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30. 幕間 少年の名は――

 魔の大森林の夜空を飛んでいた白一色の梟がファミリア王国王都の一角にあるこじんまりとした何処にでもある周囲と溶け込んだ建物の上に止まる。

 建物内の中ではロウソク一本で照らされた暗室内に深い眠りからピクリと目覚めた5歳児が口を動かす。高級なクッションの上に全体重を預けたまま寝た状態で、だ。

()()

 金髪の5歳児から少し離れた場所で、手作り感満載のチェス盤の上で一人二役で対決していた全身白づくめの赤髪が動かす手を止めて振り返る。満面の笑みで。

「戻ってきましたか。反逆勇者VSダーメン侯爵手勢達の戦闘は終結しましたか?」

「アレは戦闘じゃない。反逆勇者は回避一択。向こうの勝ち確定路線だった。だってのに――ドンパチする前に全員消えた」

「……はぁい?」

「反逆勇者だけが残った」

「……何を言っているんですかねー?」

「見ればわかる」

「言葉では伝わらないものですね。ではお言葉に甘えて全て見せてもらいますか――接続」


 数分後。


「……‼︎」

「――見ただろ?言ってる意味が今なら解るだろ?」

「ええ。よーく理解しました。これは思った以上に手強い。先手を打っておいて正解でしたね」

「先手?なにか講じてるのか?」

「そりゃーもちろん先手は念には念を入れて打っていますよ♪」

「――お前って用意周到だよな。いつも毎回ご苦労な事だ」

「あたしの上を行かれるパターンは何通りもあります。まさしく戦いが始まる前から戦いは始まっていたってことです。それら全てを見据えて動けば――」

「「負けることはない」」

「ビンゴ!1P進呈します」

「お前との付き合いは長い。言おうとする言葉は大体解る」

「あはははははははっ。これは一本取られましたね。付き合いは長くても男女関係になった覚えはありませんよ?」

「はぁーーーッ?誰がお前と男女関係になりたいってんだッ!お前の性格知ってる上で言う。100%お前とはないッ!なったら最後地獄の果てまで取り立てられそうだッ!」

「はいはい。冗談ですよ冗談。言葉にまんまと転がされるのは実に滑稽ですね」

「――お前って小悪魔って言われること多いだろ?」

「いいえ全く。記憶にございませんッ」

「笑わせたい考えは解った。絶対笑ってたまるかッ」

「笑ってはいけない――」

「「24時」」

「ピンポーン!正解!1P加算されましたー♪」

「ホント小ネタ挟むの好きだなッ」

「こんな話を他の人とはしませんよ?」

「思わせぶりはすんなッ!」

「フッ」

「吹くなッ」

「リコーダーは吹いてませんよ?」

「そっちの吹くじゃねーからッ!」

「ツッコミ担当は任せました」

「任されました――っていうわけねーだろッ!」

「魂乗せを使った反動は少しは楽になりましたか?」

「……お前は手のひらで人を弄ぶ悪魔と思う反面たまに優しい面でそんな台詞を混ぜてくる。お前って実は良い奴?」

「悪い奴ですよ?」

「だよなッ!」

「体調が良好になるまでは安静にしていてください」

「解った。お前はこの後どうするつもりだ?」

「あたしですか?あたしは面白いことをしに行ってきます」

「ほどほどにな」

「ほどほどが一番とは思えません。あたしはあたしが面白いと思う方向性でやります」

「なら方向性の違いで、お前とは今日を以ってグループ解散だ」

「そうですね。解散しましょう」

「「解散(♪)」」


 全身白づくめの赤髪は「ルンルンルン〜ルンルンルンルン〜♪」鼻歌交じりのスキップしながら世闇の中へ消えていく。




 ☆☆☆☆☆




 テンデ・ダーメン侯爵の悲報は侯爵領の宝珠を介して、ファミリア王国王都他全領内に報せられる。

 テンデ・ダーメンの謎の死は自治領内では大いに喜びを心中で叫び狂い、奴隷大消失で日が浅い内に起きた次なる謎の事件とあってはファミリア王国全土に衝撃を与えた。それだけならば、まだ許容範囲として受け止められただろう。しかし謎の死を遂げたテンデ・ダーメン侯爵による『魔の大森林で目撃された正体不明の賊の発見及び捕縛兼魔物駆除遂行』という名目上の理由で動員された大部隊1000(1名のみ生還)が一夜にして消息を断つ。謎の行動が謎を呼び、魔の大森林で大部隊の魔力反応が忽然と消えて消息不明になった事は侯爵以上に衝撃を与えた。侯爵領内を守る為に王から預かり受けた全ての部隊を動員したようなもの。自治領内は守る盾を失った。魔の大森林と目と鼻の近さがあり、今後は冒険者の活躍が今まで以上に大きく期待されるのはまた別の話。

