17. 桐生静は、名付ける その3
スライムの群れと遭遇。
「「「「「……」」」」」
フルフル震えるスライムは全固体とも青色で、中に異物のような核が存在する。
核を破壊しない事にはスライムは復元すると精霊が教えてくれる。
スライムを遠目から観察する。
目鼻口はないが、敵意を向けてくる。
プルっと動いたか――と思えば、目にも留まらぬ速さで接近するのを肌で感じ取る。
顔を横に傾けた瞬間、
「――⁉︎」
青い残像がシュッと通り過ぎていく。
俺自身の目で捉えられない速度の俊敏な動きに驚かされる。すぐさま精霊を通して視る目に切り替える。
「……すごいな」
俺の頬にかすり傷があった。
血がダラッと流れている。
傷を負わされたとは思わなかった。
砲台から発射されたのかと錯覚させるだけのインパクトを与えた。一匹だけ先行する形で攻撃して来たが他大勢のスライムもまた現在進行形でビューンと飛んで来ているのを忘れてはいけない。
数が数だけに豆鉄砲だ。
この数なら鳩の集団でも簡単に撃ち落とせる豆鉄砲だな。
数の暴力の波が押し寄せる。
一面青一色。青、青、青だ。
しかし最初の一匹と違い速度はそこまで速くない。
「ガウ!」
ヨゾラが地を駆ける。
入れ替えに俺は含まれない。
判定されるのはヨゾラと入れ替える目標のみ。即ちヨゾラの上に乗った俺がいることで、ヨゾラは入れ替えを行使できない。
ボボボボボと突撃敢行するスライムの攻撃を屁でもなく受け続け、最初の位置と入れ替わる形でスライム達とは逆の反対側に移動する。
ヨゾラに突撃して原型を留めていないスライム達は核が無事な為、フルフル震えながら元の形に戻る。
「意外とスライムって強いんだな」
率直な感想をつぶやく。
「ガゥ」
弱いと俺とは違う意見を言うヨゾラ。
確かにヨゾラに突撃敢行されても身体には一切怪我や負傷は負ってない。
弱い発言は間違いないのだが、ただ単純に丸い形で殴りかかったからではないのか?これが刃物の形で突撃敢行した場合どうだろうか?少なからずヨゾラにダメージを負わせられたのではないか。実際やってみないとわからないが実戦でソレをされたら今の場面では違う結果になっていた可能性がある。
目鼻口無しのスライムが俺たちに敵意剥き出しで、再び攻撃を仕掛けようとしている。
警戒さぜるおえないのは、一匹の個体だ。
他と異なり、一匹の個体だけ速度に秀でてる。アクセルの爆発的な加速と違い、素で敏捷値の桁がそもそも高いのであろう。スライムのステータスを確認しようにもできないが、今の俺のステータス以上の敏捷なのは確かだ。
「弱いか。ならヨゾラがソレを証明してくれるな。奴らは弱いと」
「ガウ!」
ヨゾラが気合を入れる。
他のスライムは任せろとは頼もしいな。
俺は背中から飛び降り、着地して言う。
「油断は禁物だ。全力で迎え撃て。核を狙うぞ」
「ガゥガーゥ!」
「……!」
奴の姿が消える。
ソレと時を合わせた如くヨゾラは自慢の入れ替えの能力で、スライム達の背後を強襲する。
「「「「「……‼︎」」」」」
ヨゾラはスライムの核を集中的に狙い、ソレを破壊する。
後方からの攻撃を想定していなかったスライム達が一斉に瓦解する。
予想打にしない一撃を受け、核を破壊されたスライム達は液体のみを残して原型を失う。
ヨゾラの方は問題ないな。
意識を切り替える。
奴の表面の形が横一直線のナイフに変化する。見た目、鋭利なナイフだ。
精霊を通して視る奴は俺の予想した実戦法を既に体得していた。
タネが分かれば、問題はない。
人差し指と中指に風の刃を纏わせ、奴の攻撃を受け止める。
「……⁉︎⁉︎」
奴が驚いて目を飛び出す。
訂正。目鼻口無しは嘘だ。
スライムには目の形を作り出せるらしい。そうなると鼻口も作ろうと思えば作れるのではないだろうか。
奴の速度を乗せた斬撃を受け止めたことで、衝撃を受けた奴は力では勝てないと瞬時に理解してナイフの形を変えて俺の後方へ潜り込もうとする。
「そうくるか。ならこれはどうだ?」
足元の土が一気に盛り上がり、俺の体ごと上空へと一直線に伸びる。
潜り込むはずが潜り込む相手ごと居なくなったことで、縦長の土にぶつかって、奴はコテコテンと地面に転がる。
その時点で、俺は上空から下降中であった。
風の刃を纏った手を伸ばした。
「……‼︎‼︎」
動揺を隠せない奴は身動き一つできない。最後の足掻きで、核を守ろうとハリネズミの如く丸まった。
「合格だ」
フッと笑みを浮かべ、奴の核を破壊する寸前のところで腕を引く。
「……⁉︎⁈」
わけがわからない。
((((;゜Д゜)))))))
ガクガクブルブル震える奴は俺に敵意を向けるのを霧散させてやめた。
まるで降参するように白旗を揚げた。
頭に旗の形を作られれば、嫌でも理解できるというものだ。
「俺と共に来ないか?」
本日二度目の勧誘。
結果は――
「……!」
◯の形だった。
つまり俺と共に来てくれるということだ。
「それじゃ早速名付けを行う」
そう言うと精霊達が止めに入った。
なんと既に俺の魔力は少なく、名付けを行うことが難しい。極限やろうと思えば出来なくはない。デメリットが大きい部分を目を瞑れば、だ。
精霊達に感謝すれば、止めに入っただけで反対はしてない。力を貸すから名付けてあげなよと勧められた。
勿論そのつもりだったから渡りに船だ。俺は精霊達の力を借りて名付けを行うべく、奴へ向き直る。
「お前は疾風の如く速い。俺の世界にいる人の名を与える。風の如く青丸いその身体を誇りにスピード随一で駆け抜けろ。お前は今日からカゼマルだ!」
「……‼︎‼︎‼︎」
瞬間、辺り一帯に風がなびいた。
カゼマルは青い表面をさらに青々しい色に変化して、核の部分が木の葉の形に変質していた。
精霊達がおめでとーおめでとーカゼマルいい名前だねーとカゼマルを祝福して、キャッキャウフフと飛び回る。
「……!」
カゼマルがペコペコと頭を下げる仕草をして、俺は改めて精霊にお礼を言う。
「みんな力を貸してくれてありがとう」
どういたしましてと言葉が返ってくる。
「ガゥガーゥ!」
他の全てのスライムを倒し尽くしたヨゾラが戻ってくる。ヨゾラに新たに仲間に加わったカゼマルを紹介して、スライムの液体全てを回収する。
その際にカゼマルが液体を物欲しそうに見ていたことから液体を半分ほど地面に置く。カゼマルはゆっくりと近づくと液体全てを吸収して、自らの身体を大きくさせたのには驚いた。
手に乗せたカゼマルはすぐに馴染むように吸いついてくる。握った感触は保水率が高いのか、ひんやりした冷たさと柔らかさがある。
新たにカゼマルという仲間が加わった俺たちは木の実や果物やキノコを収穫して空輸しつつ、遭遇する魔物を狩りながらベースキャンプへ帰還するのであった。