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3話 桐生静は、ベースキャンプを築く

 ファミリア王国の王都を脱出後、奴隷制度で元奴隷だった亜人やエルフたちと合流する為に目的地へ飛んだ。

 そこは魔の大森林と呼ばれる場所で、冒険者なる職業の者以外は寄り付かないという点では好ましく大勢を隠すにはうってつけだった。

 目的地に近づくにつれて、視界が霧に覆い隠される。

 事前に空輸される前に自分が来るまでにしていてほしいことを精霊に頼んでおいたが、きっちりとしてくれていた。

 魔物が寄り付かないよう風の精霊が匂いを消し、水の精霊が拓けた場所の周囲を霧で覆う。

 エルフには稀に精霊と会話する手段を持ち合わせた存在がいるらしく、もしいた場合はここに運ばれた経緯を説明していてほしいと伝えていた。

 俺と白石さんが姿を見せると誰もがビクッと怯える。

 この場に漂う精霊たちに聞けば、エルフ全員精霊を視認することができるが会話することは叶わなかったそうだ。

「……もしや、あなた方がわたくしたちをここまで精霊と共に運んでくださった方でしょうか?」

 エルフの老人が代表して前に出るなり、真っ直ぐ俺の目を見つめて問うてくる。

 老人の眼がゆっくりと緑色に輝く。

「はい。その通りです」

 ここで話をはぐらかしたところで、俺が事の発端だとバレそうだ。

 精霊曰くエルフは嘘を見破る眼を持ってるよー嘘バレるよーと。この輝く緑がそれなのだろう。

「そうでしたか。あなたが……精霊に愛されているお方ですな」

 穏やかな表情にそう言われた。

 精霊に愛されているか。確かに俺は精霊に恵まれている。精霊がいなければ、弱体した今の身体能力で王の間に行くことも奴隷を助けることも魔の大森林なる脅威がひしめく場所へ足を運ぶことも選択肢にはなかったかもしれない。

「わたくしめの名はオロと申します。皆からはオロ爺と呼ばれております。あなた様の名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「俺の名は――なるほど、こちら側では静・桐生」

 精霊たちが逆さまで自己紹介するんだよーと。

「セイ様とお呼びしても?」

「様付けは呼ばれ慣れてませんが、問題ないです。お好きにお呼びください」

「ではセイ様、わたくしめの名も気兼ねなくオロ爺とお呼びください。助けてもらった手前、堅苦しい言葉も不要でございます」

「わかりま――わかった」

「老体のわがままを聞き届けてくださり、誠にありがとうございます。して、お隣の方の名前をお聞きしても?」

 白石さん、オロ爺から名前を聞かれるとはつゆも思ってなかったらしい。トントンと軽く肩を叩く。

「白石さん、名前を聞かれている。自己紹介だ」

「……」

 仕方ない。俺が代わろう。

「こちらは白石……」

「真琴ですっ!真琴・白石ですッ」

 間髪入れずに名前を言う白石さん。

 そうか、まこという名だったか。

「マコ殿、いい名前ですな。しかし、セイ様とは浅い関係のようだ。お二人の関係をお聞きしたいのも山々ですが、まずは皆に説明致します」

 白石さんからの視線がイタイ。

「白石さん、すまない」

 一応謝罪しておく。

「別にっ!気にしてないよッ!」

 ジト目で見られるいわれはないぞ。

「皆の者聞いてくれ。こちらに居わすセイ・キリュウ様は我々の長きに渡るファミリア王国での虐げられる辛き奴隷時代から解放してくれた救世主じゃ!」

 ドワッと空気が震えた。

 視線が一点に集まる。

 軽く頭を下げれば、再びドワッとさっき以上に森全体が震えた。

 隣にいる人と抱き合う人たち。

 雄叫びを上げて、体全体で喜びを露わにする人たち。

 涙を流す人たちまでいる。

 すぐ近くでオロ爺の話を耳にしていた兎耳の女の子が俺の元にやって来る。

 この子は肥満の大男の奴隷だった。

 顔や体には暴力を受けた痕跡が色濃く残っている。

 非道な行いをする国だ。上が上なら下も一緒か。

 俺は癒しの精霊がいることに感謝して、この子を治す力を借り、治癒を施す。

「あっ」

 体全体を緑色に包まれた兎耳の女の子が声を上げた。

 みるみる痕は消え去り、最初から何もなかった健全な姿になる。

「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオ‼︎」」」」」

 治癒する光景を目にした全員が声を揃えて歓喜する。

 傷んで汚れていた髪もまた本来の蒼みがかかった白の髪に戻り、キラキラと輝いている。

「うわぁーー。身体が軽いよぉー。セイさん、ありがとうぅー」

「⁉︎」

 抱きつかれた。

 豊満な胸が体に押し付けられる。

 これは……すご……ッ!

 一時的に精神体となって、邪念を洗い流して再び戻る。

 要した時間は現実世界において、コンマ0.2秒のことである。

 何も問題ないッ!

