る。

 凄い変わりようだ。

 何かしらの力が働いてるのか?

 風に身を守られた状態で、かすかに手が痺れている。

 こんなの初めてだ。

 期待の眼差しを向ければ、

「ワォオーーーーーーーン‼︎」

 その期待に応えてやろうとリーダーの大狼が再び吠えた。

 次の行動に移るのも速かった。

 360度全域からの攻撃。口を大きく開け、鋭利な牙が窺える。鋭い視線が俺を差す。どう転んでも致命的なダメージを与えてやるという強い意志を感じる。だが、残念ながら俺に一矢報いることは敵わない。

 トンと軽く地面を踵で叩く。

 刹那、俺を中心とした地面から土の棘が突き出す。

「「「「「ッ‼︎⁉︎」」」」」

 いきなりの出来事に理解不能な狼達がグサグサッと肉が貫かれる音が鳴り、

「「「「「ワゥー」」」」」

 無念の声がすぐ近くで耳に届いた。

 最後に残った大狼はその場で一切動かず、ジーッと俺の目を見つめた後、唸り声を上げて一歩また一歩と後退り、この場を離脱する――

「ガウ‼︎」

 そう見せかけた罠を仕掛けてきた。

 大狼がさっきまでいた場所とは全く別の場所――俺の死角になる背後に姿を現したのだ。

 俺は精霊を通して全域を見通しているだからこそ分かる。

 こいつは自分と別の何かを入れ替える能力を持っている。

 先程いた場所には一匹の狼が倒れていた。その身には貫かれた痕跡があり、さっきの攻撃で貫かれた一匹だと予想できる。

 大狼は俺に対して何処から仕掛けようと牙は通らない、即座に攻撃を行わないと返り討ちに合うことを狼達との戦いで学習した。だからこその一撃必中、

「ワォオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーン‼︎‼︎」

「ッ――!」

 ゼロ距離からの大音量の咆哮を浴びせた。

 正直ここまでの能力を持っているとは思ってなかった。

 油断はしてなかったが、この世界にはスキルと呼ばれる目に見えない力が存在して介在している。

 魔物だからと何も飛び道具を持たないと思っていたら痛い目を見ると理解させられた。

 痛い目を見るといっても音波だけで、俺は少し離れた太い木まで吹き飛ばされて、若干全身を痺れさせられただけだが――ばかばかと精霊に諭された。そうだな。強がりだ。痛いのには変わりない。

 大狼はゆっくりと身動きが取れないであろう俺の元へ近づいてくる。

 その目に油断の色はない。

 捕食者としての意地と境地が垣間見える。

 凄いな。本当に期待に応えやがった。

 だったら俺もお前に応えないといけないよな?

 ニヤリと笑った。

 ただそれだけで、ピクリと体を震わせて辺りを警戒する大狼。

 仲間なんていないのに警戒心もある。優秀な大狼だ。

「合格だ」

 俺はそう言い、立ち上がる。

 まるでなにもなかったように。

 何食わぬ顔で立ち上がった。

「⁉︎」

 馬鹿な⁉︎そんな顔をしていそうな大狼に俺は右手を突き出して向ける。

 右手に注目する大狼の警戒度が上がった。

「お返しだ(ボソッ)」

「――⁉︎」

 その声を耳にした時、大狼の顔に俺の拳が触れていた。拳には風が渦巻き、思いっきり地面に振り下ろした。

 ズドン‼︎

 衝撃音と衝撃波が辺り一帯に吹き抜け、大狼を中心にクレーターができ、煙が舞い上がる。

 暴風で瞬時に視界は晴れ、真下に気絶して横たえた大狼がいた。

「気絶したフリはやめろ」

 冷めた視線で言えば、

「⁉︎」

 目を見開いた大狼は飛び起き、スッと一定の距離まで飛び引いた。

「グルルルルルルル‼︎」

「威嚇は好きにしていいが、今のところ俺からはお前と戦う気はない」

 両手を挙げた。

 大狼は再び目を見開く。

「初めて高揚した。お前凄い奴なんだな。ハッキリ言って、途中からワクワクした。お前に提案する。――俺と共に来ないか?」

 一拍置いた後に大狼に手を差し伸べた。

「……」

 大狼の表情が俺でも分かるほど、

 ∑(゜Д゜)

 こんな感じになった。

「分かりやすいな。これは強制じゃない。共に来ないからと言って、今からもう一度戦おうとはならないから安心してくれ。俺もお前と同じで休息が必要だ」

「ガゥ⁉︎」

 再び、∑(゜Д゜)頂きましたー。

「お前、俺を無尽蔵な化け物とでも思ってたのか?」

 コクコク頷く大狼。

「まじかよ。俺は化け物じゃないぞ。れっきとした普通の人だ。普段やらないことをしたり、慣れない戦闘を継続するのは精神的に意外とくるもんだ。今日はもう帰るから今答えれなかったら明日またこの時間に顔を出してくれ」

「ガゥガーウ!」

 わかった。そう感じさせる鳴き声。

 大狼は俺と目線を交差させ、去って行った。

 俺も帰るとするか。オークの香ばしい香りはもうしない。この近辺に近づいてくる魔物の気配もないと精霊が教えてくれる。なら帰ろう。

 一歩足を踏み出し、精霊がまってーすとっぷすとっぷ!魔石ひろってーと飛び回る。

 魔石?なんだそれ?

 精霊が指し示す地面に視線を向ければ、どこにでもある石とは一目で違うと分かってしまう色をした変哲もない石が落ちている。

 ――なるほど、魔物から取れる石か。

 精霊から説明を受けて拾い、制服のポケットに詰め込んで行き、後片付けの意味でウルフの残骸を灰に変わるまで燃やし尽くし、魔石を回収した。

 帰り際に再び残り香に釣られたオークの群れと遭遇したが、さっきの経験を踏まえて何もさせない完全先制攻撃で蹂躙した。

 匂いが良かったのもあり、食べれるかは不明だが状態のいいオーク全てを一応持って帰ることにした。

 ただ黙々と作業をこなすように帰還するのだった。




 ベースキャンプに到着。

「セイ様、ご帰還お待ちしておりました――ッ⁉︎」

「桐生くん、遅い!どれだけ道草してきたの――エッ⁈」

「セイさん、おかえ――リィイー⁉︎」

 俺の姿を見つけた三人が一目散にやってきて、後続で風に覆われて運ばれてくるオークを目撃して驚愕した表情に変わる三人であった。

 オークを持ち帰ると実に亜人の皆さんに喜ばれた。というのも普通にオークは料理の一品として作られるようで、ファミリア王国でも貴族から一般人まで誰もが好んで食べる料理だと。

 俺の判断は間違いなかった。

 その夜は解体スキルを持つ猫人族のご好意で綺麗に解体してもらったオーク肉を盛大に焼き、全員で美味しく頂いた。

 とてもジューシーだった。

「セイ様には驚かされるばかりですな」

 感心感心と頷くオロ爺。

 決して驚かせるつもりはありません。ないったらないッ!

「桐生くんって異世界に適用しすぎだよねッ!」

 冗談混じりの涙目で訴える白石さん。

 異世界に適用した覚えもありません。

 ないったらないッ!

「セイさん、凄すぎぃー」

 尊敬の眼差しのナナセさん。

 凄いのは全部精霊たちで、俺じゃないからな。

 ないったらないッ!

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