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21. 桐生静は、裏で蠢く影を知らない

 全ての人が体育館に集合した。

 呼びかけを行ってくれたオロ爺が「お待たせいたしました」と壇上に上がり、合流する。

 壇上には俺・白石さん・オロ爺・ナナセ・ヨゾラ・アクセル・カゼマルといった面子が揃ってる。アクセルの仲間達は数が数だけに一緒に壇上には上がらず、体育館の端に規律よく整列している。

「そろそろ始めましょうかな」

「頼む」

「皆の者――」

 オロ爺が呼びかけに応じてくれた全ての人に感謝を伝え、最後に俺から大事な話があると締めて話を譲ってくれる。本当ならオロ爺に全て任せたいところだが、俺がしないと始まらないのは事実だ。

「みんな集まってくれてありがとう」

 まずは全ての人に感謝を込めて頭を下げる。

 どわぁぁぁぁぁぁと体育館に全ての人の声が反響する。

「まず最初に――」

 空輸ベースで大騒ぎになった一件――アクセル達を空輸して驚かせた事を謝り、全員が理由はどうあれ経緯を説明したら納得してくれた。

 改めてアクセルとアクセル達が仲間として迎える話をすれば、全員が歓迎したのは言うまでもない。

 アクセル達の一件が済めば、次に俺の肩に乗るカゼマルの話に移る。皆一様に俺の肩に乗るスライムは何だろう?誰だろう?話はまだかな?と興味津々で視線を向けていた。注目が集まったカゼマルの紹介も難色はなく歓迎ムードで行うことができた。

 これで問題なく本題に移れそうだ。

「ここからが重要な話になる――」

 ベースキャンプへの帰り道に予期せぬ邂逅した赤髪の名無しとの一連のやりとりの話を話す。話を聞けば聞くほど、皆一様に険しい表情になる。

 元奴隷だった頃を思い出しているのだろう。奴隷の持ち主達が怒りに身を任せて暴動を起こし、裏組織に至ってはハッちゃんことハン達を血眼で探し回ってると耳にすれば、意識しなくとも意識せざるおえないだろう。本当は話さなくてもいい話だ。されど、ここで話を聞いておくのは意味がある。この場に集う全員が奴隷脱却から本来の自分へと変わり始めてる。今ここで奴隷の楔に抗えずに元の自分へ戻るか、奴隷の楔を引き千切って本来の自分へ本気で変われるかを試した。

 全員一度は負の感情に支配されて俯きかけた。だがしかし、ソレを自分の意思で抗い破る変化の兆しが見えた。

 誰もが胸の中に確固たる強い意志を持っていたのは明白。彼ら彼女らは顔を上げると俺を一点に見つめた。全員の眼差しに俺という旗印があるのが窺え、無意識化でフッと口元をほころばせた。

 全員が全員、奴隷から本当の意味で抜け出せたようだ。もしくは奴隷時代の憎しみや復讐心をそのまま引き継いでと言ったほうが正しいか。

「セイ様は人が悪いですな。こんな手段を取られなくとも時間と共に解決したかもしれませんぞ?」

 オロ爺がそっと近寄り、そう言った。

「悪いな。俺は人が悪いんだ」

「……そうハッキリ言われますか」

「ああ。俺は試したくなった。本当の意味で解放されるか楔に絡め取られるかを」

「人が悪いと言いましたがこれもまたセイ様なりの考えなのですな。荒療治に勝る強き意志を持っていると信じておられたから今こうして試されたのでしょう?」

「……」

「無言は肯定と受け取っておきますぞ」

 オロ爺はそっと元の位置に戻る。

 全員の意識が戻った頃合いで、やりとりの話を再開する。

 暴動を受け、王や王女は王城で動けないこと。あの日勇者召喚が王城内で行われたこと。王都の暴動を鎮めるために勇者召喚を先んじて発表し、矛先を反逆勇者へ向ける方策を取ったのではないかという推察を含め、俺と白石さんが王都内で反逆勇者と呼ばれていることを話す。

 話すうちに皆の中で、俺の存在がなにかを薄々気づき始める。

 いつかは話さなければいけなかった。話す必要性は今まで訪れなかった。その必要に迫られたのが今なのだろう。今が一番打ち明けるにはベストで、話す時だという事なだけだ。

 この場の全員へ包み隠さずに明かした。俺と白石さんが異世界からこの世界に勇者召喚で召喚されたこと。元々この世界の人間ではないこと。真実味を持たせるために勇者召喚された際の王の間での出来事を説明した。

