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39. 桐生静は、名付ける その5

 アカメと魔物狩りを続けている道中、サクランボと瓜二つの実を発見。精霊に問えば、問題なく食べれる。味見で食べたが味はサクランボだな。アカメにも与える。種は小人族が喜ぶだろうから一応取っておく。実がなっている枝の一部を風の刃で断ち切り、空輸する。

 少し進めば、地面に桑似が落ちてる。魔物が食べた痕跡があるので魔物が好む実だと判断できよう。上を見上げれば桑似の木々を発見。甘い匂いから察するに匂いにつられてやってくる魔物が近辺には多いのだろう。試しに味見をしてみる。桑の実を味見したがとりわけ問題無し。アカメにもいっぱい与える。魔力が含まれている点以外は普通の桑の実と変わらない。魔茶と同じ原理で出来たものなのだろうな。桑の実はジャムとして食べる事も可能だ。こうなるとパンを是が非でも入手したくなってくるというものだ。桑の木の枝一部を断ち切り、空輸する。小人族には帰った後に種を渡さないとな。

 太陽の日差しを浴び、大地やこの地に生息する全ての生き物から魔力を摂取する木々の元気さに脱帽し、花が咲いて葉っぱを広げて実をつける。魔物やその他の者たちに恵みを分け与える魔の大森林という場所に感謝を込めて心の中でありがとうと呟く。

 木の実は意外と多くカリンや銀杏や柿やみかんやビワなど瓜二つのものが成っていた。お花も負けじとたくさん咲き誇って景色は綺麗の一言で表せる。女性が見たら素敵と絶対に口にするであろう絶景である。敵意のない小鳥サイズの魔物は近づく俺を捉えて攻撃することはない。木の実に夢中でそれどころの話ではない。向こうに敵対意識がないなら此方も攻撃はしない。地面を小さな足でチョロチョロ進む小鳥がいれば、木を突いている小鳥さえいる。鶯の鳴き声すら聞こえる。自然を満喫して感じられる魔の大森林。ここは危険な場所だが別名サファリパークと呼べるな。

 景色を楽しみ、自然に感謝して現在発見している全種類の木の実を空輸する。途中、アナグマの魔物と遭遇したが体当たりを一発目でかましてきたのでアカメが糸で絡めて動きを制し、『どうする?』と問いかけてくる。狸汁もいいなと考え、狩った。体当たりする相手を間違えたアナグマよ。糧となれ。

 アナグマの住処が近場にあり、最初に遭遇したアナグマの仲間と思しきアナグマ一同が空輸される仲間を目撃して奇声を上げて体当たりを敢行。俺が出る幕はない。俺の前にアカメが立ち塞がり、ご自慢の足鎌で草を刈り分けるようにサクッと狩る。血抜きを行い、狸汁が大量に作れるなと料理されるアナグマの想像を膨らませて全て空輸する。

 木の実が成る一帯(エリア)から引き返していると上空から大きい影が指す。風が吹き、上を見上げる。そこには2メートル近いオオタカの魔物がいた。俺の世界では準絶滅危惧種であり、食物連鎖の頂点と呼ばれる存在だ。ただ大きさは向こうと違うけどな。魔の大森林がどれだけ自然豊かな場所であるかが窺える。翼を広げて悠々飛ぶオオタカはカッコいいとさえ思える。ただし俺とアカメを捕捉して敵対心むき出しな点を除けばだが。

 アカメが『糸の範囲外』と自分がこの戦闘に関して言えば戦力外だと伝えてくる。木々をアメコミのヒーローのように移動しながら戦う戦闘スタイルを確立していたらまた話は違っただろうが。認識と共有がなされていない現時点で思い描いたものをやってみろと言ってできるものではない。慣れが必要だ。例外もあるが今回はアカメに出番はない。

 オオタカは上空を旋回して俺たちの行動を見張っている。今の状況ではどちらにしろ向こうも動けない。木々が邪魔をして自由に動けないからだ。

 広々と自由な空間である上空で出方を窺い、捕食者然とした強者の貫禄を出したオオタカは翼をはためかせ、風の刃を放つ。木々が邪魔でどうこうの話ではない。オオタカは上空からでも攻撃可能だった。

 初見で対応策がなければ、風の刃で両断されていただろう。だがしかし、オオタカも知らない。俺が同じ。否。それ以上の規模の風の刃を行使できることを。オオタカの風の刃を相殺という選択肢は取らず、相手を驚かす上でより強度の高い風の刃を放つ。

「――ギェ⁉︎」

 オオタカは馬鹿なと自身が放った風の刃を上回る風の刃で打ち破られた上、自分に向けて飛んでくるソレに目を見開く。

 体感時間でコンマ数秒後にはオオタカが風の刃に一刀両断されて落ちる姿が脳裏に浮かぶ――だが脳裏とは裏腹な出来事が起こる。

 死の淵を垣間見たオオタカは俺とは違う体感時間を経験していた。長い。長い長い永劫の時間の中で今まで培った経験から目の前の状況を打破するための情報を探す。所謂走馬灯という類だ。

