38. 桐生静は、名付ける その4
4日目。本日も誰も目が覚めてない時間帯から一番乗りで起き、恒例となる肉体改造から始まる。
オロやエルフ一同、ヨゾラ達と共に走り込みから腕立て腹筋など各部を徹底的に鍛えた。いつも通り治癒で体力疲労回復は怠らない。精神力を鍛える上で限界を何度も突き破る勢いで、全員死にものぐるいで取り組んだ。
途中、白石さんも合流する。白石さんは水の精霊と共に水場で昨日同様のメニューに取り組む。
ヨゾラ達は物足りなさそうだったので、土精霊による土人形複数操作の対人戦を実戦さながら挑んでもらう。
俺はオロとワンツーマンで魔力纏の無意識化で扱えるように習う。
「魔力を放出し続けているのです。魔力纏に必要な魔力量のみを意識するのです。セイ様は必要以上の魔力まで放出して無駄にされていますぞ」
個別指導でオロからアドバイスを受ける。
「初めは誰でも通る道です。必要な魔力量のみで発動すればより長い時間効率よく使えます。一定間隔で自分の魔力を放出し、自分の無意識化でコントロールする感覚を身につけるのです」
オロに言われた通り、訓練に励む。
無意識化での魔力コントロール。
放出し続けていた魔力を必要な魔力量で制限し制御する。
まるで鳥肌の位置をコントロールするようで非常に感覚的で難しい。すぐには体得できそうにない。だがやり続ける。少しずつ感覚を掴むまで。ひたすらやり続ける。
「精霊信仰派のわたくしめの祖先達は長年精霊の力を行使する者について研究してきました」
「……」
研究という言葉にはいい思い出はないな。
「精霊の力は凄まじく体内に入れてしまえば身体に過多なエネルギーが流れて内側から破壊されるという結論に至ってます」
「……」
確かにその通りだ。
「つまり精霊の力は只の人には極限な猛毒なのです。ですがどうでしょうか。セイ様は精霊の力をどれだけ行使しても生きている。精霊から流れる多量のエネルギーを肉体が受け付けて破壊されずに抑え込められている上、精霊の力とセイ様の器が共生しているではないですか。細胞一つ一つに精霊の力そのもの取り込み、急激に新たな変化を起こしているのです。セイ様にしか行使できない理由がソレなのです。人間と精霊との超越者。救世主と呼んで過言ではありますまい」
オロは個別指導する中で俺自身を分析して結論に達したか。たった数日でそこまで結論に至れるだけでも俺のいた世界の組織連中が拍手喝采する内容だな。しかし連中も重々承知の内容である。目新しい情報でもない。
「探求者か」
「はい――」
探求者の行き着く先は――同じ結末しかあり得ない。幸いなのは異世界にあの技術がないことだろう。もしアレがあったら――俺は全てを投げ出してでも破壊するだろう。もう二度と――
魔の大森林へ。
ヨゾラとカゼマルは俺とは別行動。風の精霊に一緒について行ってもらうように頼んだので、俺がいなくとも倒した魔物は空輸される。
俺は単独で魔の大森林を進み、初めてお目にかかる魔物と遭遇する。
四足歩行の牛。牛の魔物である。
牛肉じゅるり。
「牛君おはよう」
試しに挨拶を試みる。
「ブモォーーー」
牛が挨拶を返したのか判別はつかないが襲いかかってくる。敵意剥き出しで。分厚い肉体から放たれる突進力はさすがの一言。左右二本のツノは相手を貫くために特化した殺傷力満載。凶暴な見た目の迫力に怖気れば、その瞬間にグサリと貫かれる姿が脳裏に浮かぶ。迫力があろうと横に避ければ問題ない。真っ直ぐ突進するだけの脳筋。ツノで避ける際に攻撃してくる知能はあるが風に守られた俺に傷はつけられない。そもそも急な方向転換でブレブレに分散した威力半減の攻撃は当たるはずはない。風の刃で頭と胴体を真っ二つにして、水の精霊に力を借りて水流操作で一気に血抜きをする。
呆気ない幕引きだった。
その後も牛の数匹見つけては狩り、数匹見つけては狩りを繰り返していくと土煙を上げて移動する牛の集団を発見。向こうも俺を発見。赤い色は全く身につけてないが横一列で突進してくる牛。牛。牛。横に飛んで避けるのは不可能。横に回避をさせないための横一列だろう。だが詰めが甘い。俺は空中を飛ぶことも可能だが試しに受けてみようと思う。それ以外は土の精霊の力を借りて、左右一直線に分厚い土壁を三層突出させる。地面から突如現れた土壁に驚く牛。牛。牛。俺の正面には土壁はない。シメタッ!と口をニヤケさせる牛。だがすまない。この先は通行止めだ。俺は両手を前に出し、牛との衝突までの数秒間で適切なタイミングを調整して合わせる。