「セイさん、助けてくれてありがとうぅー。もうテンデ・ダーメンに殺されるんじゃないかって、怖くて怖くてぇー、ホントにホントにありがとぉぉうぅーー!」

 涙を流して、お礼を言うナナセさん。

 なかなか強いな。この子……ッ⁉︎

 一時的に――以下同文。

「わたしは兎人族のナナセといいますぅー。改めて、これから宜しくお願いしますぅー」

「ッ⁉︎」

 チュッと頬にキスされた。

 動揺したのを見逃さないオロ爺。

 口に手を当てて上手く隠しているが、口元がニヤケてるのバレバレだぞ。

「若い者同士仲睦まじくなることは良いことですな」

 動揺を隠すように俺は言う。

「オロ爺」

「なんですかな?」

「懸念事項がある」

「今後のことですかな」

「話が早くて助かる」

「今わたくしたちがいる場所は、魔の大森林ですからな。すぐ移動するべきでしょう」

「いや移動に関しては問題ない。重要なのはこの場にいる全員が全員、向かうべき目的地があるのかないかだ。場合によっては別れて行動しなくてはならないだろう?」

「セイ様、そのようなことまでお考えくださってましたか。ありがとうございます」

「お礼は言わなくていい。俺が最初にしたことだ。最後まで責任を持ってやるまで」

「では皆に今後の事を聞いてきますかな」

「頼む」

「お任せください」

 密着した身体を名残惜しそうにするナナセが元の位置に戻り、歓声が鳴り止むとオロ爺がこの場に集う種族の異なる全ての者達に懇切丁寧に事情を説明してくれた。

 全員が次第にホッと一安心し、今後の事を話し合った結果、元々孤児だった者や親に売られて帰る場所が既にない者や王国によって故郷を滅ぼされた者が多く、俺と共に居たいと強く意思を示した。

 こうなれば、考えるまでもない。

「オロ爺」

「はい」

「俺はこの地に安住の地を築こうと思う」

「ッ……本気ですかな?」

「本気だ」

「セイ様、ここは魔の大森林です。魔物も多く人が住める場所ではありませんぞ」

「その通りだ」

「?」

「人が住めない。そう認識された場所に住める場所があるとは誰も思わないだろう?」

「……確かにその通りですな」

「この地に何かがあると噂が立ったとしても冒険者以外は踏み入れない魔の大森林だ。興味本位で近づく者も探し出そうとする一般人も簡単に踏み込もうとはしない」

「ッ!」

「まさにうってつけな場所だと思わないか?」

「まさにその通り。元奴隷だったわたくしたちが魔の大森林にいるなど考えつかない。この身一つで魔の大森林を通って逃げようなど自殺行為、ファミリア王国の愚かな貴族どもも安易に魔の大森林を捜索しようとはしないですな」

「決まりだな」

 早速行動しよう。

「セイ様、どこへ行かれるのです?」

「境界線を作る」

「⁇」

「町おこしだ」

 簡潔に答え、土の精霊の力を借り、円を描くように土の壁を作り出し、壁の外側の地中を深く掘り下げる。

 これで魔物が近づこうと掘った落とし穴に落ちるか、飛び越えられても壁にぶつかり落とし穴に真っ逆さまに落ちるだけだ。

 落とし穴の真下には尖った土の棘がある。落ちたら最後、串刺しだ。

 次に体育館をイメージして、土の精霊に共有すれば、あっという間に瓜二つの体育館の出来上がり、

「「「「「オオオオオオオオ‼︎」」」」」

 周囲から驚きの声が上がる。

 試しに中に入れば、中の構造もイメージ通りであった。

 少し寒いな。

 火の精霊に頼み、中の温度を適切な温度に調整してもらう。

 その調子でトイレと風呂場を作り出す。火の精霊や水の精霊がここ掘ってーここ掘ると温かいよーと教えてくれて掘ってみれば、温泉が湧き出した。

「これは……なんとも形容しがたいものがありますな」

「桐生くん、一体何者なの?」

「セイさん、すごいですぅー」

 オロ爺、白石さん、ナナセさんの言。

 土色で代わり映えのない色である。

 現段階では充分だろう。

 驚きを隠せない全員に向かい、

「全員を癒す」

 癒しの精霊の力を借り、一人ずつ治癒して回る。

「ありがたやありがたや」

「精霊に感謝」

「セイ様ありがとー」

「ありがとうございました」

「片腕が生えたッ!ボクの片腕がぁ!セイ様ありがとうございます!ありがとうございます!」

「長年の麻痺が消えたッ‼︎セイさまぁーーーーありがとうありがとうありがとう‼︎」

 感謝の言葉を受けながら治癒して回っていると何処からか癒しの精霊たちが癒しの波動を感じて集まり始めた。

 この数なら全員を一斉に治癒する事も可能だろう。

 両手を広げ、残る全ての人たちを治癒するイメージを思い描けば、周囲が緑色に発光して輝き出す。

「これは最上級治癒魔法⁉︎」

 オロ爺の大声が耳に響くと同時に視界の端から端まで緑光一色に包まれる。

「体が温かい!」

「癒される!」

「健康なあの時の感覚じゃ!」

「足が上がるよ!」

「動ける!」

「力が湧き上がるぞぉー!」

「目が見える!」

「バァさんが動いたッ‼︎」

「わしゃピンピンしとる‼︎」

 誰もが自分の体の変化に驚き、涙を流して歓喜する。

 綺麗な光の結晶が空に消えていく。

 癒しの精霊たちに感謝を込めてお礼を伝え、

「オロ爺」

「次はなんですかな⁉︎」

 オロ爺かなりワクワクしてるな。

「魔物を狩ってくる」

「ッ⁉︎……本当にセイ様は普通の人間とは違われる。わかりました。留守の間は、わたくしめにお任せくだされ」

「頼む」

「桐生くんっ!」

「白石さんはオロ爺と一緒にこの場に残ってくれるか?」

「わ、わかったけど、大丈夫?魔物だよ?怖くないの?」

「問題ない」

「……そっか。桐生くんは凄いねッ」

「セイさんは凄いお方ですぅー!お戻りお待ちしてますぅー!」

「行ってくる」

 俺は白石さん達に背を向けて、拓けた場所改めベースキャンプから濃い霧が発生した大森林へと足を踏み入れる。


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