32. 桐生静は、紹介してもらう
朝食後。オロ爺の姿になったオロが皆の前で、真の姿をお披露目。皆一様にビックリ仰天だった模様。オロが今後とも皆の相談役兼受付窓口として、ベースキャンプの実質的な長として着任したのは言うまでもない話。俺か?俺は何も着任していないぞ?実に自分の行動に制限されないフリーダムだ。全てオロが統括してホウレンソウしてくれるので、オロに丸投げした形だな。だが、強いて挙げるならオロからのまとめを聞いてどうするか話し合って決定するなり、魔物狩りやベースキャンプの警備員さんくらいの立場と思って貰えば構わない。
1000の大部隊の装備品を空輸ベースに山積みにされている件を片付ける為、行動する。空輸ベースの作業員の方々は装備品を見るなり、クワッと目を見開いて驚いていたらしいが大多数の人の目に晒されたわけではない。空輸ベースの真横の空きスペースにソレらを入れられる大きさの倉庫(土)を作り出し、安定性の向上を図る目的で残りの殻を利用する。これで倉庫が隕石に当たるでもしない限り、崩落する恐れはない。安全面が大事だ。安全確認を取り、ソレらを中に風で運び込み、皆の目から遠ざけることに成功。
次にバギオを見つけて話を聞く。
「キリュウが朝から声かけてくるってことはだ。また頼まれごとかぁ?」
「ああ。バギオに相談するのが一番適切と考えた」
「今度は何したってんだ?」
「装備品を再活用しようと考えてる」
「……はぁ?装備品?」
「装備品だ」
「誰の?」
「バギオは知らなくていい話だ」
「ったく、キリュウって奴は秘密なら秘密でも構わねーけどな。頼み事なら包み隠さず話してもいいんじゃねーか?」
「話を聞きたいのなら話す。だが他言無用だ。いいな?」
「ゴクッ……。まじかよ」
「マジだ」
「キリュウは一体何やらかしてんだッ?」
「やらかしてはない。向こうからやってきただけだ」
「向こうからだって……まさかッ⁉︎」
「ああ。バギオも俺が言わんとすることが解ったなら他言無用の意味が分かるだろう」
「ったく、朝からビックなニュースが多すぎて困るぜ!他言無用は理解した。で、どこのどいつらが来たって?」
「テンデ・ダーメンの大部隊だ」
「はぁーーーッ⁉︎あのバカ侯爵が部隊を動かしたって言うのか?もしかしてもしかしないかもしれねーが、ナナセの居場所を掴んだってわけじゃねーよなッ?」
「いいやナナセの居場所は掴んでいない。奴はただの傀儡だ。傀儡として奴の部隊が働いただけだ。本命は奴の裏にいた」
「……‼︎……ゴクッ。ビックなニュース過ぎるだろッ!キリュウの判断は正解だな。その話を全員が耳にすれば……嫌ってほど意識させられちまう。奴隷から脱却したってのにあいつらは諦めが悪い」
「万が一また誰かが唆されて来るようならまた同じ結末を迎えてもらうだけだ」
「ったく、キリュウには恐れるもんなんてねーんじゃねーかって本気で思うぜ。あんま無理すんなよ。難しい局面が来たらオレが陣頭に立ってもいい。キリュウには口には出さなかったがこれでも感謝してんだぜ」
「バギオ。お前は良い奴だな」
「ったりめーよ。恩義を感じたらソレを返すのはゼッテーだッ!」
「今まで噛みついていたのはただ単に口下手なだけだったわけか」
「……ッ‼︎……バカ言ってんじゃねーよッ。オレはキリュウを信じてもいいのかもしんねーなって思っただけだッ!キリュウにだけは口下手呼ばわりされるわけにはいかねーッ!それとよ、話が逸れちまってんぞッ!本題に入りやがれッ!」
バギオの顔面が真っ赤なのは口に出さない方がいいな。