「やはり‼︎」

「えぇえぇー‼︎」

「ガウ‼︎」

「ブロロッ‼︎」

「……‼︎」

 壇上の面々はもちろん、

キリュウ(てめぇー)が……‼︎」

「救世主様が……‼︎」

「セイセイが……‼︎」

「セイ様が……‼︎」

「異世界人……‼︎」

「異なる世界から……‼︎」

「勇者召喚……‼︎」

「凄い人だ……‼︎」

「あの日そんなことが……‼︎」

「とんでもない人だ……‼︎」

 この場に集う全員が驚愕する。

 こうして全員が俺と白石さんを指し示す反逆勇者と呼ばれる意味を理解した。理解して浸透すれば、希薄で不確かだった俺の存在が形と成して皆の中にストンと入り込んだようだ。

 全員の認識が確固なものに変わる。

 話すべき事はまだまだある。

 俺は続けて、やりとりの内容を話すのであった。




 ☆☆☆☆☆




 その頃、テンデ・ダーメン侯爵邸に全身白ずくめの赤髪がいた。

「そ、それは誠かぁ⁉︎」

「はい。誠にございます」

「で、ではなにか……あの薄汚い魔の大森林に……いるというのかぁ⁉︎」

「いますね。あたしはこの目で、この鼻で、この口で、存在をしっかりと確認してございます」

「な、な、ななななんということだぁ⁉︎⁈」

「驚かれるのも無理もない」

「あんな場所にな、なぜだぁ⁉︎」

「人目を避ける・た・め・では?」

「ひ、人目を避ける……だと⁉︎――し、信じられん‼︎」

「この目で見たと言っているというのにダーメン様は信じられませんか?」

「し、信じられるものかぁ⁉︎そ、そのような場所にいること自体ぃ……ぐぬぬぬっ……に、にわかに信じ難いのは当然だぁ‼︎そうだろ!お前達!」

「「「テンデ様のお言葉の通りにございまぁーす!」」」

「フッ」

「わ、笑ったなぁ!今このテンデ様を心中嘲笑ったであろう⁉︎」

「はい。面白かったもので」

「こ、こやつめぇ!――」

「やめておいたほうがよろしいのでは?」

「な、なにっ⁉︎⁈」

「「「テンデ様⁉︎⁉︎」」」

「氷漬けの塩焼きにするのは今すぐでも構いませんよ?」

「ひ、ヒィッ‼︎」

「「「テンデ様!大丈夫ですかー⁉︎」」」

「平気ですよ。足を少し凍らせただけではありませんか?」

「「「す、少しだと――‼︎」」」

「暑い熱湯につければ、元どおりに動きますとも」

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――‼︎‼︎‼︎」

「はい。これで元どおりですね」

「「「こ、この悪魔め‼︎」」」

「悪魔で結構」

「「「なっ……‼︎」」」

「ダーメン様はこの目をお疑いになられたので特別にお見せします。そのベタついた頭を握るのは正直気が進みません。嫌で嫌で堪りませんが、仕方ないですから熱湯で洗いますね」

「がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――‼︎」

「「「あ、あいつは悪魔だ‼︎」」」

「少しは綺麗になりました、ね。今度からはしっかり髪の毛の根元まで洗うことをお勧めしますよ。それでは――接続開始」

「ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――‼︎」

「「「て、テンデ様ぁー‼︎⁉︎」」」

「一時的な混乱は致しかたないか。ダーメン様その耳をよくかっぽじって、よーくお聴きください。これは紛れもない事実です。賞金首をその手にすることが叶えば、大金を叩いて手に入れたあの奴隷の元は取れて、それ以上の代物を好きにいくらでも購入できる。まさにマイナス要素はないWINWINじゃありませんか?どうかご検討ください。明日までに行動を起こす気配がなければ、この話は別の方に噛ませます。いいですね?美味しい話は永遠に待ってはくれませんよ?期限は明日まで、以上」

「「「ど、どこへ、行く⁈」」」

「帰ります」

「「「……‼︎」」」

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――‼︎」

 赤髪が消えた後に残るのはテンデ・ダーメン侯爵の絶叫だけであった。


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