両手に思い衝撃が走る。そのままだと俺の全身にダメージが残るため衝撃を受け流し、地面に分散させる。
「ブモォ〜〜〜〜〜ッ⁉︎」
威力はある。申し分ない。俺にバッドステータス『超重』さえなければ、完全に押し倒された挙句に貫かれたかもな。だが残念。結果は驚愕の声を上げる牛の押し負け。結果が全てだ。
信じられない重みを衝撃で感じ取り、牛は開いた口が塞がらない。自分の力で後ろに押し返された牛に躊躇なく風の刃で最初の牛と同じ結末を迎えてもらう。他の牛たちは土壁にめり込み、気絶している。土壁を解き、全ての牛を一刀両断して血抜きを行い、ベースキャンプへ空輸する。
……
…………
………………
既存の魔物を狩りつつ、牛に続いて初となる魔物と遭遇。
蜘蛛の魔物である。大型犬くらいの大きさで見た目がグロい。ハッキリ言って、ない。気持ち悪さは大きさが大きさなだけに高いぞ。女性が見れば卒倒するレベルであり、スクランブル交差点のど真ん中にいたら全員涙流して逃げ惑う姿が想像できてしまう。そう例えられるほど、やばいの一言。
これ以上視界に入れたくなかったので、早急に風の刃で仕留める――が予想に反して攻撃を避ける。次の一手を放てば、ソレも容易に避ける。
風の刃を放ち、次の風の刃を蜘蛛が移動する先を予測して予測地点全てに向けて放つ――が避けられる。
意外だ。避けられるとは――こいつは何かしらのスキル持ちか?
次々と風の刃を的確に放つがギリギリではなく余裕で避ける蜘蛛を確認し、スキル持ちだと確定する。
こいつは俺の攻撃を予測してる。先読みしてると言って過言ではない。
先読みしてるか予測してるか判別する為に俺と蜘蛛の周囲を覆う土のドームを形成し、暗闇にする。蜘蛛は暗視が出来たはずだ。だが範囲の制限はした。予測して回避もしくは先読みして回避か見定める。俺は風の精霊による追尾を混ぜた風の刃を無数に放つ。雑に放った狙い定まってない風の刃に見向きもせず、予測地点は着弾時間を避けて通り、追尾は蜘蛛の糸を放って迎撃しようとするが威力負けして手を打てずに回避回避回避。
決まりだな。こいつのスキルは先読みだ。予測地点に到着する時間を予測した上では他が手薄になる。予測の次元を超えた動きを可能に出来るのは先読み以外にない。先が読めたとして防ぐ術がなければ対処不可だ。最初と打って変わって余裕のカケラもありはしない蜘蛛はついに体力の限界を迎えて風の刃に脚数本を持っていかれる寸前でかき消す。風の精霊はキャッキャ楽しそうにしていた反面、途中でやめたのが不満だったようだ。だから新たに生み出した風の刃を飛ばし、追尾はブーブー不満を表す精霊にすまないと共有して任せる。ドームから外へ出る入り口を開き、キャッキャ楽しそうに風の刃に乗った精霊は辺り一帯にいる他の魔物がいるか確認しに行った。
「……‼︎」
蜘蛛は声を上げる体力もない。完全に詰みだ。土のドームを解き、大地へ還す。
「合格だ」
見た目はアレだがスキルは優秀だ。
仲間に迎え入れない道理はない。
あとは――
「俺の仲間にならないか?」
蜘蛛の元へ移動して勧誘する。同時に癒しの精霊による治癒を施す。疲労はみるみる消え、体力は回復する。
蜘蛛は信じられないとヨゾラ達同様の反応を示す。赤く光った目から敵対心は既に皆無。
「ギィギィ」
蜘蛛は頷き、『仲間になる』と応えてくれる。
早速名付けを行うとしよう。
見た目は非常に口には出せない部類だ。されど近くで見れば、赤い目は綺麗と思える。――なら決まりだな。
「お前の名前はアカメだ」
名付けを行なった瞬間、魔力を持っていかれる感覚を味わう。かなり持っていかれた。蜘蛛改めアカメは脱皮して、大型犬より一回り大きくなった。
赤い目からは力強さを感じ取れる。
「ギィギィ」
アカメは今すぐ自分の力を試したいと昂りを見せ、他の魔物を探しに行く。
追尾で辺り一帯を確認してきた風の精霊が戻ってくるなり、魔物が大量にいる場所を共有してくれる。はぐれの魔物は一匹残らず倒したようで、その場所を視て確認する。確認後は全て空輸して、アカメと共に魔物狩りへ。