「そうだな。本題に入る。奴らの装備品を再活用するにあたって、バギオの希少なスキル『武器生成』を応用した武器の再構築や作られる前の形状に戻すことは可能か?」
「あっちぃー。今日は朝から暑いぜッ!まあ再構築なら出来なくもねーけど、オレの武器生成では作られる前の形状や素材に戻す事は無理だ」
「そうか。再構築は出来て、作られる前は難しいか――」
「だけどな。出来るヤツに心当たりがある」
「誰だ?ここにいるのか?」
「慌てんなって。ただヤツはちょっと……いや結構クセが強い……紹介してやっていいがどうするよ?」
「紹介してもらおうか」
「キリュウはホント最高にイカレタヤツだよ。ついてこいッ」
バギオに案内されるがまま、生活居住区へ。その中の一角は犬人族だけでまとまっている。他の種族も同じ話だが皆一様に一塊でまとまり合い、自然と生活居住区で種族毎の区分が行われている。
「ここにヤツはいる」
代わり映えのない同じ建物が多く並ぶ中、バギオが案内した建物だけが中から腐敗臭地味た臭いがする。
「なんの臭いだ?」
「実験の香りだろうな」
実験という言葉を聞くとは思っていなかったが臭いの発生源は紛れもなく、目的の主の家から放たれている事はよく理解した。実験の香りという点も納得して、バギオと共に中に入る。
中は何処も一緒で殺風景なものだがテンデ・ダーメンの家財でビフォーアフターがどこもかしこも行われた中、この建物だけが異様だった。辺り一面腐った生ゴミから魔物の骨が大量に落ちている。絨毯などの生活用品は一切ない。
バギオに目で問えば、「言っただろ」と返される。
「コロナいるかッ!」
バギオは人影が一切ない中、目的の主の名前を呼ぶ。
「デュフフフフ」
変な声が聞こえた。
声の主は女性だと判明する。
名前的にそうだろうとは思ったが。
「出て来いやッ!」
格闘技で聞きそうな台詞をバギオの声で聞くとは思っていなかった。意外と煽り文句はバギオに似合うなと思う。
「デュフフフフ」
生ゴミが蠢く。
臨戦態勢に無意識で構える俺に
「キリュウはキリュウで、何やってんだッ!」
バギオからツッコミならぬ救いの手と言うべきか怒られた。
生ゴミの中から腐敗臭をこれでもかと匂わせた女性が姿を現わす。見た目はバギオとそう年齢が変わらない。俺より年上の相手だ。だが相手は目線を吸い寄せる武器を持っている。ボンキュンボンな殺傷力満載の胸が俺の視界に入る。
これはやばい。
1秒が永遠に感じられる。
思考がフリーズした。
全身汚れに汚れまくってる点を除けば、魅力的な女性と言える。
生ゴミの山から下り、俺とバギオの元に一歩また一歩と近づく中で気づく。
コロナという女性の赤と黒が混ざり合ったロングストレートの髪が床下まで伸びている点に気づく。
「デュフフフフ」
目の前まで来たコロナさんは間近で見れば見るほど、破壊力抜群の胸を搭載していた。圧倒的破壊力。
「バギオ紹介してくれるか?」
飲まれる前に正気を保ち、バギオに促す。
「キリュウは初めて会うだろうがオレと同い年で幼馴染というか腐れ縁のコロナだ。――んで、コロナも知っての通り、オレらを救ってくれたキリュウだ。コロナの力を貸して欲しいそうだ」
同い年なのか。やはり年上確定だな。
「デュフフフフ」
コロナさんは頷く。
「俺の名前は知っているとは思うが静・桐生だ。大事な用があって、バギオに紹介してもらった。今は話す時間は大丈夫だろうか?」
「デュフフフフ」
頷いたコロナさんは興味の眼差しを俺に向けている。
「山程ある装備品を再活用するにあたって、コロナさんなら作られる前の形状や素材として戻せるとバギオから聞いた。ベースキャンプを更により良いものにする為に力を貸してほしい」