 魔の大森林に正体不明の賊がいるなど知る由もないファミリ王国内の誰もが思う。



 魔の大森林には何かがある。



 そう認識を刷り込ませた。探求心を持った者はすぐに動くだろう。強者は魔に導かれて、魔の大森林へ集うのは時間の問題であろう。

 だが逆も然りだ。魔の大森林へ近づかない冒険者は増えるだろう。商人達もそうだ。魔物以外の正体不明の賊に身を震わせて近寄る事はないであろう。



 賽は投げられた。



 何が出るかは行ってみた者にしかわからない話である。




 翌日、大部隊で唯一生還したユーリ・ダーメンは王城へ召集を受ける。

 ユーリがそこで何を話したかは神のみぞ知る話である。

 当日、ダーメン侯爵家は廃嫡が決定。

 後日、私財全てを没収された。

 俗に言う没落貴族となったのであった。

 元侯爵領は空白地帯となった。




 ☆☆☆☆☆




 世界の果て。

 人類が未だ到達し得ない場所。

 そこで精霊王より生まれし頃から賜った役目を果たす精霊竜がいた。

精霊王()よ。ご帰還される日をどれほど待ちわびたか。精霊王が人間の巫女(かの者)と共に渡って、500年と幾日……懐かしき波動。精霊王よ盟約を全うしたか。そうか。一つになったのだな。久しく語り合う日を待ち遠しく思っていたが……壊れゆく世界までも託したのだな」

 勇者召喚が行われたファミリア王国の方角を一心に見つめ、気絶した少年から放たれる懐かしいものを視て感じ取ると薄く笑った。




 ☆☆☆☆☆




 桐生静が勇者召喚に巻き込まれた同時刻。

「日本からサイレント消失ッ!」

「監視任務の者に今すぐ連絡しろッ!」

 指示に従った部下がコール音を鳴らすが――

「……繋がりませんッ!」

 響くのはブーブーブーブーのみ。

 別の部下がカタカタと液晶キーボードパネルを叩き――告げる。

「サイレントの監視に付けた者も同様に消失を確認ッ!」

「なんだと――ッ⁉︎」

「衛星からの情報出ますッ!」

 衛星からの映像が大画面に映し出される。サイレントと呼ばれる少年が普通の一般人として日常を学ぶ為に在学するとある学園。本日の登校時間内に少年が学園内に足を運び込み、現時刻まで学園の敷地内から一歩も出てないことが分かる。

「光学迷彩の応用の解析結果――無しッ!」

「生体反応はサイレントの教室で途絶えていることが確認されてますッ!」

「学園内に設置した監視カメラ解析までカウント5.4.3.2.1――表示ッ!」

 大画面に学園に点在する全ての映像が端から端まで流れる。その中から少年の在籍する2-B教室がピックアップされて映し出される。

 教室はもぬけの殻。机や椅子が廊下側2箇所の出入り口付近に無造作に積まれ、色々なものが散らばり散乱している状態だ。一部の床には微量の血。

 まるで暴風が荒れ狂ったかの如く光景である。それなのに窓ガラスは割れておらず、無傷。違和感がこの場にいる全員の頭に過ぎる。

 人っ子一人居ない。

「サイレント消失時間再生開始ッ!」

 映像が切り替わり、少年と2-B生徒達が幾何学模様の魔法陣に飲み込まれる姿が映像で流れる。

「……‼︎」

 全員が固まる。我が目を疑う。

 サイレントと呼ばれる少年は組織の中で驚異度SSSに推定される天変地異の存在だ。だというのに少年は何も手を打てずに教室から姿を消した。生徒達ももちろん一緒に消失した。

 組織内の現記録映像を見た全員が今まで理解し難い場面を数多く目撃したが今回の事態は流石に理解の範囲外のものであった。

 大画面の右上に表示される少年の状態をリアルタイムで示す全ての項目がERRORと表示されている。

「サイレント――消失ッ」

 その言葉だけが室内に大きく響いたのであった。


 その日の夜。全チャンネルの番組では超高校級のアスリート達や多彩に活躍する芸能人や様々なアイドルが多数在籍する有名な学園内で起こった『白昼の2-B』の話題が日本中のお茶の間に衝撃を与えた。


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