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45. 桐生静ら生者の戦い①

 小人の皆に贈るお菓子――ペロペロキャンディが10通り以上の味で分かれており購入するのに手間取ってしまった。

 お菓子を買ってる際に外では騒がしい音が聞こえ、店主が「何かしら?」と閉め切ったカーテンを左右に開いて窓を開ければ「喧嘩のようね」と路上で喧嘩する数人を見下ろす。

 購入後、店主が「すぐに出れば喧嘩に巻き込まれるかもしれないわよ」と窓際から外を見下ろして冷や汗を流す姿は異常である。喧嘩だけの話ではないと予感すれば、精霊達がゾンビだよースケルトンだよーあっちもこっちもたくさんいるよーと騒ぎ始める。

「心配してくれるのは有難いが心配無用だ。喧嘩に巻き込まれないように店は今すぐ閉めて隠れていた方がいいぞ?」

「そっそうね。そうするわッッ」

 窓を閉めカーテンを再び閉めきる店主の姿を確認して店を後にする。


 店を出れば、一歩目二歩目と踏み出す直前――急に襲いかかってきた相手を蹴飛ばし、壁際に吹き飛ばす。強く壁に激突した相手に気絶を与えるならソレで十分だ。正当防衛である上、こちらに非はない。訴えられようと問題はない。誰が見ても非は相手にある。何を考え、襲ってきたか聞く必要がある。相手を見据えて近づこうとして気づく。

 相手の上げた顔は生者のそれではない。血の気のない真っ白な顔色で、濁ったような瞳が俺を見据えて睨む。

 その姿に見覚えがあった。馬車で逃げる敵国の間者が赤髪によって変化させられた姿とまんま同じだった。

「俺の言葉が分かるか?」

 試しに意思の疎通を確認する。

 返事は敵意あるうめき声で詰め寄って来た相手――ゾンビを風の刃で細切れに断ち切り、跡形もなく燃やす。他にも周りを見渡せば、あっちもこっちも端から端まで奇妙な動きでギクシャクしている者が多い。普通に歩く動作をする者は1人としていない。

 精霊を介して見定める。

 全員がゾンビだと判明。

 生者は1人として周辺にはいない。誰もがゾンビと化している。

 まるでバイオハザードの世界に迷い込んでしまったかのようだ。

 うめき声を上げて詰め寄るゾンビの群れを先程同様に蹴散らし、部位が絶たれようと蠢くR18指定のソレらを跡形もなく燃やし尽くす。

 情けはかけない。既に生者ではないゾンビに慈悲は必要ない。本人も醜い存在から1秒でも早く解放されたいはずだ。解き放つ為に周辺にいるゾンビを一瞬で断ち燃やす。ソレを何度も繰り返す。

 もはや誰も動く者はいない。

 静寂が訪れる。

「赤髪が関わっているか不明で把握できてないが――目に余る不快な事をやってくれたな」

 自然と発した言葉は虚空に消える。




 ☆☆☆☆☆




 地下下水道から無数に出現するゾンビやスケルトン――人に非る者(アンデッド)がダーメン領全域を襲う。

 人に非る者(アンデッド)の群れに襲われる人々は1人残さずゾンビ化する。ゾンビとなった人々がまた他の人々を襲い、ゾンビ化させる2次被害。

 感染が加速して広がる。

 逃げ惑う人々から人に非る者に対抗しようとする人々で混沌極める状況であり、二次災害が広がり続ける。

 ダーメン領に1000の兵士が駐屯していれば、違った結末もあっただろう。だがしかし、ソレは無意味なタラレバである。現実は非情で刻一刻と変化する。

 ダーメン領の街は人に非る者で溢れかえるのに時間の問題であろう。

 状況が鬼気迫る中、冒険者組合はダーメン領にいる全ての冒険者全員に緊急依頼を発令する。依頼を受けた者にはかなりの報酬が得られる。名声や名誉も得られる。この依頼は冒険者組合と冒険者両方が得をするWINWINなものであろう。されど、先日の一件で雲行きの怪しいダーメン領から我先に逃げる者も少なくない。目の前を見ず、既に下降して落ちるのみのダーメン領を切り捨て新天地を目指す者は多い。普段からテンデ・ダーメン侯爵の行いが良ければ、冒険者であろうとこの街を守りたいと一心に思い戦ったはずだ。しかし行いが悪かった。昔は多くの冒険者で賑わった時期もあったがソレはもう過去の話であり、今では冒険者の数は他の領内と比べて少数だ。その少数は呑み飲まれの冒険者とは呼べない者達ばかりで話にならない。ほんの一握りの真面目な冒険者は今現在ほぼ見切りをつけて逃げている。