コロナさんの目を真剣に見つめ返して、全ての話を割愛して本題のみを伝える。
「デュフフフフ。山程。装備品。分解していいの?」
俺の言葉はコロナさんには願ってもない話だったようだ。コロナさんが身体をクネクネさせる姿は目に毒だ。
「ああ。構わない。作られる前の素材に分解出来るなら是非やってもらいたい」
「デュフフフフ。案内して」
興味が完全に装備品に移ったコロナさんは家の外へ出るなり、全身が汚れているのすら御構い無しに「早く」と催促する。
「ったく、錬金術師ってのはイカレタヤツしかなれねー職業なんだろうよッ」
バギオは困った妹を見るように髪の毛をかき、笑う。
「錬金術師か」
コロナさんの職業が錬金術師と聞き、合点がいった俺も後を追い、目的地へと案内する。目的地へ向かう道中、コロナさんから放たれる腐敗臭は周りに悪影響を及ぼさないとも限らないので風操作で上手く誤魔化した。
目的地である倉庫に着くなり、コロナさんは倉庫中にある装備品を愛でるように触る。
「デュフフフフ」
口からヨダレを垂らす姿はとても個性的だと思った。
「キリュウには悪りぃがああなったら最後まで止まらねーからな」
「そうなのか?」
「終わるまで徹夜も構わねーで、何日でもやり続ける。それがコロナの悪いクセだ。見ていてやんねーとぶっ倒れられたら目覚めが悪りぃぜ」
バギオは困った表情でコロナさんを見守る。
「まるで妹を見守る兄だな」
「妹が1人増えたところで、あんまり変わらねーからな。幼馴染としてほっとけねーってのもある。キリュウは妹や兄弟はいるのか?」
「妹がいるな」
「それなら話ははえーな。キリュウもオレの気持ちが解んだろ?」
「いいや解らない」
「どうしてだよッ!キリュウ薄情過ぎんだろッ!」
「妹と言っても血の繋がった妹じゃない。妹の存在は知っていても実際に会った事すらない」
「……悪りぃ。キリュウにも色々と複雑な過去があるんだな。薄情なんて言って悪かった」
「いいや別に平気だ」
バギオと話をしてるうちにコロナさんは錬金術師としての力を発揮する。
「アレが錬金術師のスキル『アルケミスト』――」
バギオが説明してくれる。
装備品が分解され、素の素材となる。鉄や鋼や銀といったものに変わる。
ゴトンゴトンと音を立て、ソレらが変換される光景は見事の一言だ。
コロナさんは幼少の頃から錬金術師としての才を発揮し、奴隷時代で更なる磨きをかけて高みに至ったとバギオが語る。幼少の頃は普通の子供だったそうだが錬金術師としてありとあらゆる物質に焦点を合わせて極めていくうちに個性が開花して、ああなった。奴隷時代に様々な研究を任せられたのも一因して大きく個性が爆発して、錬金術師のお花畑な頭脳厨と化した。バギオは奴隷として活躍が衰えない色々な噂を耳にして知っていたそうが実際に何年振りに会ったコロナさんは自分の知る頃と大きく違っていた。
「コロナさん、無理しないでよろしく頼むな」
「デュフフフフ」
俺の声は届いていない。
目の前のことだけに集中してる。
こうなれば――
「バギオ、コロナさんを頼むぞ」
「おいおい、キリュウは一抜けかよッ!」
「俺にもやらないといけない事がある」
「キリュウの無茶振りには躊躇いってもんがないぞッ!」
「バギオだから任せられる。妹を見守る兄としての誇りを俺に見せてくれ」
「――ッ!ったく、キリュウが見てぇーっつんなら兄としての意地と誇りってヤツを見せてやるよッ!」
「頼もしいな」
俺はそう言い残し、次の行動へ移る。
「デュフフフフ♪」
立ち去った後、コロナさんの嬉々とした声が倉庫内に響くのであった。