 強敵と何度も戦い領空の王者となったオオタカは自身を信じてより強靭になる。死を回避するために通常生きて行く上では不必要だった感覚や力の扉を自らの意思でこじ開ける。

 もし仮に開けなかった場合――扉を開けぬオオタカに待つのは一刀両断の結末。だが逆に扉を開いた先に待つのは――進化だ。

 精霊を介して変化の兆しが進化であると教えられた俺の内心はワクワクで満たされていた。コンマ数秒後の結末を自身の力で打ち破ったオオタカを一点に視て、無意識に笑う。

 面白い。

「合格だ」

 アカメが震える。何に震えたかはわからない。強いて述べるなら俺の表情を見て震えたのだろう。

 その顔にオワタの文字が書かれている。オワタとはなんだとツッコミをいれる気はサラサラない。

 オオタカと戦いたい。その心に従い、風と一体となって飛ぶ。俺が飛べるとは知らなかったオオタカは驚かない。今目の前に相対するオオタカは数秒前とは別人ならぬ別鳥だ。毅然とした佇まいを見せ、風を操る力は先程と比べる比ではない。風と風で戦う経験は今までにあったがここまで高揚感のある相手は初めてだ。高ぶる心のままにオオタカと力比べを始める。

「ギィー!」

 無数の刃が俺目掛けて飛び、オオタカ目掛けて無数の刃が飛ぶ。お互いに相殺し続け、お互いに削り合う。スパイラルトルネードを放てば、ソレを模範してスパイラルトルネードを放つ。俺が出す技を模範するオオタカ。面白い真似をしてくれる。風と風がぶつかり吹き荒れ、衝撃波が怒涛の如く周辺一帯に広がる。

「もっと――見せてくれ!」

「ギィギィー!」

 さらに上空へ飛べば、速度に遅れはないオオタカが真横に並び、肉弾戦を繰り広げる。両足から繰り出される風の鉤爪は見事の一言。俺は両手を包む鉤爪で応戦する。周囲には刃の相殺が目まぐるしく並列で行われる。一進一退の戦いは楽し過ぎる。ワクワクが止まらない。

「もっとだ!」

「ギィギィーッ!」

 高揚する気持ち全てを理解し合い、力でねじ伏せる。それだけをお互いに目線で共有し合う。

「存分に楽しませてくれ!」

 雲を突き抜け、二つの太陽が戦いを見守る。誰も邪魔できない神聖な大空の舞台で力を解放する。

 雲が割れ、次に雲が地平線の先まで吹き飛ぶ。見晴らしのいい眺めを堪能し、地面を見下ろせば魔の大森林の全容が窺えるというもの。

 ここまで広大だったか。

「ギィギィーッッ!」

 恐れ慄く場面で微塵も引かないオオタカ。とても王者としてのプライドは素晴らしく戦い合う相手として充分認められる存在だ。

 ああ。楽しい。

 この瞬間だけ、過去の忌々しい記憶を忘れて純粋に戦闘を楽しむ1人の人間として満たされる。

 ……

 …………

 ………………

 全身全霊で正々堂々と自分の強さを示したオオタカ。最終的に勝ったのは俺だが力の一部を発揮させた時点で称賛に値する。

 アカメが尊敬する眼差しを向けて、『すごいすごいッ!』と興奮冷めない様子である。

 地面の上で翼を休めるオオタカを見据えて言う。

「俺の仲間にならないか?」

 フリーズするオオタカ。

 思考停止だな。

 力を出し尽くしたオオタカは思考する力すら残っていないのかもしれない。そう思い至った俺は癒しの精霊による治癒を施す。体力疲労共に回復。

 少なからず気力を取り戻したオオタカは「ギィー!」力強く答える。

『喜んで』と仲間になる事を了承して認めてくれた。

「ありがとうな」

 魔力は既にアカメに注ぎ込んだようなもの。そうなれば、精霊達に視線を向けるといいよーと俺の共有に即答。

 精霊を介して力を借り、オオタカを上から下まで全体像を把握して名前を決める。

 天を駆ける魔物(オオタカ)。天をより飛翔する魔物(オオタカ)であれ。

「今日からお前の名はテンマだ」

 オオタカ改めテンマに名付けを行う。今回は脱力感はないが精霊を介して流れるエネルギーは圧倒的多くテンマに流れ込む。

「ギィーーーーーーッッ‼︎‼︎」

 翼を大きく広げて、テンマは大きく大空を飛翔する。その姿に変化の兆しを捉える。

「なるほどな。さらに上を目指すか」

 テンマは大空で鳴き、黒と白の毛並みは白と薄緑色に変化して体長は3メートルを超える大きさになる。頭上には濃ゆい緑色のアホ毛ならぬ立派な一本毛が太く伸び、黄金の目からはさらなる高みを目指さんとする強い向上心が窺える。

 横目でアカメを確認すれば、新たに仲間に迎えられたテンマを複数目で目撃して自分も負けないと向上心を今以上に上げたようだ。

 圧倒的な魔力量を持った魔物が今この瞬間に誕生したのであった。

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