 冒険者組合は頭を抱える。このままではダーメン領は人に非る者で埋め尽くされるだろう。自分達も逃げるべきじゃないのか?疑問を持つ者から非常出口へ向かう。その先に救いがあると信じて――

 セイ専属と呼べる受付嬢のリリィは表の出入り口を封鎖する為に酒場の机や椅子を山積みに積み込み、外から人に非る者が侵入できないよう厳重な封鎖を試みる。受付嬢のほとんどが非常口から逃げ出す中でリリィ1人だけがこの状況を打開できると信じていた。かえって外に出るのは危険だと判断して、他の受付嬢や職員に訴えたが皆自分の事で頭がいっぱいな様子で話を聞く耳を持たなかった。自分だけでもと考えを切り替え、1人で冒険者組合内を守り抜く上での籠城である。逃げ出した皆が使用した非常口を封鎖するのも忘れない。地下下水道から人に非る者が現れた報告も忘れてはいない。男性女性両方のお手洗い――地下に通じる通り口全てを強固に塞ぐ。塞ぐ際にうめき声が聞こえた。あと少し遅ければ侵入されていたかもしれない。そう脳裏に駆け巡るが怯えている暇はない。唇を強く噛み締め、現実を受け止める。

 リリィの瞳に諦めの二文字はない。

 リリィは助けが来るその時まで諦めずに頑張る。




「墓場に戻りやがれクソ野郎ッ!」

「クソ野郎どもに夜露死苦の力を見せてやんな!」

「応ッ!」×5

 ダーメン領上空に黒帳が発生するまでは敵である人に非る者を倒すのは容易だった夜露死苦。だがしかし黒帳が発生後、普通なら一撃で倒せるゾンビは一撃で倒せなくなる。ゾンビの動きは軽快になり打撃の重さが別者へと変わる。修復する力まで加えられ、ゾンビがゾンビではなくなる。既存のゾンビと思えば、足元をすくわれると即判断したリオナが「あんた達クソ野郎ども(そいつら)雑魚じゃないよッ!」と吠え、状況が目まぐるしく変わる中での機転で人に非る者を油断せずに蹴散らし続ける。

 ………………

 …………

 ……

 夜露死苦は人に非る者と激戦からの激戦を繰り返して休む暇なく戦っていた。

「姐さんッ!」×5

「お黙りッ!」

 夜露死苦のリーダーリオナが吠える。

 魔力纏で繋げた鎖を操り、ゾンビを戦闘不能に追い込み続ける。ただソレ一点に集中する。何故なら属性魔法が付与されていないただの鎖ではゾンビを完全に倒す事は不可能。魔法を使用できたらゾンビを倒す事は容易い。されど圧巻の数を相手にして、既に魔力切れ寸前の状況では魔法は打てない。自分の鍛錬の甘さに今頃になって後悔する。

 夜露死苦の面々は姐さんことリオナの声で再びゾンビと向かい合い、

「このクソ野郎どもがッッ!」×5

 己の武器を振る。

 多人数で攻められようとタンク兼アタッカーの5人組を容易く崩す事は簡単ではない。巨漢の身体を活かして間近の敵を吹き飛ばして屠る。何百合も繰り返して行い続ける。バトルアックスなどの武器には血肉が付着して切れ味が落ちている。現在進行形で落ち続けている。武器が鈍になるのは数分後かもしれない。武器を失えば己の肉体で戦わなくてはならない。肉体で戦うのは喜んで受けて立てる夜露死苦の面々だが相手が悪い。ゾンビと戦って噛まれでもしたらその時点で詰む。ゾンビ化したらどうしようもない。鈍になろうが姐さんことリオナの撤退の掛け声がかからない限りは死力を尽くして戦い続ける夜露死苦の面々である。

「ダーメン領はもう落ち目だねッ!」

 リオナは無事にこの場を切り抜けたら別の街に進出するのもアリだねと脳内で思考しつつ、鎖を伸ばしてゾンビを蹴散らす。

 退路を防がれるまで、あと残りわずか――

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